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サイド 商人

本日の一話目です。

 私の名前は「キンド」。

 働き盛りの四十代の男性。商人。

 白髪が混じり出した黒髪に、どこにでも居そうな糸目の平凡な顔立ちで、細身な体付き。ゆとりのある、それなりに高級な商人服を着ていますので体型が崩れても問題ありません。……気を付けるようになりました。本当に。油断すると直ぐ崩れて中々戻らない。辛い。

 なので、体型は崩さないように気を付けています。


 商人ですから。

 恰幅がいいと裕福とか儲かっているように見えますが、その一方で悪いことをしているようにも見られるのは事実です。

 私の場合は、そこに糸目も加わっています。

 糸目自体も、やり手のように見られる一方で、腹黒そうや胡散臭いと言われる始末。

 他にも、「どうやって見ているんですか?」とか「きっと大きな商談が決まった時や絶体絶命の時なんかに目がクワッと開かれるんですよね?」などと従業員に言われていますが……知らねえよ! 開きたい時に開くわ! なんなら開く時は勝手に開くわ! と言いたいですが、グッと我慢しています。


 従業員には気分良く働いてもらいたいですし、上に立つ者としての度量を示さないといけません。

 ……まあ、いざという時は行商……だと危険が多いですし、どこかの支店、あるいは口利きして別のところに飛ばしてしまえばいいのです。

 もちろん、それで恨まれても困りますので、それほど変わらないところか、多少良くなるところに、ですが。


 普通であればそういうことはできません。

 しかし、私にはできます。

 何しろ、私は「ジネス商会」の現商会長。三代目。


 ジネス商会は初代(祖父)が立ち上げて支店を出すまで大きくして、二代目()が二代目らしく安定路線か大博打に失敗して商会を傾かせる――かと思いきや、いつの間にか陛下と懇意になって王家御用達店にしてしまったのです。

 ええ、王家御用達。素晴らしいことです。栄誉なことです。


 ………………。

 ………………。

 ふ・ざ・け・る・な!

 何を上手く成功しているのか!

 三代目()がどれだけ大変になったか!

 三代目も何かやるんでしょ? と周囲に期待されるだけではなく、失敗するのが難しい状態で失敗した時のことを考えた時……どれだけの重圧がかかるのか!

 そのくせ、自分たちはあとは任せると引退し(押し付け)ていったくせに、顔を合わせればひ孫はまだか、孫の顔が見たいな、と催促してくる始末!

 まず相手が居ないわ! 独身ですが、悪いか!

 仕事に集中していたら、気付けばこんな歳に……。

 だから、まずは孫で息子な私のお相手が現れるかどうか心配しろ!

 というか、商人なら商売の心配をしろ!


 ………………。

 ………………。

 取り乱してしまいました。

 ジネス商会――それと親子関係に問題はございません。

 ともかく、余程のことが起こらない限り、ジネス商会が傾くことはありません。


 なんてことを思っていたら、その余程のことが起こりました。

 旅行――視察としてジネス商会専属の護衛たちと共に各支店に赴いていましたが、行き先と、簡易的ではありますが旅程を伝えていて正解でした。

 何がどう作用するかわかりません。


 王都北東にある町「ザール」にある支店を視察したあと、少しばかり滞在し、そろそろ王都の本店に戻ろうかと支度を終えて馬車に乗ろうとした時に、王都本店の従業員が駆け込んで来ました。

 只ならぬ様子であったため、直ぐに話を聞きます。


「前王の弟君の謀反が成功し、政変が起こりました。前王の弟君が新王を名乗り、まずは王都を掌握するために動き始めています」


 その衝撃たるや、思わず間違いないかと二度も確認をしたほどです。

 クワッと目が開いたような気がします。


「陛下はどうなりましたか? 何か情報はありますか?」


「はい。捕らえられたそうです」


「そうですか……王家方々にとってはこれから苦しい」


「すみません。それなのですが、陛下の情報は得ましたが、王妃さま、王子さま、王女さまについてはそういった情報は何もありません。もしかすると、上手く逃亡できたと思われます」


「その可能性は……ありますね」


 もし捕まえているのなら、隠すよりも広めた方がいいと思われます。

 ただ、確証を得るまでは調査するようにします。

 しかし、この影響は国中に広がり、他国との関係にも影響してきそうですが、私的な問題としてはジネス商会もタダでは済まず、大きく揺れ動くのは間違いありません。

 何しろ、ジネス商会を王家御用達としたのは、捕らわれたという陛下です。

 王が変われば、御用達も変わるのは当然として……いや、策謀ありきの努力次第では返り咲くことできるかもしれません。

 けれど、今回は無理。

 ジネス商店だけではなく、他の大きな商店を含めて。

 というのも、前王の弟君――新王には、既に懇意にしている商会があるのは有名な話。


 ――ブラク商会。


 まだ一代目である新興商会でありながら、新王が謀反を起こすよりも前からブラク商会の後ろ盾であると名を出していることから主に貴族を相手にしていて、急成長しているところです。

 ジネス商会ほどではありませんが、それなりに大きな商会。

 貴族を相手にするということは、時に並では済まないこと――無理難題を課せられることがあるのですが、ブラク商会はそれを叶えてきているのです。

 卑怯、卑劣、姑息など、手段を問わずに。


 また、ブラク商会の名は、それだけで耳に届いている訳ではありません。

 ブラク商会はジネス商会を嫌っているようで、これまでに何度か横槍や妨害工作を仕掛けてきたことがあるからです。

 まあ、ジネス商会は客にも従業員にも優良誠実ですから、嫉妬しているのでしょう。

 ………………優良誠実ですよ。


 とにかく、ブラク商会が新たな王家御用達の商会となるのは明白であり、その立場を利用して、王家御用達ではなくなるジネス商会に対して何らかの行動に出るのは間違いありません。


「……はっ! 祖父と父は? それに従業員と本店は?」


「問題ありません。謀反の情報が入ると同時に初代と二代目が即座に動き、本店を放棄。従業員とその家族も希望すればで、既に王都から出ています」


 ホッと安堵します。

 さすがは祖父と父。少なくとも、人命は無事である、と考えていいでしょう。

 護衛の皆さまの方にも反応がありました。

 それなりに長く付き合っていますから、本店の従業員の中に親しくしている者が居てもおかしくありませんので、無事とわかって安堵しています。


「ですので、王都に戻るのは危険であることを伝えるために、私がここに来たのです。それと、合流場所についてですが」


 駆け込んできた従業員に待ったをかけました。

 護衛の皆さまが武器に手を当て、警戒を露わにします。


「……どうやら、つけられていたようですよ」


 駆け込んできた従業員を私のうしろへと回し、護衛の皆さまが守るように前へと出ます。

 視線を向ければ、通りの先から見た目からして柄の悪い――武装した荒くれ者の集団がこちらへと向かって来ていました。

 視線がこちらに向けられていますので、狙いは私たち――いえ、私でしょう。

 間違いなく、ブラク商会の手の者たち。

 早速手を出してきましたか。

 ここでジネス商会に対して大打撃を与えるつもりのようです。


 ――状況は良くありません。

 この場にいる護衛の数は、五人。

 対して、荒くれ者の集団は……え~と……二十五、二十六……あっ、こら! そこ! 重ならないでください……良し。大体で区切って三十人は居ます。

 護衛の皆さまの強さは良く知っていますが、さすがに相手の数が多過ぎますので……いざという時は狙われている私が囮となれば、護衛の皆さまを逃がすことはできるでしょう。

 もちろん、できるだけの抵抗はさせてもらいますが。


「……ジネス商会の三代目、キンドだな?」


 対峙するところまで来た、荒くれ者の集団の先頭に居た者が私に向けて尋ねてくる。

 私が答える前に、荒くれ者の集団はこちらを取り囲んでいく。


「そのように無遠慮に尋ねられては答える気が失せます。それに、私とあなたは初対面ですよね? 少々不躾ではありませんか?」


「はっ! そんなのは関係ねえな! 俺らはただ仕事をするだけだ!」


 その言葉を合図として、荒くれ者の集団が襲いかかってきました。

 護衛の皆さまは直ぐに反応して対処していきます。

 ……強さは負けていません。

 個人の強さで比べれば、こちらの方が質は高いと思われます。

 所詮荒くれ者。

 それを証明するように、護衛の皆さまはあっという間に数人の荒くれを戦闘不能にしました。


 ですが、やはり荒くれ者の集団の数が問題です。

 護衛の皆さまはどうにか対応していますが、やはり数が多いと手が回らないこともあります。

 そうして逃れた荒くれ者の一人が抜け出て私の下へ向かって来ました。

 その手には短剣が握られています。


「もらった! 死ねやあ!」


「あなた如きに」


 従業員を少し下げ、突き出された短剣をかわし、そのまま伸びた相手の腕を掴み、退き寄せながら体を反転させて相手を体ごと背負い――。


「やられる私では」


 勢い良く、地面に叩き付けるように投げ落とします。


「ありません!」


 トドメを忘れてはいけないと、「せいっ!」と顔面を踏んでおきます。


 私をただの細身の優しげな好中年の商人だと侮りましたか?

 残念。私は細身の優しげな好中年の戦闘のできる商人なのです。


 といっても、私の戦闘は所詮初心者から脱した程度。商人ですから。

 意表は突けても、二度目は難しいでしょう。


 護衛の皆さまも奮闘していますが、状況は良くありません。

 町中の戦闘となれば警備兵が駆け付けてきますが、まだその姿が見えないのは遅れているのか、それとも買収されているのか……前者であって欲しいものです。

 ここは私が囮となって――と考え始めた時、荒くれ者の集団を飛び越えて、ふわりと優雅にメイド姿の女性が目の前に着地しました。


「主の命により、只今より状況に介入致します」


 ……あれ? このメイド……どこかで見たことがあるような?

商人「……ほっ。助かった」

作者「助かって良かったね。それで、頼みたい商品があって」

商人「だ、誰ですか? あなた! で、であえ! であえ〜! 曲者だあ〜!」

作者「ち、違うから!(逃亡)」

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