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覚える必要はない

 屋敷の中に入ると、目付きの鋭い老齢の執事が出迎えた。


「戻って来るのが少々早過ぎませんか? まだヘルーデンの『魔物大発生(スタンピード)』は終わっていません。こちらの目の盗み、補給物資の運搬を行う輩が居るかもしれませんし、街道の見張りを疎かにして欲しくないのですが? 主は酷く不満ですよ。それとも、戻って来ざるを得ない理由があるのですか?」


 こちらを責めるような問いに、顔に傷跡のある男性が飄々と答える。


「まあ、そう言うなよ。もちろん、理由あってのことだ。ヘルーデンから補給物資の催促ための馬車が来たから襲ったが、それに思わぬ人物が乗っていてな。早急に連れてくる必要があったんだ。だが、あの場の戦力を減らし過ぎるのも問題だからな。だから、俺とこいつだけ運んできたって訳だ」


「一体だれを連れて来たというのですか?」


「あんたが見てわかるかはわからないが、ヘルーデン辺境伯の令嬢――ラウールア・ヘルーデンだ」


 目付きの鋭い老齢の執事にこちらの顔が見えやすいように、顔に傷跡のある男性が横にずれる。

 ラウールアの姿を見て、目付きの鋭い老齢の執事は驚くように目を大きく見開いた。

 今、重要なのはラウールアである。俺のことは必要ないだろうから、従者のようにでも振る舞っておけば大丈夫だろう。

 だから――顔に傷跡のある男性は先ほどまで心を折られた人物とは思えないくらいしっかりしているというか、芝居が上手いな、と思った。

 この場で俺たちのことを告げて逃げ出す――なんてことも頭を過ぎっていたのだが、そんな様子は微塵も感じられない。

 それは青い髪の男性も同様なのだが……なんというか、必ずやり遂げますので仲間たちと同じように檻に入れてください。それでもう手を出さないんですよね? みたいな必死さが感じられた。

 こいつらも、それでいいのか? と言いたい……いや、いいのだろう。だから、こうして協力しているのだから。


 目付きの鋭い老齢の執事は見開いた目を戻し、ニンマリとした嫌な笑みを浮かべる。


「なるほど。そういうことでしたか。よくやりました。主も大層お喜びになることでしょう。これでウェイン・ヘルーデン辺境伯は、こちらの要求を呑むしかありませんね。もっとも、ラウールア・ヘルーデンは嫡子の花嫁として貰い受けますが」


 一瞬――ラウールアから殺気が漏れて、縄を解いて襲いかかろうとしたのが見えた。

 本当に嫌なのだとわかるのだが、できれば今は抑えて欲しい。

 目付きの鋭い老齢の執事は歓喜しているからなのか、それとも愚鈍なのか、ラウールアの殺気に気付いた様子はない。

 顔に傷跡のある男性と青い髪の男性ですら気付いたというのに。


 ラウールアさえ居たら、他はいいのだろう。

 俺、アイスラ、アトレは従者という紹介で目付きの鋭い老齢の執事は納得して、顔に傷跡のある男性と青い髪の男性には褒賞が出ると言い、共に早速ジャスマール伯爵家の当主と嫡子が居るところへと案内される。

 屋敷の奥へと向かい、時々見回りと思われる騎士とすれ違いつつ、辿り着いたのは大きな部屋だった。

 絨毯、机、椅子、調度品――この部屋の中に置かれているものは何もかもが高級品だと思われる。所謂、贅沢を尽くした部屋、といった感じである。

 そんな部屋の中央付近に大きなテーブルが置かれていて、そこに件の二人と思われる者たちが居た。


 一人は、くすんだ金髪を後ろに流して、品質の高そうな衣服を着ているが、それでも恰幅の良さは隠せない、四十代くらいの男性。

 一人は、くすんだ金色の長髪に、四十代くらいの男性と似た品質の高そうな衣服を着ていて、少しだけ恰幅の良い、十代と思われる男性。


「当主の『イルアル・ジャスマール伯爵』と嫡子の『ティメイト・ジャスマール』よ」


 ラウールアが小声で教えてくれる。

 ……しかし、ラウールアには悪いけれど、憶えていられる自信はなかった。


 他にも、この部屋には騎士や兵士が十数人、メイドが二人居たが――まあ、気にしなくても大丈夫だろう。

 手を出してきたら倒すまでだ。


「何があった?」


 えっと……とりあえず、伯爵の方が目付きの鋭い老齢の執事に尋ねる。

 目付きの鋭い老齢の執事が前に居るため、伯爵と嫡子の方からラウールアは見えないようだ。

 見えていたら、飛びついて来そうだな。


「はい。吉報でございます。ジャスマール伯爵さま。どうやら、運は私共の方に流れ、天は味方であるようです」


「吉報だと? ヘルーデンが滅びでもしたか?」


 伯爵が嬉しそうに言う。

 ラウールアとアトレが強く握り拳を作る。


「いいえ。まだその報告は届いておりません。ですが、最早手に入れたも同然でございます。何しろ、こちらはラウールア・ブロンディア令嬢を手に入れたのですから」


 目付きの鋭い老齢の執事が嬉しそうに言い、横にずれてラウールアの姿を伯爵と嫡子に見せる。

 伯爵と嫡子はラウールアを見て、手元が縛られているのを見て――よく似た気持ち悪い笑みを浮かべた。


「ハッハッハッハッハッ! そうか! 確かにお前の言う通りだ! 運と天が私に微笑んでいるわ! これでヘルーデンは私のものだ! これまで上手く逃れたようだが、漸くウェイン・ブロンディアを私の下に跪かせることができる! ティメイトも、良かったな! 嫁が来たぞ!」


「ラウールア! 漸く僕のものになる決心がついたんだね! 嬉しいよ! ……フフフ。僕が幸せにしてあげる。ヘルーデンの方も、僕と父さまに任せておけばだから大丈夫だから、安心して僕のものになるといいよ。そうだ。辺境伯の方は父さまが許さないだろうから死刑だけど、夫人の方は僕が助けるから、母娘共に可愛がってあげる」


「ハッハッハッハッハッ! 辺境伯を排除してヘルーデンを手に入れれば、私はこの近隣の覇者だ! そのためにここまで手を尽くしたのだからな! 寛容な心も持つというものだ! いいだろう! ティメイトがそう言うのなら、夫人の方は助けてやろうではないか! だが、お前が助けると決めたのだから、しっかりと可愛がってやるのだぞ!」


「はい。わかっています。父さま。ありがとうございます」


「ハッハッハッハッハッ!」


「フフフッ!」


 ……なんだ、この伯爵と嫡子は。

 正直に言えば、気持ち悪い。

 こういうのはしっかりと退治しておかないといけないな。

 手を尽くしたとか口を滑らせているし、制圧すればなんでも話してくれるだろう。

 なので、早速行動に移ることにした。

 というか、これ以上は聞いていられない。

 我慢できないのだ……ラウールアとアトレが。


 好きにすればいい、と肩をすくめると――ラウールアとアトレが自ら縄を解く。

 俺とアイスラも合わせて解いた。


「「……え?」」


 どういうこと? と縄が解かれたという状況がわからないというように、伯爵と嫡子は似た表情を浮かべて呆ける。

作者「え? あれ? 俺の縄解けないんだけど?」

ジオ&ラウールア「「え?」」

アイスラ「頑張ってください」

アトレ「関節を外せばいけますよ」

作者「無茶を言う!」


良いお年を!

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