対「魔物大発生」 5
ヘルーデンに戻るのに、思った以上の時間がかかってしまった。
森の中から一直線に戻れば早いのだが、その場合は多くの魔物を引き連れて戻ることになってしまうので、それで起こる混乱を避けるために遠回りで戻っていったのである。
どうにか陽が落ちる前までに戻ることができたのだが、戦場となっている平原は予想通りの光景が広がっていた。
再び、森から多くの魔物が出て来ている状態となっている。
それだけではなく、昨日は浅層の魔物だけだったが、今は中層の魔物の姿もちらほらと見かけるようになっていた。
ヘルーデン混成軍が昨日以上の激闘を繰り広げている。
問題なのは、中層の魔物だ。
浅層の魔物はヘルーデン混成軍の大半の者が倒せるが、中層の魔物となるとそう多くはない。
その上で更に中層の魔物と連続して戦えるほどの戦力持ちとなると、本当に限られてくる。
ヘルーデン混成軍の状況は間違いなく悪くなっていた。
「行くぞ!」
中層の魔物と連続して戦える俺たちが遊撃として、率先して倒していくべきだ。
戦場となっている平原へと入り、駆け続け、浅層の魔物はヘルーデン混成軍に任せて、俺たちは中層の魔物――ミノタウロスや巨大サーペント、サイクロプスや六本腕熊といったのを倒していった。
少しでも状況が良くなるように。
ヘルーデン混成軍を、ヘルーデンに残っている人たちを守るために。
―――
休息を取る時間は、昨日よりも確実に減っている。
まあ、体力に自信はあるので俺は問題ない。
アイスラも平気そうで、アトレも同様である。
しかし、ラウールアは目に見えて疲労が溜まってきていて、休息を取る時は呼吸を整えるので精一杯になってきていた。
「はあ……はあ……ごめん……私が、足を引っ張って、いるわね……はあ……」
「無理に喋る必要はないから、回復に専念しておけ」
「はあ……止めない、の?」
「現状だと、止まれと言って止まるとは思えないし、休んでいろと言っても大人しく休むとは思えないからな。まだ付き合いは短いが、それくらいはわかる。それに、森から出てくる魔物の数は減ってきている。陽が落ちる前にもう一回りできれば十分だ。それくらいなら、回復に専念すれば直ぐだろ?」
「ええ……はあ……その通りね……」
ラウールアが回復に専念するために黙った。
まあ、ラウールアには悪いが、正直に言えばこれは俺にとって想定の範囲内である。
確かに、ラウールアは強い。他の同年代に比べて抜きん出ているのは間違いない。
ただ、まだそれ以上の力を得ていない、というだけだ。
ラウールアの呼吸が整うと、もう一度戦場となっている平原を一回りして、中層の魔物を倒している間に陽が落ちた。
ヘルーデン混成軍に取って、これから厳しい時間帯となる。
昨日とは違って、森から出てくる魔物が減り切っていないため、まだ魔物が出て来ているのだ。
時間とか、夜とか、暗闇とか、関係ないと言わんばかりに魔物たちが森から出て来てヘルーデンへと襲いかかってくる。
また、つい先ほどまで平原は戦場となっていたために、松明を置くのが難しかった。
そもそも魔法で照らすだけでは足りないために、松明がたくさん置かれていたのだから、その数が減れば暗がりは多くなり、視界は悪くなる。
そこに、魔物が襲いかかってくるのだ。
「くそっ! 見にくいな! これじゃあ、剣豪の振るう剣すら見える俺でも、魔物の接近を許すかもしれない! ……本当だからな! 見えるだけで、かわせるとは言ってないぞ!」
「暗くて良く見えないな……注意しろよ! 突然どこから現れるかわからないからな! ……誰だ! 今、俺の尻を触ったのは! なんか撫で方がやらしかったぞ!」
「いいか! しっかりと周りを見ておけ! 目を凝らせ! 小さな変化も見逃すな! 見逃せば終わると思え! ………………え? なんでお前、その子と手を繋いでんの?」
戦場である平原で今も戦っているヘルーデン混成軍は混乱しているようだ。
もう一回りくらいしておきたいところだが……。
「はあ……はあ……はあ……」
ラウールアの呼吸は乱れに乱れている。
さすがに無理だ。
それに、朝から森の中に入って出て、さらに平原を何度も回ってと、呼吸は乱れていないが疲労は俺も感じている。
あとはラウールア混成軍に任せて、今日はもうしっかり休んで明日に備えることにした。
その前に、全員揃ってウェインさまとマスター・アッドに森で見たことを報告しに行く。
ウェインさまとマスター・アッドは待っていてくれたのだが、どちらも少し疲労していた。
それでも、ウェインさまはラウールアを見ると駆け出して、無事かどうかの確認を始める。
「騎士団長から話は聞いた時は驚いたぞ! 無事か? 大丈夫か?」
「疲れてはいるけれど、大丈夫よ。お父さま。見ればわかるでしょ?」
ラウールアはどこか呆れた表情だ。
とりあえず、ウェインさまはラウールアに任せて、俺はマスター・アッドに声をかける。
「その様子だと、ウェインさまだけではなく、マスター・アッドも戦場に出たのか?」
「まあ、さすがに中層に出てくるのが出てくるようになったからな。中層の魔物と戦えるのが、一人でも多く必要だ」
「そうだな。だが、マスター・アッドは大将みたいなものだから気を付けてくれ。大将が居なくなって総崩れ、なんてことも起こりかねない」
「わかっている。俺がそう簡単にやられるかよ。それより、森の中を見てきたんだろう? その報告をしてくれ」
「ああ」
エルフを見たこと以外――中層の魔物もヘルーデンに向けて進んでいることと、まだ集まってきているようなので続きそうだ、ということを伝えた。
報告を聞き終えたマスター・アッドの眉間に皺が寄る。
「まだ続く、か……正直に言えば、このままだとマズイな」
「マズイ? 何が……ああ、昨日言っていた補給物資が届いていない、という話か。まさか、一つも届いていないのか?」
「ああ、一つも届いていない。それに、確認させに行った者たちも戻ってきていない。こうなると、間違いなく何かがあった、起こっていると考えて間違いない。おそらく、襲撃して止めているのだろう。だから、高い戦力持ちに行ってもらいたい」
マスター・アッドの強い視線が俺に向けられる。
「俺たちに行ってもらいたいと?」
「ああ。今の森の中に入って無事に戻って来れることといい、能力は疑いようもない。頼めるか?」
決めているのは俺だが、一応確認する。
アイスラ、ラウールア、アトレは問題ないと頷きを返してきた。
……ウェインさまはヘルーデンに残るのだから、頷かなくて大丈夫。
「ああ、わかった。明日、確認してくる」
明日に向けて、マスター・アッドともう少し話し合いをしたあと、疲労を取るためにしっかりと休んだ。
ジオ「補給物資が来ていないから、おかわり禁止な」
アイスラ「え?」
ラウールア「え?」
アトレ「え?」
作者「え?」