対「魔物大発生」 2
陽が完全に昇っても、森から魔物は続々と出て来ていた。
実際に対応して思った通りというか、浅層に出てくる魔物しか森から出て来ていないので、数の脅威はあるが、そこにさえ気を付けていればどうにでも対応できる。
何しろ、ヘルーデン混成軍は冒険者、騎士、兵士の混成で強く、数も多い。
多少の負傷はあるだろうが、真正面からぶつかっても余力を残して完勝できるくらいの差がある――今のところは。
調査で中層の魔物も増えていたことは確認をしているので、厳しくなるのはこれからだろうから、取れる時にしっかりと休息は取っておいた方がいい――と、平原の戦場となっている部分を一回りしたあと、休息を取るために門のところに築かれたヘルーデン混成軍の拠点に戻り、ウェインさま……は戦場に出ているそうなので、マスター・アッドに報告しておく。
「そうか。報告助かる。俺も戦場に出て肌で感じたいところだが」
「ああ、ウェインさまが今出ているからか。マスター・アッドまで居なくなると、さすがに指揮を取るのが……騎士団長とかは?」
「ウェインさまと行動を共にしている」
「そうか。……まあ、他に居ないようだから頑張ってくれ」
「ウェインさまから頼まれたこととはいえ、俺の立場で騎士団にまで指示を出すのは胃が……ラウールアさま、代わってくれませんか?」
ラウールアは嫌そうな表情を浮かべる。
「嫌よ。ここで指示を出すことより、私は前に出て戦いたいもの」
どうやら、父親譲りの気質を兼ね備えているようだ。
マスター・アッドが縋るように俺を見てきたので、首を横に振った。
「今は貴族ではないから立場的に無理というのもあるが、そもそも俺は父上や兄上と違って指揮とかそういうのは向いていない。だから、諦めてくれ」
まあ、父上もどちらかと言えば苦手……いや、できるけどウェインさまと同じで自分が前に出るタイプだからな。戦闘指揮に関しては兄上が一番である。
ただ、どちらもこの場には居ないので、どうしようもない。
それに、代われたとしても、今代わるのは余計な混乱を招くだけだと思う。
マスター・アッドもそれがわかっているからこそ、更に言ってくるようなことはしてこない。
代わってくれと言っていきたのも、ちょっとした息抜き、程度の会話なのだろう。
報告を終えれば休息を取る。
今後の展開がどうなるかわからないというか、厳しくなるのは間違いないため、取れる時休息を取って万全の態勢にしておきたい。
ヘルーデン混成軍の拠点の一角で休息を取っていると、ラウールアが話しかけてきた。
「調査で森に入っていた時はそこまで気にしていなかったけれど、ジオはアトレが気にかけているだけあって中々強いわね」
「どうした? 急に?」
「しっかりと戦う姿を見て、そう思ったのよ。剣の腕前も中々だけど、それよりも体捌きとか、体の動かし方が尋常ではないし、普通はあれだけ動けば息くらいは切れるものだけれど、ジオは少しも切れていない。それどころか、疲れた様子も一切ないのは単純に凄いと思うわ。お父さまが私より強いって言っていたけれど、それが本当だと思ったのよ。だから、聞きたいことがあるんだけど構わないかしら?」
「何を聞きたいんだ?」
「ジオの目から見て、私ってどう?」
どう?
「貴様! 正体を現しましたね! ジオさまに言い寄る者は強制排除します!」
「ラウールアさまに何をしようとしているのですか! 危害を与えることは私が許しませんよ! しかし、ラウールアさま、今の発言はどういうことでしょうか? 意図を知りたいのですが!」
何やらアイスラとアトレが急に騒がしくなった。
いつものこと――とするのはまだ早いが、もう慣れた感はある。
まあ、その内落ち着くか、行き過ぎないところで止めれば大丈夫だと思うので、今はラウールアに答えないといけない。
「そうだな……悪くないと思う」
「なっ!」
「ええ!」
アイスラとアトレが何か反応しているようだが気にしない。
ラウールアは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「そ、そう?」
「ああ。幼少期からしっかりとレイピアを振るっていたとわかる。間違いなく、年齢に見合わない腕前だと思う。その腕前だけでも、同年代の中だと相当上位に位置する戦闘能力だと思う」
「そこまで言ってくれるんだ。ふふん。素直に喜んでおくわ。ありがとう」
より嬉しそうに笑みを浮かべるラウールア。
そういえば、先ほどまでこちらに反応していたと思われるアイスラとアトレが静かになったな、と視線を向ければ「あっ、そっちですか」と言うような表情を二人共が浮かべていた。
……そっちとは?
わからないので、そのままラウールアと話す。
「レイピアの腕前はさすがだな。でも、他にも何かしらの手段を持っているのではないか? なんと言えばいいか、ラウールアの動きはレイピアだけで完結するような動きではないように見える。違うか?」
「……凄いわね。そこまでわかるものなの?」
「まあ、観察眼はそれなりに自慢だからな。だから、ラウールアがレイピアの他にも何かしらの攻撃手段――それも切り札となりそうなものを持っていそうな気がしているのだが、どうだ?」
「……へえ。どうでしょうね? もし、持っていたとしても切り札なら簡単に見せる訳にはいかないわね」
「それはそうだ」
「そういうジオはどうなの?」
「ラウールアと同じ意見だ、とだけ言っておく」
そのあとは、ラウールアからレイピアの扱いについて聞かれたのでそれに答えたり、アイスラとアトレがどちらの淹れた紅茶が美味しいか――アイスラは俺、アトレはラウールアの舌に合わせたもので意見が分かれて結果は引き分け――といったことをしている間に休息を取り終えると再度草原へと出て、戦場となっている部分を魔物と戦ったり、負傷者を運んだりしながら一回りする。
一回りし終われば、休息を取ってからまだ一回り。
それを何度か繰り返している中で、ハルートたちの姿を見かけた。
シークとサーシャさんが前に出て、ハルートが援護と二人の後ろに魔物が回ってこないように奮闘している。
頑張れよ、と思いつつ先へと進む。
そうしている間に――陽が傾き始めた頃だろうか、森から出てくる魔物は変わらず浅層ばかりではあるが、その数が少なくなっていっていることに気付く。
いや、まだ勘違いかもしれないので、アイスラ、ラウールア、アトレにも確認するが、三人共が同じように感じていた。
「減ってきたということは終わりということ?」
ラウールアが尋ねてくるが……まだ終わりではない気がした。
森を見て伝わってくる雰囲気というか、圧力のようなものは何も変わっていないので、まだ終わらないと思う。
とりあえず、現れる魔物の数が減っていることをマスター・アッドに報告しに行くことにした。
作者「ふう……ふう……どうにか生き延びれた……」
ジオ「あっ、お疲れさま」
アイスラ「あっ、お疲れさまです。ジオさま。このあとのことですが」
ジオ「どうしたの? アイスラ」
作者「軽い! なんか対応が軽い! もっと心配してよ!」