第8話:深海の邂逅!鋼の突き刺しカジキとの遭遇
カジキはムニエルが好きです。
俺は今、完全に絶好調だった。
長く伸びた脚で水を蹴り、遊泳脚で加速、巨大ハサミで獲物を掴み、ばりばり喰らう。
そう、俺は――タカアシガニの上位互換。ハイブリッドクラブ・勝!
「この脚、このハサミ、この機動力! 今なら三ツ星シェフにだって勝てる気がするぜ……!」
クロダイとの死闘を超えて得た魔力は伊達じゃない。
海底の魚たちが、俺を見て逃げ出す。もう完全に海底の覇者である。
とはいえ、調子に乗るのは禁物だ。
調子に乗ってたら、俺はクロダイにボコられたんだからな。反省してる。たぶん。
「とはいえ……もっと強い魔力が欲しいんだよなあ」
欲望は留まることを知らない。進化したばかりなのに、もう次を見据えてしまっている。
というか、腹が減ったのだ。進化には魔力と栄養がいる。つまり、食うしかない。
そんなときだった。
――キィン……!
何かが、水を裂いた音がした。高速で、鋭く、真っ直ぐに。
反射的に遊泳脚で上昇した俺の横を、銀色の閃光がすり抜けた。
「な、なんだ今のは……!?」
ギラリと光る長い吻――いや、槍。
水中とは思えぬ直進力。そして、あの引き締まったマッスルボディ。
「おいおい、あれってまさか――カジキ……!?」
そう。俺の前に現れたのは、海のスピードスターにして天然の突撃兵器、カジキだった。
しかもただのカジキじゃない。背びれに魔力が集まり、体の銀色が虹色に輝いてやがる。
「こいつ……ただの野生じゃねぇ。俺みたいに進化してるヤツだ!」
カジキはゆっくりとこちらを振り返り、その鋭い吻を俺に向けて構えた。
……どうやら、俺のことを**“エサ”**だと思っているようだ。
「おいおい、また食われる側かよ……! でも、そうはさせるかよ!!」
俺は両のハサミを構え、巨大な甲殻で身を守りながら、睨み返す。
「いいぜ、カジキ。どっちがより深く“進化”できるか、勝負してやるよ!」
俺の体に空いた穴の数、数えてたら日が暮れる――
いや、海の底だから日なんて見えねえけどな!
「いってぇええええええええ!!!」
水の中で叫んでも誰も助けちゃくれない。
それどころか、今、目の前にいるのは――
「なんでよりにもよってカジキなんだよおおおお!!」
でかい。鋭い。早い。三拍子揃った水中の殺戮兵器。
まるで魚界のピラミッド上層に位置する暗殺者。
一突きで穴が開く。俺のタカアシガニボディに、まるでストローでズボッと刺すみたいに突っ込んでき やがる。
「くっそぉ……脚が!一本持ってかれた!あっ、二本目も!?ちょ、やめてっ!!」
普通ならここで終わってた。
だけどな、俺は今までだってギリギリで勝ち抜いてきた。
アジには毒、クロダイにはハサミカウンター。
今回はどうする!?どうすんだ俺!
――そうだ。カウンターしかねぇ!
「おいカジキ、突っ込んでこいよ……こっちは準備できてっからな!」
見せてやるよ、これが“経験”ってやつだ!
俺は傷だらけの脚で構えをとる。
大きく開いたハサミ。脚は海底に根を張るように沈めた。
あとはタイミングを合わせるだけ――!
カジキが直線的に突っ込んできた。ものすごい勢い。
もう、もうちょい……今だ!!
「うおおおおおお!!“必殺!ツインハサミ串刺しッ!!”」
俺のハサミがカジキの両眼を――ぶすりッ!!!
止まった。ぴたりと。
あれだけ突進してきたやつが、急にフリーズ。
そして、ぐるんっと回って、そのまま地面にドンッ!
「勝った……!ほんとに勝った……俺、死ぬほど痛いけど、勝ったァ!!」
カジキからブワァっと出てくる魔力と栄養が、体にぐんぐん流れ込んでくる。
頭がくらくらする……いや、これは感動か?失血か?
勝の最終進化も近いかもしれない。