第一位は第一位だった
翌日。アイスラ、ラウールア、アトレの三人が揃うと、まずはラウールアに確認。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ。しっかり休んでかなり疲労は抜けているから」
見た感じ、ラウールアが言った通りに見えるので大丈夫だろう。
ただ、状況的に疲労が抜け切ることはないだろうから、駄目そうなら大人しくしてもらうしかない。
その辺りの判断は……。
「お任せください」
視線を向けた瞬間、アトレがそう言って一礼する。
いや、まだ何も言っていないのだが……まあ、理解しているようだから、大丈夫か。
任せた、と頷きを返す。
「本当に理解しているのですか?」
「あなたよりは察しが良いと思いますよ」
アイスラとアトレ。睨み合ってバチバチと火花を散らさないように。
「魔物大発生」に対している時はそういう雰囲気ではないと大人しかったのに、違うことをしようとした途端にコレである。
争わせさせないように、さっさと行動することにした。
まずは、門から出て森と平原の様子を窺う。
森を見て抱く嫌な感じはまだなくなっていないので、「魔物大発生」はまだ続くと思われる。
平原の方は、森から出てくる魔物が散発的になっていた。
夜の内に一旦落ち着いたのだろう。
ウェインさまとマスター・アッドはまだ眠っているようなので姿はない。
代わりに、昨日話した強面の騎士団長が居たので、ヘルーデン混成軍の状況を聞く。
夜の間も戦っていた影響は大きく、思っていたよりも死傷者が出てしまい、負傷者に関しては補給物資が来ないので、できるだけ魔法で治療するために、現在治療中な者も居るそうだ。
魔法なら魔力があれば使えるし、魔力は自然と回復するからである。
どうにかして補給物資が来ない問題を解決しないといけないな、と思った。
―――
馬車を用意してもらい、「魔の領域」である森がある方とは逆方向にある、ヘルーデンの門から外へと出る。
魔物が回り込んでくる可能性もあるので、こちらの門も警戒されているのだが、既に話は通っていたようで、すんなりと通ることができた。
ヘルーデンから進める街道は三つ。
王都方面に向かう街道。南部方面に向かう街道。ウルト帝国方面に向かう街道。
今回向かうのは、南部方面に向かう街道だ。
ここを選んだのは、ヘルーデンから一番近い大きな町が南部方面に進む街道の先にあって、そこは馬車であれば二日で往復できるからである。
それなら、「魔物大発生」がより厳しくなってもヘルーデンに今ある物資ならどうにか足りるらしい。
だから、一番近くて大きな町に辿り着き、物資を補給したあとに戻って来ても間に合う――かもしれないからである。
という訳で、移動は馬車だ。
御者はアトレ。俺、アイスラ、ラウールアは馬車で待機。
ただ、襲撃があるかもしれないので警戒は怠らない。
ちなみに、アトレが御者をしているのは、昨晩決まったからである。
いや、俺がしても良かったのだが、提案するとアイスラが拒否。ラウールアがやってみたいと言えばアトレが拒否。アイスラとアトレがやると言い出し、二人は一旦席を外すと熾烈な争いが行われた結果、アトレが行き、アイスラが帰りに御者をすることで落ち着いたのだ。
本当に熾烈な争いをしたかは、見ていないからわからない。
二人がそう言っているだけである。
そして、何かに遮られるようなこともなく順調に進んでいく中、ヘルーデンが見えなくなってから気付くことがあった。
「ラウールア。なんか憂鬱そうだな、どうした? ヘルーデンの方が心配か?」
「……はあ。心配はしているけれど、今考えていることは違うわ。今から行く先の領地を治めている貴族家のことを思い出して、面倒にならないといいな、と考えていただけよ」
「行く先の領地? これだけの近いのだから、向かう先は辺境伯の治める領地ではないのか?」
「違うわ。辺境伯領は『魔の領域』に合わせて横に広い感じなのよ。今向かっている町――『ノスタ』があるのは『ジャスマール伯爵家』が治める領地なのよ」
「ジャスマール伯爵家? ……聞き覚えがないな。まあ、伯爵家ならそれなりに力を持った貴族家だと思うが」
「そうね。王都の方には力を入れていないようだから、王都の方にまで名は広まっていないかもしれないわね。ただ、力を持った貴族家なのは間違いないわ。何しろ、この辺り一帯の貴族を取り纏めている貴族家だもの」
この辺り一帯か。
そこまでとなると、ヘルーデンへの補給物資を止めることもできるかもしれない。
有力な敵対貴族候補第一位だが……いや、これは考え過ぎか。
辺境伯家と伯爵家の間に、敵対するような何かがなければ、この考えは成立しない。
「そのジャスマール伯爵家が面倒なのよ。まあ、ノスタは領都ではないから、当主が居る訳ではないし、嫡子も学園に居るはずだから会う訳ないと考えれば幾分楽になるわね」
「当主や嫡子に何かあるのか?」
「まあ、ね。私に関係あるのは嫡子の方。学園の同学年で、私に惚れたとか言い出して婚約を結ぼうとしてくるのよ。私は断っているんだけど、しつこくて」
「それは、普段から大変そうだな」
「普段は友達に協力してもらって会わないようにしているから平気。偶に遭遇する時があるだけ」
「そうか。ん? ラウールアに関係あるのが嫡子の方ということは、当主の方も何かあるのか?」
「当主の方は、前々から辺境伯領を狙っているのよ。辺境伯領も手に入れて、本当の意味でこの辺り一帯すべてを手に入れたいみたい。度々手を出してきて証拠も上手く隠しているから面倒だ、とお父さまが愚痴っていたわ。嫡子が私に婚約を申し出ているのも、その一つだと思う」
「なるほど」
――いや、敵対する何かというか、間違いなく手を出してきているだろ、これは。
敵対候補第一位は第一位だった。
それに、伯爵家なら禁止魔道具を用意できるかもしれない。
ここまでくると、ジャスマール伯爵家は貴族派閥も新王派だろうし、謀反が上手くいった今、ここで一気に手中に収めるべく動き出した、といったところか。
となると、この先を進めば間違いなく何か起こるな、と確信に近いものを抱く。
ラウールアからジャスマール伯爵家について聞いてから、少しばかり警戒を強めて進んでいく中、陽の高さからそろそろ行きの半分くらいまでは進んだろうか、という時――街道は普通の森の近くを通ろうとしていた。
咄嗟に止まれと言う前に、アトレが馬車を止める。
「アトレ? どうかしたの?」
ラウールアが御者台に座るアトレに声をかける。
近くの森から結構な数の人の気配を感じ取っていたので、アトレが馬車を止めた理由はそれだと察した。
アイスラと目が合い、同じ結論に至っているとわかる。
「ラウールアさま。近くの森に多くの人の気配がございます。それと、街道の方には何かしらの戦闘があったことを隠す痕跡がありますので、ここから先へと進めば間違いなく襲撃に遭うかと」
「そういうこと。なら、時間も惜しいし、さっさと片付けた方がいいわよね?」
それでいいわよね? とラウールアが視線で尋ねてきたので、それで問題ないと頷きを返す。
おそらくこちらを見ているので、馬車が止まったのが不自然に見えないようにアトレが馬車の調子を確認するような仕草を見せたあと、何食わぬ顔で出発し――少し進んだところで、森から飛び出してきた数十人に取り囲まれた。
作者「よ、よーし! 沢山居るけど、やるぞぉ!」
ジオ&アイスラ&ラウールア&アトレ
「「「「だったら馬車から降りろ」」」」