未来が見えた
ヘルーデンに戻る。
調査報告に関して、冒険者ギルドの方はハルートたちに任せればいいだろう。
ウェインさんの方は、ラウールアとアトレに任せれば大丈夫だ。
つまり、俺とアイスラはどちらに行ってもいいし、行かなくてもいいということだが……。
「ウェインさまの方に行こう」
そうすることにした。
理由として、ちーちゃんとは別につーちゃんで母上に手紙を出せるので、何かあれば直ぐにでも送れるということをルルアさまに伝えるためだ。
ハルートたちとは一旦分かれ、辺境伯の城へと向かう。
いつもなら門で待たされるが、今回はラウールアと一緒であるため、すんなりと中まで入ることができた。
ウェインさまとルルアさまにもいつもの部屋で直ぐに会うことができたので、こちらも直ぐに報告を行う。
聞き終えたウェインさまは真剣な表情を浮かべ、ルルアさまは考える素振りを見せたあとに「急いだ方が良さそうね」と口にした。
何を急ぐ……まあ、「魔物大発生」に対して早く情報を纏めて、母上に教えたいのだろう。
報告を終えれば、ウェインさまとルルアさまは直ぐに動き始めたので、俺とアイスラはラウールアとアトレに「それでは、今日はこの辺りで」と告げてから辺境伯の城をあとにして、宿屋「綺羅星亭」に戻った。
冒険者ギルドでマスター・アッドに報告し終えたハルートたちが戻って来たので、一緒に夕食を頂く。
―――
翌日。ヘルーデン全体が大きく揺れ動いた。
「魔物大発生」が始まったからではなく、「魔物大発生」がもう少しで起こる、と辺境伯からヘルーデン全体に向けて通達が出されたからである。
町中に出ると、嘆く者、達観する者、荷物を抱えて逃げ出す者、武器を手に取る者など、反応は様々だった。
ただ、見た限りだと、ヘルーデンに残ると決めた人の方が多い感じだ。
残って戦って守る、と意気込んでいる。
町中の様子を見ている中で、ジネス商会の様子も少し窺う。
キンドさんが従業員に忙しなく指示を出している姿があった。
……うん。これは邪魔をしてはいけない。
キンドさんが口にした通りに残ってくれることを嬉しく思いつつ、他にもキンドさんのように、ヘルーデンを守るために行動している人たちを町中で多く見かける。
だからこそ、ヘルーデンだけではなく、そういう人たちも守らなければならないな、と思う。
冒険者ギルドの方も見てみた。
「いいか! 冒険者たちよ! 騎士や兵士は確かに強い! だが、日頃から魔物を相手にしているのは誰だ? お前たち冒険者だ! その力を見せつける時だ! 本領発揮する時だ! やるぞ! お前ら! 俺たちの手でヘルーデンを守るのだ!」
「「「………………」」」
マスター・アッドがヘルーデンに残った冒険者たちを集めて、演説のようなことをやっていたようだが、冒険者たちの反応は悪い。
このまま士気が悪いと、他にも影響しそうなので、どうにか上げて欲しいのだが……。
「……はあ。わかっている。辺境伯とも話はついている。今回は参加するだけで多額の報酬が出る! また、大物を仕留めたヤツには更に大きな報酬が出る!」
「「「おおおおおっ!」」」
冒険者たちが大いに盛り上がる。
これくらいの士気の高さがあれば十分だろう。
「……即物的ですね」
アイスラの冒険者たちを見る目は冷たい。
でも、アイスラは冒険者たちに慕われているようだし、そのアイスラが言えば高い士気で参加するのでは? と思ったが口にはしなかった。
なんとなく、それを口にすると―― 否定するアイスラ → 冒険者に確認すると肯定 → 口封じ → 冒険者が次々倒れてこちらの戦力が落ちる ――みたいな未来が見えたからだ。
今は少しでも戦力が欲しいので黙っておいた。
見つからないように冒険者ギルドを去り、次は騎士団の方でも見てみるか、と辺境伯の城へと向かう。
辺境伯の城に近付けば近付くほど、騎士と兵士の姿をよく見かけるようになった。
慌ただしく動いていて、大きな荷物を抱えて運んでいる姿もある。
そろそろ辺境伯の城に着きそうだな、というところで――。
「あっ、見つけた」
見つかってしまった。ラウールアに。アトレも居る。
しかし、見つけたとはどういうことだ? と尋ねると、ラウールアとアトレは宿屋「綺羅星亭」に俺とアイスラを呼びに来たそうだが居らず、町中を探していたそうだ。
ご苦労さまです。
探していた理由は、ルルアさまが呼んでいるから。話したいことがあるそうだ。
断る理由はないので、ラウールアとアトレの案内で会いに行く。
……アイスラ。直ぐ喧嘩を売ろうとしない。アトレの方はラウールアに任せる。
一定以上の距離を開けつつ、会話に気を付ければ大丈夫なようなので、俺とラウールアが間に入ることで一先ず大人しくさせた。
元々向かっていたということもあって辺境伯の城に直ぐ着く。
いつもの部屋でルルアさまと会い、話を聞く。
ウェインさまは騎士団の方に居て、「魔物大発生」に対して指示を出したりと、積極的に動いているそうだ。
それで、ルルアさまの話というのは、「魔物大発生」が作為的に起こされたものだというのが判明したことだった。
実行犯は、ラウールアとアトレが捕らえた十人。
他にも居るそうだが、今のところは捕まっていない。
ただ、かなりの数が動員されているそうで、用いた手段は禁止されている魔道具「誘魔」を使い、「魔の領域」である森の各地に居る魔物をヘルーデン近郊まで誘い出して集めることで、「魔物大発生」を引き起こす目論見だそうだ。
まあ、その目論見は成功した、というのが現状である。
この辺りまでは、捕らえた十人を尋問――手段を聞いてもルルアさまは微笑みを浮かべるだけだった――したことでわかったことで、それ以外は十人が拠点としている場所くらいしかわからず、その拠点に騎士と兵を差し向けたが既に潰されていて痕跡は消されていたらしい。
そこから先は追えず、首謀者もわからなかった。
しかし、禁じられた魔道具を使っていることといい、ここまで大規模となると、高位貴族が絡んでいるのは間違いないのだが、今そこから先を調べるだけの余力がない。
だから、今聞いた情報を纏めた手紙を書いたので、母上に届けて欲しい――とルルアさまからお願いされる。
もちろん、わかりましたと頷きを返す。
急いだ方がいいだろうと、手紙を受け取ると辺境伯の城を出て、ハルートたちを探す。
行動を共にする、ということでラウールアとアトレも付いてくる。
ハルートたちは宿屋「綺羅星亭」には居らず、冒険者ギルドで見つけることができた。
「あっ、見つけた」
「見つかってしまった――え? 何が?」
不思議そうに尋ねてくるハルートに事情を話し、現状でつーちゃんをヘルーデンの方に呼んで見つかってしまうと大騒ぎになってしまうので、行って戻れる時間はあるため、早速「魔の領域」である森へと向かう。
程よく進んだ場所でつーちゃんを呼んでもらい、手紙を鞄に入れたところで――ふと思い立ってハルートに確認して、遠くに居ても繋がりで呼べるようなので、つーちゃんはそのまま母上の方に待機してもらう――という旨をこの場で書いた紙も一緒に入れておいた。
今のところ、こちらから報告することはなく、母上からの調査報告待ちになると思ったからである。
つーちゃんが飛び立つのを見送ったあと、俺たちはヘルーデンに戻った。
―――
翌日。慌ただしい町中を進んでいって、ラックスさんのところに向かう。
「武器の手入れだろ。やってやるからさっさと出せ」
こちらが何か言う前に、何をしに来たかわかっていたようだ。
剣を渡す。
「ヘルーデンに残るのか?」
「あん? お前らがどうにかするだろ。出て行く必要はねえよ」
なんでもないように、ラックスさんはそう答えた。
期待されているかはわからないが、確かにどうにかするつもりではある。
剣が綺麗に手入れされて、あとはもう、その時を待つだけだ。
それから数日後。
遂に「魔物大発生」が起こった。
作者「それじゃあ、俺は避難しますので! 健闘を祈る!」
ジオ「いや、大丈夫だから」
アイスラ「おっと、肉盾に良さそうなのが」
ラウールア「え? 何? 捕まえておけばいいの?」
アトレ「ラウールアさまへの攻撃を防ぐ壁に使えそうですね」
作者「避難させてくれ〜!」