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穏やかな時間

 賊を全員倒した。

 これでこの街道は確保したも同然なので、ヘルーデンへの補給物資を運ぶことができるだろう。

 まあ、その補給物資を確保するためのノスタには、まだ辿り着いていないが。

 早く向かいたいところではあるが、数十人の賊を倒したまま放置する――というのもどうかと思うというか、後味が悪いというか……放置したままだと今は気を失っているようだからいいが、気が付けば逃げ出すか、他所に行って新たに迷惑をかける可能性は大いにある。

 一応、縄は肩掛け鞄(マジックバッグ)とアイスラの収納魔法――おそらく、アトレの収納魔法の方にもあるだろうから、それで足りると思うので縛り上げることはできると思うが……何より人数が多くて手間だし、あまり割ける時間はないし、縛ったとしても這いずりながら逃げることはありそうだ。


 どうしたものか、と考えていると――。


「――こんなもので如何でしょうか? ラウールアさま」


「……いいわね。頑丈だし、これなら数日はもつ。その間に兵を寄こすなりして、対策を取ればいい大丈夫そうだわ。さすがアトレね」


「いいえ、ラウールアさまのお目汚しになっていないのなら、それが幸いでございます。それに、先ほどまで首輪を嵌められていたとは微塵も思わせない、気丈な振る舞いを取れるラウールアさまの気高き精神こそ、素晴らしいと称賛されるべきことでございます」


「怒りで我を失って捕まり、首輪を嵌められて人質となったのだから、称賛されるようなことではないわ。まだまだ己が未熟であると思い知らされたのだから」


「己で己が未熟であると思い知れたのなら、それは今後の成長において大きな糧となります。これから強くなりますよ。ラウールアさま。精進なさいませ」


「ええ、頑張るわ。ありがとう。アトレ」


 ラウールアとアトレの会話が聞こえてきたが、それよりも二人の前には巨大な檻がいくつか作られていた。

 すべて使えば、賊の数十人はそこに入れられそうである。

 聞こえてきた感じだと、アトレが作ったのだろうか?


 ――確認してみると、そうだった。

 アトレが魔法で土をいじり、鉄並みの強度を誇る檻を作ったようである。


「時間がありませんからね。全員を縛るのも時間がかかりますので、檻を作りました。武具類を取り上げたあとで入れておけば、逃げ出すこともできないでしょう。あとは、騎士なり兵士なりをここに派遣すれば、ここに居る賊は一網打尽です」


 アトレはどこか自慢げに言う。

 俺、ラウールアに対して、ではない。

 アイスラに対してだ。


「助かる。ありがとう。アトレ」


 俺が感謝の言葉を口にするのと同時に、檻の一つが切り刻まれた。

 犯人はアイスラ。

 その手にまだ持っていた賊の剣を放り捨てて、不安げな表情を浮かべる。


「強度に不安があります。ジオさま。土をいじる魔法はそこまで得意ではありませんが、そこの執事が作ったのよりはマシなものが作れると思いますので、私に任せていただけませんか?」


「おやおや、何を言うのかと思えば、それらは私が速度優先で作っただけに過ぎません。なんでしたら、あなたでも切り刻めないような檻を作り、そこで一生を過ごしてみますか?」


 アイスラとアトレの間にバチバチと火花が散る。

 まあ、この二人に関しては既にいつものことのようなものなので、「先に始めるか」、「……そうね。そうしましょう」とラウールアと共に賊を檻の中に入れていく。

 途中から、どちらが賊をより多く檻に入れられるか、でアイスラとアトレが勝負を始めたので、思っていたよりは早く終わる。

 別に図った訳ではないが、アイスラとアトレの勝負は引き分けだった。


     ―――


 顔に傷跡のある男性とその仲間たちは檻に入れていない。

 聞きたいことがあるからだ。

 それは、ノスタの様子。

 ラウールアを引き渡して、とか賊の中でも深い部分まで知っているような気がしたのだ。

 まだ、知らなければ知らないでも構わないが。


 顔に傷跡のある男性とその仲間たちを縛り上げて起こしたのちに、教えてくれと聞いてみたが――駄目だった。

 口を閉じて、喋る気はない、と態度で示される。

 どうしたものか。


 そうだ。あの首輪を嵌めれば、聞き出せるかもしれない。

 持っていないかと探ってみたが……なかった。

 予備くらい持っておけよ……あっ、俺に使ったのが予備か。

 ……どうしたものか。


「「ここはお任せください」」


 そう言って、アイスラとアトレが顔に傷跡のある男性とその仲間たちを引き摺りながら、近くの森の中へと入っていく。

 とりあえず、そっちの方は見ない方がいいかな? と近くの森に背を向けて、空を見上げる。

 ラウールアもそんな俺の行動に付き合ってくれた。

 お昼は過ぎているが、まだ陽は高い。

 空は青く、鳥が飛んでいる。


「あっ、鳥」


「穏やかな時間ね」


「そうだな。ヘルーデンのことを考えると、少し申し訳ない気持ちになる」


「それは私も同じね。でも、今は森から出てくる魔物の数が少ない時間帯かもよ」


「ああ、確かに。その可能性はあるな。そう思っておくか」


 そうして少しばかり穏やかな時間が過ぎたあと、アイスラとアトレが行きと同じように顔に傷跡のある男性とその仲間たちを引き摺りながら戻ってきた。

 顔に傷跡のある男性とその仲間たちは特に何かされたような痕はないが……ガタガタと震えている。


「な、なんでも喋りますです!」


 なんか素直になっている。

 何をしたのか、目線でアイスラに尋ねてみたが、ニッコリ笑顔が返された。

 これは聞いても教えてくれないと思うので、聞かないでおく。

 ラウールアもアトレから同様の返しをされていた。


 そして、話を聞くが……どうでもいいことも聞かされる。

 自分たちは元冒険者で、今は王都で活動している傭兵だとか、謀反の際に協力したとか、今回は宰相からの命令で来たとか……その辺りは本当にどうでも良かったというか、顔に傷跡のある男性とその仲間たちとの関係性を突いたところで、新王側は知らぬ存ぜぬだろうから、早々に切り上げさせた。


 そのあとに、改めてノスタの様子について尋ねる。

 ……思った通りというか、ジャスマール伯爵家の当主と嫡子がノスタに来ているようで、現在のノスタはジャスマール伯爵家によって支配というか管理されているそうだ。

 当主の方はヘルーデンが落ちるのを今か今かと待っていて、何かあれば直ぐにでも動けるように待機しているらしい。

 嫡子の方はやはりラウールアが狙いで、隙があればヘルーデンに侵入して攫って来い、とまで命令されていたそうだ。


 まあ、何にしてもジャスマール伯爵家の当主と嫡子を先にどうにかしないと、補給物資の確保も難しい状況だと思う。

 だから、先に潰すことにした。

 アイスラ、ラウールア、アトレも同意。

 幸いというか、顔に傷跡のある男性とその仲間たちに捕まった風で行けば、ジャスマール伯爵家の当主と嫡子のところまで直通で行けそうである。

 サクッと終わらせて、ヘルーデンに補給物資を届けるとしよう。

作者「………………」

ジオ「あっ、鳥」

ラウールア「穏やかな時間ね」

作者「………………Zzz」

ジオ&ラウールア「「いや、寝ていいとは言っていない」」

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