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自慢買取業者

作者: 村崎羯諦

「申し訳ございません。親戚の芸能人からもらったサインというのはそこまで珍しい自慢ではないので、買取価格としては低くなるんです。芸能人のランクにもよるんですが、大体十円から五百円くらいが相場なんです」


 出張買取にやってきてくれた自慢買取業者は申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を口にした。


「そんな! 他の人と話すときは鉄板の話なのに………」

「世の中には芸能人はたくさんいらっしゃいますし、兄弟ならまだしも遠い親戚という関係であればあまり自慢にはならないんです。他にもっと自慢できるものってありませんか?」

「そうですね……」


 せっかく出張買取にまできてもらったのだから、何かの自慢は買い取ってもらいたい。それに五十年近い人生を送ってきた自分にもそれなりのプライドがある。私は思いつく限りの自慢できること、自慢できるものを言っていく。


「地元で開催されたスイカのタネ飛ばし大会で二位になった時の賞状はどうですか?」

「優勝ではなく、二位というのが少し弱いですね。それにスイカのタネ飛ばしというよく知られていない大会であることもマイナスです。買取価格としては三十円くらいです」

「左腕のほくろなんですが、つなげると北斗七星の形になるんです」

「人によってはコンプレックスになることもあるので、七十円ですかね」

「クレジットカードの支払い金額がピッタリゾロ目になった時の明細書は?」

「ただの紙切れなので五円です」


 他に自慢できるものはないか。私は考え、ちょっと待っててくださいと買取業者に伝えて、その場を離れる。


「すいません。ちょうど帰省していた自慢の一人息子を連れてきたんですが、これはどうですかね?」


 買取業者は息子を頭の先からつま先まで観察し、息子に質問する。


「失礼ですが、出身大学と現在のお勤め先を教えてもらえますか?」

「出身大学は〇〇大学で、××商事に勤めてます」

「うーん、お父様からしたら自慢の息子なのかもしれませんが、世間一般に自慢できるレベルではないですね……。お父様のお顔を立てたとしても、五百円くらいでしょうか?」


 私は息子を追い返し、困ったなと思った。ここまで自分の自慢を安く査定されたらプライドが傷ついたままになる。私は買取業者に、どういったものであれば高く買い取ってもらえるのかを聞いてみた。


「もちろん世界一とかその人にしかないものであれば高くなります。ただそういったものでなくても、もっとシンプルなものでもいいんです。例えば、健康な体だって自慢できるものですよ」


 私はなるほどと思い、会社で受けた人間ドッグに結果を持ってくる。


「見てください。私の腎臓なんですが、年齢よりも十歳ほど若いと褒められたんです。これはどうですか?」


 買取業者が人間ドッグの結果を読んでいく。それからうーんと腕を組み、難しい表情を浮かべる。


「確かに数値的には申し分ないですが……自慢になるかというと……」

「そこをなんとかお願いします! 私には自慢できるものがもうこれしかないんです」

「わかりました。先ほど健康な体も自慢できると言ってしまった私にも責任があります。出血大サービスで、一万円でどうでしょう?」


 今までとは桁が違う金額に私は大喜びする。ぜひ買取をお願いしますと伝え、そのまま買取手続きに移った。買い取ってもらう対象が腎臓なので、手術の同意書など必要な書類は多かったが、それでも私は自分のプライドが満たされて満足だった。


 数ヶ月後に私は指定された病院で腎臓摘出手術を受け、その後買取業者から一万円が振り込まれた。私はその明細書を何度も読み返しては、自尊心が満たされるような気持ちになった。


 あなたの自慢はなんですか? そう聞かれたら、きっと私はこの明細書をその人に見せるに違いない。

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