ギフトの力
俺のギフト「ホット&クール」は、任意――目に見える範囲内に限る――のモノや空間に対して、温度を上げ下げできるようになっている。
モノでなくていいのだ。
言ってしまえば、目に見えている場所に限って、視界全体的でも、どこか一部分だけでも、狙った場所、思った形で熱くできるし、冷たくできるのである。
また、ギフトは神の恩恵とも言われていて、スキルとは別格だ。
ハルートを例にすれば、木の枝の上だけという制限はあるが、現れるモノについての明言はされていない。
青い小鳥やグリフォンといった現れるモノの強さはまったく関係ないのだ。
つまり、ハルートのギフトは、下手をすれば単独で一国を滅ぼすような、そんな強大な力を持つモノすら現れてテイムする――可能性があるということである。
まあ、それに翼があれば、だが。
なので、俺がギフトは別格だと思っているのは、何かしらの制限はあるが、明言されていない部分に関しての制限はない、と考えているからである。
俺のギフトの制限は、目に見える範囲だけというのと、温度を上がる、温度を下がる、といった時に少しずつしか上げ下げできないということだ。
一気に上げ下げ――ということができない。
要は、0度から100度まで瞬時に切り替えるように上げることはできず、0度から1度、2度、と少しずつしか上げ下げできないため、瞬時にここまで上げ下げする、といったことはできないのである。
まあ、実際はもう少し速いが。
ともかく、そういう制限はあるが、代わりに温度の上げ下げに限界はなかった。
時間さえあれば、どこまでも熱くできるし、どこまでも冷たくできるのである。
それともう一つ、空間の方は俺の意思で上げ下げしたところを、視界内に限って動かすことができた。
これが俺の最大攻撃力であり、使う場を選び、時間が必要なために使いづらいので、俺が今の戦法――必要な時には時間を稼ぐことを主軸にした戦い方になった要因である。
―――
俺がした準備というのは、顔に傷跡のある男性との会話を試みてみた時も、様子を窺っている間も、視界内に捉え続けた一部の空間――運がいいのか、首輪に付いている小さな箱を丁度包めるくらいの大きさの箱型――の温度を際限なくどこまでも上げ続けたというもの。
そこまで大きくしなかったのは、これは本当に危険だからである。
何しろ、この箱型空間は鉄すらも容易に溶かす――どころではなく、そのまま溶けた部分を蒸発させてしまうくらいの超高熱まで上げているからだ。
首輪に付いている小さな箱を溶かすだけで終わってしまうと、垂れて危険どころの話ではないので仕方ない。
あと、そこまでの超高熱になった空間は人も容易に焼き貫くどころか、消し去ったように見えるほどの焼失を起こす上に、空間そのものだから不可視の攻撃となる。
避けることはできない。
……まあ、そんな攻撃であるからこそ、乱戦というか、人――味方が多い場所ではまず使えない攻撃方法である。
動かせるといっても味方も相手も動いているし、戦いの場にそんなのがあれば、まず間違いなく味方にも当たって焼失させかねない。
だから、ラウールアには身の安全のために、動かないように言ったのだ。
結果――ラウールアの首輪に付いている小さな箱だけを狙って俺が超高熱の箱型空間を通過させて、小さな箱だけ消し去ったのである。
もちろん、残った首輪の方は僅かも溶けていないので、ラウールアの体に傷は一切付いていない。
これで、首輪はただの首輪でしかなく、ラウールアの動きを縛るものはなくなった。
顔に傷跡のある男性とその仲間たちは何が起こったのかわからないと動揺している今が絶好の機会である。
「ラウールア!」
あとは、ラウールア次第だが――ラウールアは笑みを浮かべた。
「さすが、ジオ。何をどうしたのかさっぱりだけど――私だって!」
ラウールアから発する圧力が一気に増し、その体から黒い靄が漏れ出し始めた。
感覚的に黒い靄は魔力だと思う。
ラウールアがその黒い靄を体全体に纏わせ――。
「今度は、こっちからのやらせてもらうわ!」
「なっ!」
自分の両腕を掴んでいた青い髪の男性の手を無理矢理払い飛ばし、その場でくるりと回りながら青い髪の男性の顔面を掴む。
「淑女の腕を、無遠慮に掴むな!」
ラウールアが青い髪の男性を地面に叩き付ける。
その威力を物語るように、青い髪の男性の下半身は跳ね上がり、地面には大きなヒビが四方に走った。
……ラウールアはそこまでの怪力だったろうか?
とりあえず、超高熱の箱型空間を下手な場所に置いていたらラウールアの見せ場を奪うところだったので、ラウールアの首輪の小さな箱を消し去ったあとは上空に上げて霧散させていて良かった。
事態は動く。
赤い髪の男性「お前! よくも!」、金髪の男性「無事じゃ済まさねえぞ!」、黒髪の男性「殺す! 殺す! 殺す!」、この三人がラウールアに向けて襲いかかる――が、もう遅い。
「貴様ら! ラウールアさまに手を上げるとは――万死に値することと知りなさい!」
アトレが飛んで来て、黒髪の男性を蹴り上げたかと思えば、瞬時にそれよりも高く飛び上がり、かかと落としを食らわせながら黒髪の男性の上に立ち、何度も踏み付けながら落下した。
金髪の男性はラウールアの蹴りを腹部に食らって悶絶して、動かなくなる。
残る赤い髪の男性は、ラウールアとアトレが左右から同時に攻めて、ラウールアの拳、アトレの蹴りを同時に食らって崩れ落ちた。
あっという間の出来事だ。
そんなことは関係ないと言わんばかりに、顔に傷跡のある男性は俺に迫って来ていた。
俺の首輪の小さな箱は残っている。
人質にするつもりなのか、それとも爆発させるつもりなのかどうかはわからないが、既にアトレがラウールアの下に居るのだから――間に合わない訳がない。
だから、俺は悠然と構えるだけだ。
「貴様! ジオさまに首輪など、羨ま――許しません! 許すことなどできません!」
アイスラが横を通り過ぎていき、顔に傷跡のある男性の前に立ちはだかった。
「邪魔だ! メイドォ!」
顔に傷跡のある男性が剣を構えてアイスラに斬りかかる。
鋭く振るわれた剣をアイスラはかわし、横合いから拳を放つ。
アイスラの拳は顔に傷跡のある男性ではなく剣に向けられていて、そのまま振り抜いて剣を真ん中から折った。
恐ろしい威力の拳だな、と思う。
アイスラを怒らせたら怖いな、とも思った。
「――は、はあ?」
顔に傷跡のある男性が困惑の表情を浮かべた瞬間、アイスラの渾身の拳によって殴り飛ばされる。
地面を何度も跳ねて、土煙を上げながら転がっていき――そのまま倒れて動かなくなった。
……止める暇がなかったな。
敵のところまで案内させようと思っていたのに……いや、ぴくりとはしているから死んではいないようだ。
なら、案内させよう。
「大丈夫ですか? ジオさま。今、そんな首輪は切り裂きますので、代わりに私の首……なんでもありません。ジオさま。動かないでください」
アイスラが近くに落ちていた剣――多分、賊が使っていたであろう剣――を拾い上げて振るうと、俺の首輪が細切れになって落ちる。
まあ、魔力に反応するだから、純粋な剣技の前ではどうしようもない。
「ありがとう。アイスラ。それじゃあ、今後のことを話したいところだけど、その前に片付けないといけないことがあるから、まずはそちらが先か」
「そうですね」
俺とアイスラが動く前に、既にラウールアとアトレは動いていて、周囲の賊たちを倒し回っていた。
少し出遅れたが、俺とアイスラも周囲の賊たちを倒し回って――ほどなくして賊たちを全滅させる。
アイスラ「賊は片付きました」
アトレ「そうですね」
アイスラ&アトレ「「………………しまった! ドサクサに紛れてこいつをやっておけば良かった!(睨み合う)」」
ジオ&ラウールア「「やらなくていいから」」
作者「やるなら、表でやって」