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第一話 運命の出会いは死んでから!?

「死ぬな!! 目を開けてくれ!! やっと平和が戻るんだぞ!?」


 悲痛な声を上げ蹲る勇者。

 その腕の中には、生気を失った聖女エレノアが口から血を流し、眠るように横たわっていた。


 聖女エレノアは、長い旅を終え、ついに勇者と共に邪竜を封印した。

 だが、大量の瘴気を浴び、力を使い果たしたエレノアは全てを見届け倒れると、ゆっくりとその目を閉じた。





(──遠くに、勇者様の声が聞こえる)


 曖昧な意識を徐々に浮上させ、次に目を開けた時、エレノアは真っ暗な空間に浮かんでいた。

 微かに聞こえた勇者の声に振り返るも、そこは闇が続くだけで何も見えない。


(──私、死んだのかしら)


 エレノアは自身のことを振り返る。

 邪竜は倒した。

 仲間も無事。

 世界には平和が戻った。

 それは喜ばしいことだ。

 けれど。


(でも、もう少し生きていたかったな……)


 平和になったらやりたいこともあった。

 神殿のみんなにも会いたいし、仲間と笑い合って、行きたい場所にも行って、それに恋だってしてみたかったのに。


 エレノアが感傷的になり始めた時、低く心地良い声がした。


「はい、次の方どうぞ」






 その瞬間、エレノアは見知らぬ部屋に立っていた。


「え!? え!?」


 真っ白な壁紙に、大きなガラス窓。

 ライム色のカーテンが優しく風に揺れ、窓の向こうには美しい草原と青空が広がっている。

 部屋の中央にはふかふかの絨毯、その上には、奥の執務机に向けてゆったりとしたソファーが置いてあり、真上にはキラキラと光を反射させる小ぶりのシャンデリア。

 ローテーブルにはほんのり湯気が上る可愛らしい紅茶のティーセットまで用意されている。


 エレノアの好みぴったりの爽やかな部屋。


 呆気に取られているエレノアに、その部屋に全く馴染んでいないその男が言った。

 

「エレノア・グランポワール。創神歴1143年生まれ。両親が亡くなり孤児として神殿で育つ。13歳で強力な神聖力が目覚め、国からグランポワールの姓を受ける。以来、聖女として活動──間違いありませんね?」


 驚いて目を大きく見開いたエレノアの様子を肯定の返事として受け取った男は、微笑んで頷くと、その視線で彼女をソファへ促した。

 笑みを浮かべ一見温和そうな男には、その表情とは裏腹に息が詰まるような圧を感じる。

 エレノアは男の機嫌を損ねないよう、言われた通りソファに座った。


「あの……もしかしてここは……死後の世界、なのでしょうか?」


 おずおずと質問するエレノアに、男はまた頷いた。


「はい。ここは死後の世界──()()です。そしてここは、生前の行いを元に面談を行い、魂の行く先を決める部屋です。順番が来たので、あなたをお呼びしました」


(なるほど。じゃあ、さっきの暗い空間が待合所のような場所で、やっぱり私は死んだということなのね)


 エレノアは納得しつつ、僅かに肩を落とした。


「そうなんですね。でも思っていたより穏やかそうな所で安心しました」


「いえ。これはあなたの生前の行いや心を総合的に投影して、()()()()()()()()()()()()ので、穏やかだと感じるならば、それはあなたの心根がそうなのでしょう」


 男にそう言われ、エレノアはほんの少しだけ救われた気がした。


「それで、私はこれからどうなるのでしょうか?」


「私からは何とも。彼女はどのように?()()()


 男が呼びかけると、無言でペンを走らせ続けていた男が、俯いたまま口を開いた。


「──エレノア・グランポワール」


 穏やかなチェロの音のような、低く響きのある不思議な声。

 エレノアはその男に視線を向けると、どーーーーーーーん!!と全身を貫くような衝撃を受けた。


「!!!!!!」


 顔を上げた目の前の男──冥王様と呼ばれた彼に、エレノアの大きく見開いた瞳は釘付けになった。


 その瞳は、深い藍色から漆黒に滲み、まるで冷たい空気を閉じ込めた冬の夜空のよう。

 その肌は、透き通るように白く、まるで月の光に輝く深雪。

 無造作にかき上げられた濡羽色の髪は、はらりと頬にかかる一房が艶かしい。

 形良い薄い唇は沈みゆく三日月のように美しい。


 簡潔に言えば、その美貌は全てにおいて、エレノアの好みど真ん中だった。


(ななな、何!?え?何この胸の高鳴り……何これ……好き!!!!!)


 彼女の一目惚れの瞬間であり、初恋の瞬間だった。





 エレノアはドッドッドっと煩い心臓を抑え、食い入るように彼を見つめた。


「エレノア・グランポワール。ここへ来た魂は、本来次の道へ送られるが」


「……はい」


「君はまだ死ぬべき時ではない」


「……はい」


 ポーッとした表情のまま、エレノアは夢心地でただ頷きを返す。


(なんて素敵な方なのかしら。お名前は何と仰るの?)


 彼は説明を続けていたが、その言葉の殆どは、うっとりと見つめるエレノアの頭をただただ通り過ぎてしまっていた。





「──ということだ。わかって貰えたかな?」


「……はい」


「では、最後に何か質問は?」


「あの」


 エレノアは頬を染めたままポツリと言った。


「恋人はいらっしゃいますか?」


 その瞬間、角に立っていた男が「ぶふぅー!!」と吹き出した。


 エレノアは無意識で呟いていたことに気づき、ぼっと顔を赤くして両手で口を塞ぐ。


 冥王は目を丸くすると、美しい眉根を少し顰めて片手を上げた。


「恋人はいない。面談は以上だ。──送還」


 ──パチン。


 冥王が指を鳴らしたと同時に部屋は消え、次にエレノアが目を開けたのは、死んだ時と同じ、勇者の腕の中だった。


「エレノア!! みんな、エレノアが目を覚ました!!」

「なんと!!」

「奇跡だわ!!」


仲間達が嬉し涙を流す中、エレノアは自信が生き返った事を悟り、心の中で叫んだ。


──早くまた死ななくちゃ!! と。


次回、エレノアが暴走します(^_^;)

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