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エレメントブレイヴ4 ~新作死にゲーに閉じ込められて、困ってます~  作者: 白銀悠一


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竜塵砂海(中編)

 暑い日に飲みたい物と言えば何か。

 人それぞれ、好みはあるだろう。しかしほとんどの人はこう付け加えるはずだ。

 

 冷たい飲み物、と。

 フミカたちもまた、ひんやりとしたドリンクを補給していた。

 一気に飲んで、オヤジチックに息を吐く。


「くかぁー!! キンキンに冷えた花蜜は最高だね! 流石ヨアケさん! 天才の発想ですよ! もはやこれは天使級です!」

「何よりですわ。確かに天使的うまさ、というものかもしれませんね」

「死ぬほどうまいと言い換えてもいいな」

「そいつは勘弁だぜ……」


 苦々しい表情のカリナ。咎人牢墓で味わったあの花蜜を思い出したのだろう。

 これまで安全だったもの、有用だったものが牙を剥くあの感覚。

 

 正直に言えば、フミカも二度とごめんだ。

 安全なものは安全なままであって欲しい。

 

 ちら、と視線を送る。

 大きな泉の中に浮かぶ、とても小さな妖精に。


「ミリルも飲んでみたら?」

「ボクに必要は――」

「いいから」

「むぐっ!?」


 顔から浴びるように花蜜を受けたミリルが、抗議の眼差しを返してくる。

 が、即座に態度は軟化した。もしかしなくても、口に入った花蜜が原因だ。


「ま、まぁ、悪くはない……けれど」

「意味がないことだって、してもいいでしょ? 極端に言っちゃえば、それが生きるってことなんだし」

「お前は無駄の割合が多すぎるけどな。勉強に割り振らなきゃいけないリソースもゲームに費やしてるだろ」

「うるさいなぁ。いいんだよ。ゲームは人生なんだから」

「ゲームは、人生……」

「それじゃ生活できないだろ」

「できますぅ。どうにかしてくれるって。未来の私がね!」

「他力……いや自力……? どのみち無理じゃねえの……?」

「……ボクはいいと思うよ」

「ホント!? だよねーミリルならわかってくれると思ってた!」


 フミカが満面の笑みを作ると、ミリルは顔を背けた。

 恥ずかしがっているのだろうか。なんにせよ、以前より打ち解けてきている気がする。

 

 このまま、仲間から友達にクラスチェンジできる日も遠くなさそうだ。

 コミュ障で友達が少ない自分が、である。

 

 流石、私。やればできる子。 

 などと、自画自賛したところで。


「じゃ、ヨアケさんも復活してだいぶ経ちましたし。先延ばしにしてた問題と対峙しますか」


 全員の視線が、泉の傍に生えるヤシの木に集中する。

 そこに隠れるようにして腕を組んでいる、顔をスカーフで覆っている男へと。




「ここに辿り着いたということは、なかなかの勇敢さだな。尊敬してやるよ」

「なんだこいつ、偉そうな奴だな」


 早速食って掛かるカリナ。

 茶色いスカーフ男は、吟味するようにフミカたちを見比べた。


「しかしこのエリアは、あらゆる場所と比較しても過酷だ。無事に生き残れるか……ふん、どうせ死にはしないか。生きたまま砂に埋もれないよう気を付けるんだな」

「なんだって――」

「暖簾に腕押しするようなものだ。やめておけ。本題に入ろう」


 ナギサに窘められて、カリナが身を引く。

 スカーフ男がようやく本題に入った。


「俺は情報屋だ。ここまで辿り着いたことを祝し、一つ、耳寄りな情報を教えてやろう」


 チッ、というカリナの舌打ち。暑さで普段よりもイライラしているのかもしれない。


「この世には、摩訶不思議なものがある。例えば、楔の花なんてのは最上級の神秘だな。由来はせいぜいが伝説だけ。神が植えた花だと言う奴もいれば、星から降ってきたなんて話もある。或いは、祝福に見せかけた、呪いの花だって言う奴も。けどよ、不思議じゃないか? みんな花は見たことあるのに、種を見たことがない。花が生えるためには、種子が必要なのにな」

「確かにそうですわね」


 ヨアケが相槌を打つ。情報屋は饒舌に続けた。


「噂では、どこかに、種があるらしい。近くには守護者がいて、それを見守ってるとか。なんでも、楔の花とは別系統の不死の守護者らしいが、心当たりあるか? もしあれば、よく探ってみることだな。なあに、気にすることはない。不死ならば死なん。少しくらい殴っても、ちょっと怒られるぐらいで済むさ」

「何かありますか? フミカさん」


 ヨアケはフミカを真っ直ぐ見つめてくる。過去の記憶を思い起こそうと、うんうんと唸る。

 しかし思い当たらない……厳密に言えば、死なない敵ばかりでどれが対象なのかがわからない。

 

 種自体もここに至るまでいくつか入手している。

 回復用の木の実だとか。調合用の種子だとか。


「うーん、それっぽい敵、多くないです?」

「不滅の敵だらけですからね。それにまだ出会っていない可能性もありますから。……ミリル、あなたはどうです?」

「どうしてボクに?」

「フミカさんは、そしてわたくしたちはプレイヤーです。ですがあなたは違う。そうですね、細かく言えば違いますが、ゲーム実況を見ているリスナー……とでも言えばいいでしょうか。見え方が、わたくしたちとは違うはずです。そして、気付きもまた」

「……知らないよ」

「そうですか。なら仕方がありませんわね。後でいっしょに考察しましょうか。このステージを、クリアしてから。でないと……」

「でないと?」

「またもや、溶けて、しまいそうです……」


 微笑みながら倒れかけるヨアケ。


「わ、わーっ!? 急いで泉に!」




 ※※※




「申し訳ありませんが、先に進んでくださいますか? 後から追い付きますから……」


 真っ青なヨアケに言われて、カリナたちは三人で進むことになった。

 うだるような暑さではあるものの、情けない……とは少し思ったものの、虫沼の楽園での失態を思い出し、言及するのはやめておいた。


「進むのはいいが、どこに行けばいいんだこりゃ」

「向こうだな、恐らくは」


 迷いなく方向を指し示す、人間探知機もといナギサ。

 その超人っぷりをすごいなとは思うが、嫉妬はしない。

 ただ、


「流石ナギサさんですね!」


 目をキラキラ輝かせるフミカ。

 そっちの態度は引っかかった。


「さっさと行くぞ。暑いことに変わりはないんだからな」


 オアシスの存在は心の拠り所にはなるが、あくまでも精神的にマシというだけだ。キンキンに冷やした花蜜にも限りがある。幸いにも冷却効果は保たれているので、人一倍暑さに弱いヨアケ以外なら問題なく活動できる。

 ただ、一度飲んでしまえば冷やし直しだ。いつもよりも神経を使う。


「でも、ナギサさんの探知でどうにかなりそうです。ありがとうございます! 良かったね、カリナ!」

「ふん。そうだな」


 鼻を鳴らすとフミカが不思議そうな顔をする。

 こっちの気を知らずに、ナギサはそそくさと進み始めた。

 

 暑さを物とせず先導して、軍人みたいにハンドサインを出してくる。

 止まれ、とのことだった。

 

 先の砂を指し示す。砂がいくつも盛り上がっているのが確認できた。

 小声で静かに囁いてくる。


「ここに先程のドラゴンが9体ほど潜んでいる」

「で、どうすんだ。このままバトルのか?」

「私は構わないが、君たちはどうする? 花蜜はなるべく温存しておきたいだろう?」

「そうですね……無傷で突破したいところです」

「魔法で一掃するか?」

「けど、ドラゴンって元々あまり魔法が効かない生き物なんだよね」


 つまりせっかくの高火力も形無しであるらしい。


「皮膚は強固に思えた。となれば、打撃が有効だ」

「それはいいんですけど、流石にこの数の相手は無理ですよ」


 しかし釣るのも難しそうだった。一匹が反応したら最後、全ての敵がアクティブになるだろう。


「音を聞く限り、彼らは回遊しているようだ。魚のようにな」

「と言いますと?」

「タイミングを見計らって音を出せば、出現位置をコントロールできる。そこをフミカ君が叩くんだ。こちらに接近するまで、地上に姿を現さないようだからな」

「いいですね。けど、どうやって」

「こうするんだ」


 おもむろにナギサがナイフを投擲する。

 と、そこへ複数の砂だまりが動き始めるのが見えた。最初こそ盛り上がっていたが、深く潜ったのか沈んでしまう。これでは、どこからどのタイミングでやってくるかわからない――ナギサを除いては。


「右だ」

「はい!」


 フミカが右へとメイスを振るった瞬間、タイミング良くドラゴンが飛び出して、その脳天に直撃を受けた。


「左」

「はい!」

「前、右斜め前」

「はいっはい!」


 モグラ叩きのように効率よくドラゴンを叩いていくフミカ。

 その姿はまるで正月の代名詞、餅つきのようだった。

 

 息ぴったりの職人が、阿吽の呼吸で餅をつく。

 周囲のギャラリーはただ、歓声を上げながら見つめるだけ。

 二人以外、割って入る余地はない――。


「……っ」

「いい具合にダメージを与えたな。まとまってくるぞ。前方だ」


 今度はわかりやすく巨大な砂だまりがフミカの元へ移動してくる。

 そこへ、フミカは勝ち気にメイスを構えた。


「行きます! 地割れ打ち!」


 フミカのスキルで一網打尽となったドラゴンたちは、悲鳴を上げて絶命。

 敵を殲滅したカリナたちは順調に目的地へと進んでいく。


「こりゃなんだ? 遺跡か?」


 現れたのは、かつては壮大だったであろう建築物。

 古代文明の遺跡とでも言うべき廃墟が点在している。


「アルタフェルド王国のもの……ですかね?」

「ここに来るまでいくつか文字を見たが、形状が違う。別の文明なんじゃないか。ヨアケならもう少しわかるだろうが」

「なんにせよ滅びたんならどうでもいいだろ」

「こういうのが攻略の鍵になったりするんだから。ちゃんと考察しないともったいないよ?」

「フミカ君の言う通りだ。調査した方がいい」


 フミカとナギサの意見が一致している。

 ただそれだけのことなのに、妙な感情が内側から溢れてくる。


「チッ。じゃあ、さっさと済ませろよ。あたしはアイテムがないか見てくる」

「あ、待ってよ。カリナ。私も行くから」

「いや別に一人で――」

「それはナギサさんの役目。でしょ?」

「……好きにしろよ」


 嫌な態度を取ってしまう。

 そんな自分に嫌気が差しながらも、カリナはフミカと探索を始めた。



 ※※※



 どちらかというと、エジプトだとか、そういう砂漠系の遺跡だった。

 フミカの脳を占める要素は大抵がゲームだが、幸いにして遺跡調査も経験がある。

 

 もちろん、ゲームで学んだ知識だ。

 トレジャーハンターが主人公のゲームのおかげで、ちょこっとだけならわかる。

 無論、現実の考古学や遺跡調査とはかけ離れているだろうが、


「同じゲームになら通用するよね……!」


 鼻歌交じりに壁画をチェックする。文字らしきものが書かれているが、当然読めない。

 それでも絵は理解できた。ドラゴンの絵だ。

 

 たくさんのドラゴンと、人々がいっしょに暮らしている絵。

 薄暗い石造りの建物の中を、カリナと見て回る。


「やっぱりドラゴンと関係があるみたいだね」


 ちら、とカリナを見る。彼女は苛立っている。

 原因は暑さのせいか、はたまたそれ以外か……。

 いいや、きっとそれ以外だ。


「なんか、ごめん」

「なんで謝るんだよ。悪くないのに」


 似たようなやり取りを、ゲーム内で出会ってすぐにした気がする。

 でも、今回は確信があった。とりあえずで謝っているわけではない。


「自意識過剰だったらさ、恥ずかしいんだけど」

「あ?」

「直接的な原因じゃないとは……思うけど、無関係ではないよね? カリナが怒ってるの」

「は? なんでそう思う――」

「わかるよ、もう」


 カリナへ距離を詰めて、その瞳を見つめる。

 カリナが不機嫌になった時、必ずと言っていいほど、自分と関係していた。

 なんでそうなるのか。ロジックは説明できないし、完全に理解しているとは言い難い。

 

 でも、自分が関わっているのは確かなのだ。

 だから、この謝罪には正式な理由がある。因果がある。


「だ、だとしてもおかしいだろ。悪いわけじゃないのに謝るのは――」

「悪いから謝ってるわけじゃないよ。気苦労かけてごめんねってこと」

「だから――」

「……誰にでも言う訳じゃないよ? カリナだから、言ったの。親しき仲にも礼儀ありってやつ」

「なら……いいか」


 カリナは顔を背けた。自然と笑みがこぼれる。

 会話を続けようとして、ナギサの声が反響した。


「重要そうな壁画を発見した。来てくれ」



 ※※※



 砂埃を被った、ところどころに欠け、ひび割れ、色褪せた壁画。

 それでも、大事な部分は残っていた。


「ドラゴンと……花……?」


 黒色の巨大な竜と、これまた同じくらい大きな金色の花が描かれている。


「楔の花だと私は推察するが。君はどう思う」


 ナギサの問いかけに、フミカは顎に手を当てた。


「私もそう思います。けれど――」

「なんか、怪獣映画みたいだな」


 カリナの例えはわかりやすい。

 まさに怪獣同士が睨み合っているような。

 特撮映画のワンシーンめいた壁画だ。

 

 設定では古代の人々が描いたということになっているが、実際これを作り上げたのはマメシステムズというゲーム会社のプログラマーであり、デザイナーであり、シナリオライターだ。

 そういうジャンルのオマージュが含まれていても不思議ではない。

 そこまで考えて、ナギサは思考を改める。


(メタ読みは良くない、か。黙っておこう)


 フミカが続ける。


「やっぱりこれ、戦ってるように見えるよねえ」

「ま、喧嘩前の睨み合いだわな」

「或いは、決闘に臨もうとしている最中だ」


 ナギサとカリナは視線を交わした。が、カリナから視線を外した。

 そのことに違和感を覚えつつも、フミカの考察に耳を傾ける。


「竜と花が争ってる……。そして――」


 フミカが壁画を指す。指先には、花の元に集った人々がいる。

 剣や弓、槍を掲げる古代人の姿が。


「多勢に無勢だな」


 少数のドラゴンと、花の元に集まった軍隊。

 どちらが勝利者であるのかは。


「む」

「何か気付いたことでも?」

「ヨアケに任せるんじゃなかったのか?」

「いや、私は特に考察を深める気はない。専門外だからな。だが、こちらは別だ」

「こちらってなんだよ?」

「あちらと言い直すべきか」

「あちら――」


 ナギサは天井に向けて人差し指を立てる。

 今にも崩れそうな天井に開いた穴を。

 すぐさま、轟音と共に揺れが起きた。


「なっなんだ!?」

「地震!?」

「違うな。原因はアレだ」


 示し合わせたかのように、覗いてくる。

 巨大な瞳――黒きドラゴンの眼光が。


「粋な演出だな」

「ま、まずいっ!? 潰されちゃう!」

「案ずるな」


 予期していたナギサの右手には、クロスボウが装備されている。

 瞳に直撃を受けたドラゴンが絶叫する。


「目薬にしては刺激的過ぎたか」


 天井越しでも、行き先はわかっている。ナギサは駆け出した。


「ナギサさん!?」

「あの眼光、見覚えがある。私に任せてもらおう」


 瓦礫が転がる薄暗い遺跡を、詰まることなく進んでいく。

 自身の持つ身体ポテンシャルを余すところなく発揮して、灼熱の砂地へと到達した。

 そこへ現れる巨大な影。

 

「久しぶりだな。竜の通過路以来か」


 上空から飛来する黒色の竜。死黒竜ハイバリ。

 その頭部には、傷がある。ナギサが突き刺したサーベルの切創が。

 形状は多くの人々が想像するドラゴンそのもの。

 

 ただし巨大だ。渓谷に掛かった長橋を容易く落下させるほどに。

 しかし大きさが必ずしも強さに直結するとは限らない。


「ふむ。細かなディティールは異なるが、あの壁画の竜に似ているか」


 吠えるドラゴン。滞空しながら、大きな口を開く。

 ドラゴン系のオーソドックスな技――火球砲撃。


「いや、考察は私の役目ではなかったな」


 流星の如く流れ落ちる火球。地上を爆撃し、砂煙が周辺を包み込む。


「的が小さすぎて、当たらないか?」


 煙を貫くように精確に、矢はドラゴンの頭部――古傷へと命中した。

 悲鳴を上げながらドラゴンが砂上へと接地。

 

 弓からサーベルへと武器を変え、ナギサは疾走する。

 ライフゲージの減少は、三撃を与えたにしては減少率が高い。


(古傷でのダメージボーナスか)


 どうやら前回傷付けた頭部が弱点化しているらしい。

 これまでの相手はいくら手傷を負わせたところで、その傷が継続することはなかった。

 これも考察ポイントだろう。つまり、考える必要はないということ。


「私好みだ」


 戦いはシンプルな方がいい。

 肉薄したナギサを、ドラゴンが前足を振るって叩き潰そうとする。

 

 それを跳躍で難なく回避。加えて、擦れ違い様に斬撃を見舞った。

 今度は身体を回転するようにして、尻尾で薙いでくる。

 

 ブレイブアタックにて迎撃。タックルも同様に。

 ナギサにとっては、砂漠に潜んでいた小柄なドラゴンも、巨体が自慢のハイバリも大した違いはない。

 倒せる相手。倒す、相手。


「肉が食えれば良かったんだが」


 養父によって、サバイバル術は一通り叩き込まれている。

 例えドラゴンだろうと、美味しく調理する自信がある。

 が、今回は流石に披露する機会はなさそうだ。


「残念だな」


 機会に恵まれないのも。

 このドラゴンの(よわ)さも。

 ドラゴンが今一度の大咆哮。必殺の一撃を敢行するつもりだろう。


「訂正しよう――」


 無害の一撃……否。

 墓穴の一撃だと。

 ドラゴンは炎を吐き出しながら突撃してくる。

 サーベルによる斬撃(ブレイブアタック)が炎を霧散させる。

 構わず突進する竜。

 

 大して、動じることなく剣を構えるナギサ。

 凛とした眼差しと共に放たれるのは。


「言い得て妙か」


 サーベルを鞘にゆっくりと仕舞う。

 剣術スキル、竜殺し。

 

 竜を屠るための一閃を受けたドラゴンは、血しぶきを上げて絶命する。

 死体が作り上げた砂埃が周囲を覆う。

 その不快さも、ナギサにしてみればそよ風と同じだ。

 

 視界が晴れる前に一点を見つめる。

 砂埃がなくなると、強烈な日差しが襲ってくる。

 

 苛烈な太陽すら、ナギサは意に介さない。

 その影響をまともに受けている仲間が、嬉しそうに拍手をした。


「すごいすごい! 流石ナギサさん!」

「造作もないさ。それに、すまなかった。獲物を独り占めしてしまって――」

「全然いいですよ! そういう時だってありますよね! ゲーマーあるある、です!」

「ふっ、確かにな」


 此度の戦いは、効率が良かったから行ったのではない。

 純粋なこだわり、戦闘欲だ。戦いという気持ちがゆえだ。

 これならば、ヨアケも理解を示してくれるだろう。

 

 歯ごたえはなかった。

 されど、スカッとした。


「ありがとう。……む」

「ナギサさん?」

「いや、なんでもないさ。そろそろヨアケも復活したはずだ。迎えに行こう」

「はい! 考察を進めましょう!」


 フミカは意気揚々として変わりはない。

 しかしナギサは見逃さなかった。

 不服そうなカリナの表情と、その小さな呟きを。


「あたしだって、もっと……」

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