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エレメントブレイヴ4 ~新作死にゲーに閉じ込められて、困ってます~  作者: 白銀悠一


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忘却されし屋敷(前編)

 視界をうっすらと覆う霧。

 波風立てぬ湖に、静寂を保つ木々。

 湖畔のほとりにある古びた屋敷を、フミカたちは訪れていた。


「一体どうなってんだ? こりゃ」

「さぁ……。でも、綺麗なところだね」


 屋敷へは殺戮砦から辿り着いた。

 ボス部屋に鍵は存在せず、代わりに隠し扉があったのだ。

 

 殺戮砦とは真逆の閑静な土地で、地続きとは思えないエリアだ。

 しかしこの独特の地形が、エレブレシリーズの特徴の一つでもある。

 環境の温度差で、プレイヤーに風邪を引かせてくるのだ。 


「とりあえず入りましょうか」


 扉が軋んで、ゆっくりと開く。

 薄暗いエントランスは、侵入者を淡白に迎え入れた。


「二手に分かれて探索するのがいいかなと思いますけど、ヨアケさんはどう思います?」

「わたくしもその方がいいと思いますわ」


 フミカたちの意見に、カリナたちも同意してくれた。

 カリナが館をぐるりと見回す。


「あんたはお嬢様だろ? こういう、別荘とかには詳しいんじゃないのか?」

「うちの別荘とは全然造りが違うので、なんとも言えませんわね」

「でも別荘はあるんだ……」


 ヨアケのお嬢様っぷりには、庶民として驚きを隠せない。


「現実に戻ったら、招待いたしますわ」

「えっ、いいんですか!?」


 縁もゆかりもない世界に、足を踏み入れるチャンスだ。

 俄然クリアする気になってきたフミカに、ミリルがそっと近づいてくる。


「そういう約束は、気軽にしちゃダメなんじゃないかなー」

「……どうして、でしょうか」


 心なしか、ヨアケの瞳が鋭さを増した。


「い、いや別に。理由はないけど……」


 はぐらかすミリルを遮って、ナギサが問う。 


「組み合わせはどうする?」

「今回は馴染みで。ね?」


 ヨアケがウインクする。

 ハッとしたカリナが、なぜかフミカのことをじっと見つめた。



 ※※※



「敵、出てこないねえ……」

「ああ、そうだな……」


 カリナは相槌を打ちながらも、その視線は一点に集中している。

 隣を歩くフミカの、横顔に。


「どうかした?」


 不意にこちらを見上げて、愛くるしい笑顔を見せてくる。

 その仕草で、心臓がドリブルさせられる気分だ。

 

 カリナの心は、すっかりフミカの手の中だ。本人は自覚していないだろうが。

 我ながら好きすぎるだろ、と呆れたくなるぐらいに。


(反動ってやつか? 離れてた分だけ、いろんなものがバグってやがる……!)


 このバグを潰すための修正パッチは、きっと複雑で、容量過多に違いない。

 そして、インストールする気もカリナにはなかった。


「何か考え事?」

「い、いや。……アルディオンの鎧、使わないんだな」

「確かにカッコいいけどさぁ。アレがねえ」


 苦々しい表情のフミカは、きっとボス撃破後を思い出している。

 アルディオンの怨霊が、フミカに組み付いた時のことを。


「なんか不吉だしさ。デザインも禍々しいし……」

「ゲーマーとしての所感はどうなんだよ。考察とか」

「正直まだまだ情報が足りないよ。なんで私なのかもわからないし」


 アルディオンを直接倒したのはナギサ・ヨアケタッグだ。楔の花の破壊はフミカだが、恨むならあの二人が筋だろう。

 しかし、亡霊は迷いなくフミカに呪詛を吐いた。


「か、可愛いから……だとかな」


 顔を赤らめながら言うと、フミカははにかんでくる。


「えーっ、そんなこと、言われたことないよ」


 それはみんなの見る目がないからだ、という言葉を飲み込む。

 もし間違って口走ってしまえば最後、決壊したダムのように想いが溢れて止まらなくなる。

 

 そうなればきっと、友達ではいられない。

 うまくいけばいい。でも、そうはならなかったら?

 

 カリナとそういう関係になるなんて、考えられない。

 そんな風に、言われたら。もう立ち直ることなんてできない。

 ナギサは自分のことをガッツがある、なんて評していたが、そんなことはないと思う。


「たぶん、私がホストになってるんだと思うんだよね。ミリルは私の世界を中心に同期したんだよ。だから、あらゆるイベントの中心が私になってるんだと――カリナ? 聞いてる?」

「え? えっと……」

「もうしっかりしてよ? 頼りにしてるんだから」

「頼りに? そっかぁ」


 思わず口元を緩ませてると、フミカが部屋へと入っていく。


「私はこっちの部屋を調べてみるから、カリナはそっちをお願い」

「ああ……」


 言われるがまま入った部屋は食堂だった。長方形の凄まじく長いテーブルの上には、火のない燭台と空の皿が並んでいる。

 

 ここにも敵らしき敵はいない。

 ヨアケなら何か気付くのだろうが、カリナにはわからない。

 それでも自分のできることはする。頼りにされてるのだから。

 

 皿の下とかに何かないか?

 そう思って、皿を持ち上げた時だった。


「な、なっ――く、うむぐ――!?」


 フミカの悲鳴。

 カリナは皿を手にしたまま走り出す。 


「フミカ!」


 勢いよく扉を開けて。

 目に入った光景に、絶句する。


「うぬむ、むくうぐ――!!」


 奪われていた。

 とても大事で、大切で。

 欲しかったけれど、望むには恐ろしくて。

 それでも、心から欲していたものを。

 

 フミカに、緑髪の青いドレスを着た少女が抱き着いている。

 互いの唇を、重ね合わせながら。

 

 ガシャン、と。

 手から滑り落ちた皿が、砕け散った。



 ※※※



「なんかちょっと変だな……」


 書斎らしき部屋で、フミカは眉間に皺を寄せる。

 気になるのは、カリナの様子だった。

 

 彼女について考えることが多くなった。最近……という表現を使いたいところだが、現実世界ではまだ二時間経つかどうかだ。

 しかし体感では数週間分、或いはそれ以上の、濃密な体験をしている気がする。


(きっかけは、あれだよね……)


 虫沼の楽園。

 クモにグルグル巻きにされた時だ。

 あの時から、妙にカリナを意識してしまう。

 

 ヨアケと急に仲良くなったのも、いいことのはずなのになぜだかもやもやするし。

 さっきみたいに、カリナに見つめられるのも――悪くない気がする。

 ヤンキーに睨まれたりなんかしたら、震えるのが普通なのに。


(私も、ちょっと……変、かも)


 でも嫌な気はしない。

 こんな関係がずっと続けばいいな、なんて。

 お気楽に思った瞬間、背後から声を掛けられた。


「やっとお帰りになられたのですね」

「うわおう!」


 ビクッと肩を震わせて、振り返る。

 穏やかに笑う美少女が目に入った。ドレスを着込むお嬢様……と言えばミラ姫を彷彿とさせるが、こちらは深窓の令嬢といった風貌だ。

 緑髪の、青いドレスを身に纏う少女はとても美しい。

 

 これまたネットを沸かせそうなキャラクターだ。

 マメシステムズのキャラ造形が天才過ぎる。呑気な思考が頭をよぎる。


「えっと、あなたは?」

「長く長く、気の遠くなるように長く、お待ちしておりました」


 会話が成立していない。その時点で警戒した。

 流石のフミカも、もう引っ掛からない。

 あえて乗せられるのもありだが、それは現実に戻ってからの楽しみに取っておく。


「残念だけど、引っ掛からないよ」


 フミカは、いつでも逃げられるように距離を取る。


「本当に本当に……嬉しいです」


 ほろり、と涙を流す少女。その姿は可愛い。


「不肖オラクル、末永くよろしくお願いいたします」

「だから人違いですよ」


 あまりにも言葉が通じないので、フミカは扉へと手を伸ばす。

 カリナと合流して……いや、ヨアケたちを呼んでもいい。

 全員で考察した方が、何かわかるかもしれない。

 そう思って、ドアノブをくるりと回した時だった。


「では約束通り、交わしましょう。口づけを」

「えっ!?」


 気付けばお腹にツタのようなものが巻き付いていた。

 花の魔法として、カンパニュラが使っていたものに酷似している。

 ツタはフミカを引っ張って、瞬く間にオラクルの元へ連れ去れていた。

 

 フフフ、と笑顔を見せるオラクル。

 身体はしっかりと両腕で拘束されている。

 

 その笑顔は美しいはずなのに、狂気を孕んでいる印象を覚えた。

 顔がどんどんと近づいてくる。

 逃げられない。


「な、なっ――く、うむぐ――!?」


 唇と唇が触れ合う。

 口づけから逃れようとするが、抵抗する度に力が強くなってくる。

 口内に舌が侵入してきた。絡め捕られて、とろかされる。

 身体の力が、抜けていく。


「うぬむ、むくうぐ――!!」


 声にならない悲鳴を上げる。

 と、ガシャン、と何かが割れた音がした。

 視線を向けると、カリナが蒼白の表情で立っている。

 

 見られた。

 

 そう思った瞬間に、オラクルが拘束を解いた。


「ふふ、うふふふ。愛してます。愛しています。世界中の、誰よりも」

「あ、あなたなんて知らない!」

「あら、あらあら。ふふ、おかしい人。あなたも愛しているんですよ。私を。私と同じくらいに。いえ、私よりももっと強く深く、輝かしく」

「さっきから変なことばっかり!」


 カリナの方を確認しながら糾弾すると、また美しくも狂おしい笑みを返してくる。


「いけずなお方。いいでしょう。遊びましょう。きっとすぐに、気持ちよくなりますから」


 そう言い残して。

 窓を割って入ってきたツタに包まれて、オラクルは外に去って行った。


「い、いやあ、びっくりしたね……」


 頭を掻きながらカリナに話しかける。

 なんでもない風であるように装う。

 

 そうだ。これはただのゲームプレイ。

 なんでもない、ラッキースケベ――。


「…………っ!」

「待って、カリナ!!」


 カリナは走り去ってしまう。

 フミカは条件反射でその背中を追いかける。

 なぜかはわからないが、そうしないといけない気がした。



 ※※※




 古ぼけた廊下を、カリナは無我夢中で駆ける。

 理由はわからないが、足は止まらなかった。

 ただ、逃げ出したかった。

 あの場にあれ以上いることに、心が耐えきれなかったのだ。


「くそ、くそ、くそっ!」


 意味もわからず毒づく。頬を水滴が伝って、自分が泣いていることを知った。

 気が狂いそうだ。頭がおかしくなる。

 感情を、コントロールできない。


「待って、カリナ!」


 後ろからフミカの声が聞こえてくる。

 でも今は逃げたかった。彼女の顔を直視できる自信がない。


「カリナ! うわッ!」


 フミカが驚愕した刹那、カリナの元へ棚に飾ってあった壺が飛んできた。

 装飾品や日用品が、自身の命を奪わんと飛来してきている。

 

 まさに、ポルターガイストのように。

 しかしカリナの反射神経なら問題なく避けられる精度だ。

 速度を落とさず逃走していると、フミカの呻き声が聞こえてくる。


「うわ、たっ、痛っ、いたたたた!」


 フミカはカリナのことを追跡しながらポルターガイストを避けなければならない。

 鈍臭い彼女では、難しいのだろう。


「ついてくるなッ!」

「でも……うわあああッ!」


 フミカの絶叫。はたとして振り返ると、彼女は書物の打撃を受けていた。

 ライフが尽きたのだろう。糧花を残して消えていく。


「そうだ。それでいいんだ……」


 一筋の涙がカーペットを濡らす。

 カリナは攻撃を避けながら、屋敷の奥へ走って行った。



 ※※※



「いなくなってる……!」


 糧花に戻ったフミカは、焦燥感に胸が満たされる。

 何でなのかはうまく説明できない。

 

 でもこのままじゃダメだ。

 この誤解を、急いで解かなければならない。

 

 冷静に考えれば、ナギサたちに声を掛けるべきなのだろう。

 でも、一秒たりとも無駄にしたくなかった。

 飛んできた皿をメイスで壊し、本をシールドで防ぐ。


「一体どこに……!」


 近くの扉を開けて、部屋を見回す。

 いたのは使用人の成れの果て。狂ったように笑うメイドだった。

 メイドを殴って撃退し、廊下を捜索する。

 戦闘音を聞きつけたのか、正気を失った使用人が続々と集まって来ていた。


「邪魔しないで!」


 突撃スキル、シールドタックルで敵集団を薙ぎ倒し、開けっ放しの部屋を流し見るが、見つからない。

 時間が過ぎるたびに焦りが増大する。

 予感がするのだ。関係が壊れてしまうという恐ろしい予感が。


「カリナ、どこに……!」


 もうなりふり構っていられない。フミカは僅かな可能性を掛けて、知っているかもしれない人物を呼んだ。


「ミリル!!」

「いきなり呼ばないでよ。びっくりするから」


 近くにいたミリルが寄ってくる。銀髪の妖精は不満を隠そうともしなかったが、フミカの剣幕に慄いた。


「お願い! カリナの居場所を教えて!」

「い、いや、知らないし……。それに、言ったでしょ? ボクは基本的に不干渉で……」

「一刻を争うの! 急がないとダメなんだ! だから――」


 切実な瞳で懇願する。

 ミリルは困ったように顔を逸らした。


「でも……」

「ミリル!」

「ボクは、カリナの隠れた部屋なんて知らないよ」

「そんな……」


 落ち込むフミカに、けど、と言葉を付け足して。


「ただ、ボクはあっちの通路は探さないかな。なんとなくだけど」

「ミリル……! ありがとう……!」


 心の底から感謝を述べて、ミリルの助言に従う。


「三度目、か。参っちゃうな……」


 当惑するミリルを残して。




 そこは誰かの私室だった。

 壁には絵が飾られ、本棚には本が詰まっている。

 窓からは霧に覆われた湖が見えて、使用感のないベッドが使われる時を今か今かと待っている。

 

 主不在の部屋を、フミカは歩く。

 そして、クローゼットの前で立ち止まった。


「懐かしいね。昔、私の家でかくれんぼしたよね」


 返事はないが、構わず続ける。


「でもさ、クローゼットはズルだよ。ちゃんとルール、決めたじゃん」


 そっと取っ手に手を伸ばし、ゆっくりと開ける。

 縮こまって、カリナが隠れていた。


「フミカ……」

「みーつけたっ。私の勝ちだね。なんて……」


 カリナは狭いクローゼットの中から出てくる。


「まぁ、私もズルしちゃったから、引き分けなんだけど――」


 努めて普段の調子で話しかけるフミカを後目に、一目散に駆け出そうとして、


「待って!」


 その手を掴んで止める。


「離せ、離せよ!」

「やだ!」

「なんでっ……!」

「だって、勘違いされたままじゃ困るもん!」

「勘違い……? 何の!」

「キス!」

「……っ!」


 カリナの動きが止まった。

 ホッと一息を吐いて、その顔を見る。

 気まずそうにカリナは顔を逸らした。


「言っておくけど、私、さっきの……初めてじゃないから」


 我ながらなんて釈明をしてるんだ、と思う。

 そんなことを言う意味が、聞かせる必要性があるのか?

 理性は喚いているが、感情はそれでいいと納得していた。

 

 バカかもしれない。

 でも今、この瞬間だけは、バカでいい。


「何も、勘違いじゃないだろ」


 カリナの雰囲気が一層暗くなった気がした。

 逆効果と言わんばかりだ。その様子を見て確信する。


「ほらやっぱり忘れてる」

「は……?」

「私のファーストキスの相手は、カリナなんだよ」

「え……?」


 瞠目するカリナ。

 フミカは、過去の記憶を呼び起こした。

 

 まさにさっきみたいに。

 かくれんぼをした、あの日のことを。


「昔、私の家でかくれんぼしたでしょ? お母さんに隠れちゃダメなとこ言われてたのに、カリナ、ズルしてたんだよ、覚えてる?」

「……おばさんに怒られた時の話か?」

「そう!」


 どこー? カリナー?

 呼びかけながら家の中を探していた幼き自分。

 

 あちこち探し回っても見つからず、困り果てて座り込んだ時に。

 禁止されていたクローゼットの中から、笑い声が聞こえたのだ。


「あの時はムカついたよ。そりゃ見つからないに決まってるもの。思えばあの時から、不良の片鱗が見えてたね!」

「ルールは破るためにあんだよ……」

「守るためでしょ? もう」


 幼きフミカは、正義の鉄槌を下すことにした。

 大声を出してビビらせた後、勢いよく開けたのだ。

 

 驚いて、体勢を崩したカリナは。

 そのままクローゼットから転げ落ち、フミカにぶつかって――。

 唇と唇が、触れ合った。


「あ……」

「どう? 思い出した?」

「その後、すっげー怒られたんだよな。おばさんに」


 転んだ拍子にカリナが洋服を掴んだせいでぐちゃぐちゃとなったし、激突したことも含めて大目玉を食らった。

 ゆえに、カリナの中では苦い記憶としてカテゴライズされてしまったのだろう。


「たぶん、そのせいで忘れたんだ」

「酷いなぁ、全く。……私は覚えてたのに」

「ってことは、私のファーストキスも……フミカだってことか」


 カリナは事実を口に漏らし、静寂が場を支配する。

 耐えかねたフミカは、場の空気を変えようと苦心した。


「ま、まぁなんにせよ誤解は解けたってことで! それにさ、そもそもゲーム内の話だよ? 現実とは違うんだからさ、さっきのキスだってノーカン、ノーカンだよ!」


 すると、急にカリナに両肩を掴まれた。いつぞやのような、真摯な眼差しで。


「……ゲームの中ならノーカウント、なんだな?」

「う、うん」


 思わず息を呑む。空気感は変わった。

 心拍数と体温が上昇するフミカに、カリナがゆっくりと顔を近づけてくる。

 フミカも、抵抗もなく受け入れて。

 唇同士が接触――。


「ここにいたのか。探したぞ」

「うひゃああ!」


 しそうになった寸前、ドアが開いて飛び退いた。

 お互いに壁に後頭部をぶつけてしまう。


「い、いったぁ……」「くそ、いってえ!」

「何してるんだ?」


 不思議そうなナギサ。その後ろではヨアケが頭を抱えていた。


「ナギサ、あなたという人は……」

「何か見つかったか? 攻略のヒントになりそうなものは――」


 どう誤魔化すかと焦るフミカよりも先に、カリナが反応した。


「変な女がポルターガイストを引き起こしてるんだよ! きっとあの野郎がボスだぜ!」

「え、ええそうです! オラクルって名前の人で……」

「首尾は上々だな。早速探すとするか」

「あ、ああ! ぶっ飛ばしてやろうぜ!」


 足早にカリナが出て行く。ナギサたちも追従した。

 一人残されたフミカは俯き、


(あ、危ない……。状況に流されて、とんでもないことするところだった……)


 そっと胸に手を当てる。鼓動がトクントクンとリズムを刻む。


「でも、嫌じゃ、なかった……?」


 そして、自身の知らない一面に驚いた。

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