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首輪

 ラウールアの首筋に短剣の切っ先が突きつけられ、人質に取られてしまった。

 油断した訳では……いや、少ししたかもしれないが、それでも致命的だったのは、顔に傷跡のある男性が俺に斬りかかり、それを受け止めたのはいいが、俺のことを知っていると思われる言葉に意識を向けさせられたことだろう。

 ラウールアを直ぐにでも奪い返すために動こうとするが、相手側の方が上手だった。

 俺の動きを押し留めるような言葉を投げかけてくる。


「おっと、動くなよ。出来損ない。思ったよりもできるようだが、お前が動き出した瞬間に、こいつは躊躇なく突き刺す」


 ラウールアを人質に取った青い髪の男性を指差しながら、顔に傷跡のある男性が俺に向けて優越感を抱いているような笑みを浮かべる。

 それを言われると、様々な可能性が頭を過ぎり、思い切った行動が取れなくなった。

 周囲の賊たちは、勝ったな、と言わんばかりに笑みを浮かべている。

 正直に言えば、肩掛け鞄(マジックバッグ)の中には上級な回復薬も入っているので、それを使えば多少深手であったとしても痕を残さずに治ることができるのだが……即死となると話は別だ。

 上級な回復薬でもどうしようもない。


 速さにはそれなりに自信はあるが、速度に任せて突っ込んだ場合、青い髪の男性は間違いなく突き刺す。躊躇なく突き刺す。

 顔に傷跡のある男性同様、青い髪の男性からも嫌な感じがするのだ。

 俺が辿り着く前にラウールアを殺す――と思わせるだけの雰囲気がある。


「こうなったのは私のせいだし、私のことは気にしなくていいから! さっさとやって!」


 ラウールアが俺にそう言ってくる。

 いや、無茶を言う。

 さすがにラウールアを殺させる訳にはいかないので、動きを止めるしかない。

 幸いなのは、対象が俺だけ、ということだろうか。

 ……一応、ラウールアを助ける準備だけはしておくか。

 幸いにして俺が取る手段は普通目視できないので、今の内から準備を始めれば間に合うだろうから、アイスラかアトレがこの事態に気付いて何かしらの行動に出た時に、それに合わせて俺も動けば――。


「おいおい、こんなガキを相手に人質を取るって……お前、終わってんな」


「そう言ってやるな。見ていたが、あのガキ、中々の手練れだぞ」


「へえ、こんなガキなのにやれるのか。なら、さっさと殺してしまうか?」


 顔に傷跡のある男性と青い髪の男性と同じく嫌な感じを抱かせる三人――赤い髪の男性、金髪の男性、黒髪の男性が、向こう側に合流するように現れる。

 その五人の服装に共通点はなく、バラバラで、それは使う武具も違っているようなので、それぞれに役割があるような……まるで……。


「冒険者パーティのように見えるな」


 この五人だけ、賊の中で異質のように感じた。

 その呟きを、顔に傷跡のある男性が拾う。


「その推測は悪くはないが、違うな。まあ、俺らが何者かなんて、この状況に関係あるか?」


「いいや、ないな。だが、もしかしたら関係あるかもしれない。まずは聞いてから判断したいから、教えてもらえないか?」


 アイスラとアトレがこちらの様子に気付いて、駆け付けようとしているのを感じたので、会話で時間を稼げないか試みる。

 準備はもう少しかかるが……まあ、二人が来るだけでも状況は好転できるかもしれない。

 そんな俺の目論見は読んでいる、と言わんばかりに、顔に傷跡のある男性は行動を起こす。


「おい、アレを出せ」


 顔に傷跡のある男性が黒髪の男性に向けて手を出すと、黒髪の男性は懐から首輪を取り出して渡す。

 首輪を受け取った顔に傷跡のある男性は、そのままラウールアにその首輪を嵌める。

 それでラウールアの首筋にあった短剣の切っ先はなくなったが、その代わりに青い髪の男性がラウールアの両腕を掴んで背中に回して拘束した。

 ラウールアからすれば気分の良いものではないが、妙な形状の首輪であることが目に付く。

 首輪の横に、後付けのような小さな箱が付いていた。


「おっと! そこで止まれ! でないと、爆発するぞ!」


 顔に傷跡のある男性が声を上げるが、その視線は俺に向いていない。

 俺の後方――おそらく、こちらに向かっていたアイスラとアトレに向けてで、二人は「爆発する」という言葉を聞いて一旦足を止めたのが気配でわかった。

 ラウールアの顔色も悪くなる。


「いいか! これはここに一定量以上の魔力を流せば爆発する首輪の魔道具だ!」


 顔に傷跡のある男性がラウールアの首輪に付いている小さな箱に手を当てながら言う。


「この女――ラウールア・ブロンディア令嬢の首から上がなくなって欲しくなければ、余計な真似はするな! こうして説明しているのは、知らずに余計な真似をしてラウールア・ブロンディア令嬢を殺さないように、という俺なりのお前らへの配慮だ!」


 いや、明らかに牽制である。

 ただ、顔に傷跡のある男性は、ラウールアがラウールアだと……ブロンディア辺境伯爵家の令嬢だと知っているようだ。

 俺のことも知っているようだし、油断のならない相手かもしれない。

 周囲の賊たちがざわつく。

 アイスラとアトレがかなりやった――多分半数くらい――と思ったが、まだまだ居るようで、その残った賊たちは、一体誰に手を出してしまったのか、ここで理解したようだ。


 しかし、顔に傷跡のある男性はざわつくことなく、俺、アイスラ、アトレが動き出さないのを見ると満足そうに頷いた。


「良し。それでいい。どうやら、運は俺たちの方に流れているようだ。お前もこっちに来い」


 指名されたのは俺。

 下手な行動を取ればラウールアを――とにやけた態度で伝えてきたので大人しく前に出ると、途中で止められて俺にも同じ首輪が嵌められる。


「貴様っ!」


 アイスラが怒りの声を発した。

 俺は、待て、とアイスラに向けて手のひらを見せて留める。

 そのまま首輪の感触を確認して……うん。首輪も小さな箱も鉄製で……これなら横に付いている小さな箱をどうにかすれば、あとは普通の首輪だ。問題ない。

 そろそろ準備は終わりそうなので、ラウールアの方はそれで消し去って、俺のは自分でどうにか――。


「おお、おお! あのメイド怖いな。離れていても感じる迫力と圧力……メイドだけでなく、そっちの執事も怖いねえ。だから、俺らはここで去らせてもらうことにする」


「「「「おい! 何を言っている!」」」」


「あ? いいんだよ、これで。欲をかき過ぎて死んじまったら意味ないだろ。これくらいの手柄で丁度いい。これだけ補給を断てばヘルーデンも無事では済まないだろうし、令嬢はノスタで引き渡して、こいつは王都まで連れていけば、俺たちは大金持ちだ。それ以降は好きなだけ遊んで暮らせるぜ」


 顔に傷跡のある男性の言葉を聞いて、動き出すのを一旦止めた。

 引っかかったのは、ラウールアをノスタで引き渡す、という部分。

 事前にラウールアから、ジャスマール伯爵家について聞いていたからこそ思う。

 ラウールアは否定していたが、もしジャスマール伯爵家の嫡子が本当に惚れているのなら、あるいは何がなんでも手に入れたいと思っているのなら、ノスタくらいまでなら来るのではないだろうか? と。

 それと、辺境伯領を手に入れるためにこれまで色々と手を出していたのなら、それが実りそうだと判断できるような状況となれば、当主も近くまで来ている可能性は十分にある。

 具体的にはノスタまで。

 辺境伯領が手に入るのなら、直ぐにでも駆け付けられるように。


 それに、よくよく考えれば、ノスタで普通に補給物資を集めようとしても邪魔される可能性はある。

 だったら、先に敵を――そこに敵が居るのなら潰しておく方が色々と話が早い。

 そこに案内してくれそうなのが居るのなら……良し。生かして捕らえるか。


 そこまで考えて、俺は行動に移す。


「そうだな。欲をかき過ぎるのは良くない。だが、もう欲はかき過ぎていると考えないのか? 俺まで手に入れようとした時間をかけた時点で終わりだ。ラウールア。俺を信じるのなら動くなよ」


 顔に傷跡のある男性たちはこいつこの状況で何を言っているんだ? と首を傾げるが、ラウールアは頷きを返して微動だにしない。

 信じてくれてありがとう、と思いながら、俺は一歩も動かずに行動を起こし――ラウールアに嵌められた首輪の小さな箱を消し去った。

アイスラ&アトレ「「……首輪」」

ジオ&ラウールア「「………………背筋がぞくりとした」」

作者「は〜い、ジオとラウールアは危ないからこっちに来なさい」

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