第2話:干潟での死闘
干潟は大切にしよう
この世界での生活にも少し慣れてきた俺は、相変わらず砂の中でモゾモゾと微生物を食べていた。
ところがある日、気づいてしまった。
「……なんか、体の中に、力が溜まってる?」
それはまるで、“魔力”のようなもの。しかも、周囲の生き物たちも体からうっすらとそれを発しているように見える。
(まさかこの世界、ゲームやラノベみたいな“魔力”が支配してるのか!?)
俺は仮説を立てた。「この世界には“魔力”が存在し、それを溜めれば強くなれる」と。
そして俺は、魔力の多い有機物を優先的に捕食し始めた。
……いや、つまりちょっと良いミミズとか、イソメっぽいなにかとかだ。
魔力を満たしたある日、体に異変が起きた。
(脱皮……!?)
全身がバリバリと音を立てて殻を破る。
痛みと快感が混ざり合いながら、俺は――進化した。
少しだけ大きく、少しだけ硬くなった。
前より強く、速く、重く。……多分。
(これが“成長イベント”ってやつか!?よーし、そろそろ俺も狩りデビューしちゃおうかな!)
意気揚々と干潟を歩いていた俺は、1匹のハゼを見つける。
体格差、10倍以上。
でも俺はすでに、“魔力”というチートを持ってる。
(行くぞ、魔力全開ハサミアタック!)
ズバン!
ハゼの口元に突っ込んだ俺のハサミは――スカッと滑った。
そう、ハゼ、めっちゃヌルヌルしてる。
逆にこっちが「ぬるり」と吹っ飛ばされ、泥の中にダイブ。
(あれ……なんか、弱くない俺……?)
それでも、俺の体の奥に宿る“魔力”は、まだ終わってないと叫んでいた。
そのとき、脳裏に閃いた。
(そうだ……ハゼの外殻がダメなら、内側から叩くんだ!)
次の瞬間、俺はあえてハゼの大口へ飛び込んだ。
内臓めがけて、ハサミをねじ込み――インナー・ハサミクラッシュ!!
グシャリ。暴れるハゼ。
そのまま地面にバッタリと倒れ、動かなくなった。
(やった……やったぞ……!)
――その代償に、俺の歩脚は2本、ぽっきり逝っていた。
痛い。すごく痛い。もう動けない。
でも、心はなぜか晴れ晴れとしていた。
(これは……進化への通過点だ)
たかがコメツキガニ、されどコメツキガニ。
俺はこの干潟で、ひとつの命を越えたのだ。
次回はカニが進化します。