表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/204

対「魔物大発生」 3

 森から出てくる魔物が減っている気がする、とマスター・アッドに報告する。


「ああ、その報告か。他にも同様の報告が届いていたが、ジオたちも感じているとなると間違いなさそうだな。そうなると……」


「他にも報告が挙がっていたのか?」


「ん? ああ。少し前に、森に近いところで戦っていた者の中で比較的余裕のある者とかからな。だが、これは想定内とも言える」


「そうなのか? 『魔物大発生(スタンピード)』の知識はあっても実際にその場に居合わせるのは初めてのことだからわからないが、そういうこともあるのか?」


「いや、ない。普通は一気に出てくるもので、時間と共に減ったとしても、代わりに手強いのが出てくるようになる。だが、今のところは数が多いのはともかく、減ったとしても手強いのが出て来たという報告はない。これまでの『魔物大発生(スタンピード)』にはない例外的な事態だと言える」


「ん? 例外的? 想定内と言っていなかった?」


「ああ。事前にウェインさまと、今回の『魔物大発生(スタンピード)』が作為的である以上、これまでにない例外的なことが起こる可能性について話していた。その話し合った可能性の中に、今回の事態は想定されていた」


 マスター・アッドにもう少し詳しく聞くと、今回の「魔物大発生(スタンピード)」は「誘魔(ゆうま)」を使用して、ヘルーデン周囲の魔物をこの場に誘い集めることで作為的に引き起こされたものであることから、「誘魔(ゆうま)」で誘い集める流れができていたとしても、瞬時に数が揃う訳ではなく、移動してくる時間があって、それで段階的に魔物が森から出てくるのではないか? と考えたそうだ。


 その考えを聞いて、俺もそうだと思う。

 森を見て終わっていないと感じたのと合致するのだ。

 つまり、波状的に魔物が現れるということである。


     ―――


 マスター・アッドはもう少し情報を集め、これが正しければ魔物の出現は波状的という情報を広めて、作為的であるために、この「魔物大発生(スタンピード)」がいつまで続くかわからないので、出現する魔物の数が減ればその時に多くの者が休めるようにしたいそうだ。

 休める時に休むのは大切である。


 俺たちも休息を取り終われば、再び平原へと出て戦場となっているところを回るが……森から現れる魔物は目に見えて減っていた。

 けれど、森からの伝わる雰囲気は少しも変わっていないので、波状的な出現なのは間違いなさそうだ。


 そうして、陽が落ちそうな頃には、森から出てくる魔物は散発的になったので、マスター・アッドが情報を広めたこともあって、ヘルーデン混成軍の多くはヘルーデンに入って休息を取る。

 俺たちもヘルーデンに戻った。

 ただ、警戒は少しも緩めない――というよりはより厳しくなっている。

 いつ魔物が多く現れるかわからないし、何よりこれから夜なのだ。

 夜明けの時に見た時と同じように、平原に多く松明が置かれ、魔法で明るく照らされる。


 ……まあ、夜目にはあまり自信はないが、気配で察することができるので、場合によっては出てもいいな、と思う。

 けれど、これは独断なので、アイスラ、ラウールア、アトレにも聞いてみる。


「問題ございません」


「夜に出るの? 別にいいわよ。経験がない訳ではないから」


「夜ですか? 支障はございません」


 大丈夫そうだ。

 でもまあ、ヘルーデン混成軍も居るので、基本はそちらに任せることにして、危険な魔物が出た時は率先して向かう、ということでもいいと思う。


「別に、あなたはそのまま休んでいてもいいのですよ。私より弱いのですから」


「邪魔になると思いますので、あなたは休んでくださって構いませんよ。私が居れば十分ですので」


 だから、アイスラとアトレは暴れて無駄な体力を消費せずに、大人しくしておくように――と大人しくしておこうと思ったのだが、マスター・アッドから呼び出される。

 拠点で一番大きな天幕の中に入ると、マスター・アッドだけではなく、ウェインさまも居た。


 二人共難しい表情を浮かべていたが、ウェインさまがラウールアの姿を捉えると、「おお! 無事か! 怪我はないか!」と飛びついてきた――ところをラウールアは慣れた様子で回避して、「親子とはいえ、ラウールアさまは立派な令嬢ですので、抱き着こうとするのはお控えください、と何度言えばいいのですか?」とアトレが慣れた様子で受け止める。

 ウェインさまは気にした様子はなく――。


「体が自然と動くのだから、どうしようもない!」


 と返した。

 ラウールアとアトレは苦笑を浮かべるだけなので、本当にどうしようもなさそうだ。


「……師匠」


 アイスラはどことなく呆れた様子である。

 どことなく和やかな空気が流れ、このあとに現状を聞いた――ヘルーデン混成軍の死者は僅かで負傷者はそれなりに出ているが回復中――あと、マスター・アッドから呼び出された理由を聞くと霧散した。


「補給物資が届いていない?」


「ああ。ヘルーデンにある分だけでは間違いなく足りないからな。継続的な補給物資の運搬を確保していたのだが、『魔物大発生(スタンピード)』が始まってから一切届いていない」


「遅れている可能性は?」


「それも考えたが、複数箇所から運搬をしているのにそれが一つもないのだから無理がある」


「そうなると、街道の安全は? 魔物がそちらまで回り込んでいるということは?」


「安全は確保しているし、魔物が回り込んだとしても、運搬には騎士と兵士を数名付けている。だから、余程のことが起こらない限りは大丈夫なはずだ」


 ……そうなると。


「今回の件を企てたのが妨害している、ということか?」


「その可能性が最も高い。だから、今確認をさせに行っているので、その結果待ちだ。幸いと言うべきか『魔物大発生(スタンピード)』が波状的で引いている今なら、多少だが人手を割くことができるからな」


「なるほど。それを俺たちに教えておくのは、もしもの時は俺たちに行かせるためか?」


「そのつもりだ。結果次第では頼むことになる。俺とウェインさまはこの場を離れられないからな。信頼できる戦力を向かわせたい。これはウェインさまの推薦でもある」


「わかった。そういうことなら、頼まれれば見に行こう」


 補給物資を断たれたかもしれないか。

 もし、これが事実であるのなら、企てた者はこちらが思っているよりも用意周到なのかもしれない。

作者「自分も報告したい。ジオくんとアイスラーー特にアイスラは自分にもっと優しくするべきだと思います。なので、二人からもそう言ってくれませんか?」

ウェイン&マスター・アッド「「………………」」

作者「無理だからって、視線を逸らすな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ