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強くなった

 ラウールアさまと一緒に食事を頂く。

 アイスラはまだ朝食を頂いていないと思うので「先に朝食を」と口にすると、ラウールアも「朝食を頂きなさい」とアトレに言って、両者は睨み合うことをやめ――ずに、睨み合いながら、それぞれ俺とラウールアさまの横に着席して朝食を注文する。

 さすがに朝食がくればやめるだろう、と思って何も言わなかった。

 実際、朝食が届けば、大人しく食事を始める。


 いや、大人しくしていなかった。

 見ていたらなんとなくわかったのだが、どうやらどちらがより優雅に食事ができるか、みたいなことをやっている。

 優雅に切り分けてから頂き、相手を見て「ふっ」と笑みを浮かべ――所作で優雅さを演出しながら水を飲み、相手を見て口角を上げたり、といったことをやっていた。


 食事時くらいは止めればいいのに、と思っていると、ハルートたちが食堂に姿を現わす。

 こちらを見てなんとも言えない表情を浮かべるが、いいから来い、とこちらに招く。

 ラウールアにハルートたちのことを聞いているか尋ねると、「聞いていない」と答えたので、軽くだが互いについて俺が紹介文を口にする。

 ラウールアについては辺境伯の娘、アトレはラウールアと一緒に居る執事で、こちらから少しの間行動を共にする――で大丈夫だが、ハルートたちの方は俺の協力者たちであること以外は濁しておいた。

 ハルートのギフトや、シークとサーシャさんが「暗殺夫婦」など、こういう場で口にすることは憚れるし、本人の許可なく口にしていい場合でもないからだ。

 なので、今は共に食事を頂く仲、で構わない。


 無理だった。

 ラウールアは特に気にしていなかったが、ハルートの方は「辺境伯令嬢さま!」と驚き立ち上がって固まる。

「そういうの気にしなくていいわよ。多少は砕けていた方が私も接しやすいし」とラウールアが言うがハルートに聞こえているかは怪しい。

 ウェイン様の時のこともあるし、少し時間がかかると思う。

 シークとサーシャさんは「わかった」と返すだけだったので大物だと思ったが、「暗殺夫婦」として過ごしていた時に対象が貴族とかもありそうなので、そもそもそういうのは気にならないのかもしれない。


 と思っていたら、ハルートが恐る恐る俺に尋ねてくる。

 ……ん? どうした? ……アイスラとアトレはどうして競い合っているのか?

 ここはそういうものだ、という認識で大丈夫だ。


     ―――


 朝食が終わると、全員揃って「魔の領域」である森へと向かう。

 もちろん、ハルートの希望を聞いて、お礼としての戦闘を早速行うからだ。

 森に入って、魔物を倒しながら奥へと進んでいく。

 そうしている間に、ハルートもラウールアに少し慣れたようで、話せるようになっていた。

 森の中を進んでいる内に程よい場所を見つけたので、まずはハルートがギフトで招いた新しいテイムモンスターを紹介される。

 新しいのは――なんというか、ちーちゃんの色違いだった。


 体は艶のある純白で、腹は黒々と輝き、額と喉が氷のような青く染まっていて、尾はちーちゃんと同じで長く、先が四つに分かれている。

 既に鞄は提げていた。

 名前を聞くと「つーちゃん」と返される。

「つつつ」とつーちゃんが鳴く。

 呼ばれたと思ったのかもしれない。


 これにラウールアが反応した。


「可愛い! 可愛い! 可愛い!」


 つーちゃんに抱き――着こうとして、避けられる。

 容易に触らせない、とつーちゃんはハルートを盾にした。


「いきなり抱き着こうとするな。そもそも、ハルートがテイムしたのだから、まずはハルートに抱き着いていいか聞くべきだろう」


「それもそうね! 抱き着いていいかしら?」


「えっと……さっきのに驚いて警戒しているから今は無理かと」


 ハルートが申し訳なさそうに答える。

「残念ね。非常に」とラウールアは少しだけ落ち込んだ。

 つーちゃんに関しては、今回は顔見せなので帰ってもらう。

 少ししたら手紙を書くので、その時頼らせてもらう。


 次に行うのは、ハルートとの戦闘。

 どれだけ強くなったのだろうか、と俺が直接戦うつもりだったのだが、アイスラが「私がやります」と前に出たので任せることにした。


「さあ、どこからでもかかってきなさい」


「行くぞ!」


 戦いが始まる。

 どれだけ強くなったのかを見極めるためか、アイスラは守りに徹して、ハルートが攻め続ける、といった形となった。

 時々アイスラが反撃をして、ハルートが防げるかどうかを確認している。

 俺だけではなく、シークとサーシャさん、ラウールアも見ているだけだったのだが、アトレだけは違っていた。


「今なら合法です! 私が双方合意の上であり、無実であると証言、証明しますので殺りなさい! そこです! 惜しい! あともう一歩踏み込むことを意識して! 体に余分な力が入っています! 力を抜くというのはただ脱力すればいいということではなく、適切な力を残すということです! 余分な力は却って動きを悪くするものなのです!」


 う~む。アイスラをどうこうよりもハルートに対するアドバイス的な部分の方が多いので、止めるかどうか悩む。

 それに、俺が言っても止まるかどうか、と思っているとラウールアが「黙りなさい、アトレ」と言って止めてくれた。

 感謝、でいいのだろう。多分。


 そのあとも少しだけ戦いは続き――。


「参りました。これ以上は動きが悪くなるだけだから必要ないと思う」


 ハルートの息が少し切れて肩を動かし始めた辺りで、ハルート自らがそう申し出てくる。

 うん。これは訓練みたいなものであるし、どこまでできるようになったかを見せる戦いだ。

 徹底的に、どこまでも戦う、というものではないため、自分でここまで、これ以上は厳しいと判断できたのなら、それはそれで十分成長していると思う。


 戦いの方も悪くなかった。

 アイスラが一撃も食らっていないのは、まあ仕方ないというか元々の強さが違い過ぎるからであって、成長という意味でみれば、ハルートは以前よりも間違いなく強くなっている。

 それは確かだ、とハルートに真摯に伝えると、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 実際に対峙したアイスラも「強くなっていますよ。ですが、まだまだ成長できますので頑張りなさい」と激励の言葉をかける。

 これなら「魔物大発生(スタンピード)」が起こった時、頼むことがあるかもしれないし、独自に動いても大丈夫だろう。

 シークとサーシャさんも居るし。


 あとはハルートを休めたあと、森に居る魔物退治ち調査を行おう、と言おうとした時、アトレが前に出て――。


「なるほど。素晴らしい戦いでした。ですが、負けたままというのは幾分気分が悪いでしょう。良ければ、私があなたに代わって、あのメイドに敗北をプレゼントしようと思うのですが、如何でしょうか?」


 ハルートにそんな提案をする。

 誰よりも早くアイスラが反応。


「まるで私に勝てるような物言いをしますね。別に戦っても構いませんよ。ただ、そうなるとあなたは否が応でも身の程というものを知ることになりますが、構いませんか?」


「それを知るのはあなたですよ」


 アトレが瞬時に距離を詰めてアイスラを襲う。

 アイスラは冷静に受け流し、反撃。

 反撃を避けつつアトレが反撃し、それを受けつつアイスラが反撃を――と二人はいきなり格闘戦を始めた。

 目まぐるしい攻防が繰り広げられる。

 少なくとも、格闘戦において二人は拮抗しているようだ。


 ただ、いきなり戦うのはどうなのだろうか。

 ラウールアは「はあ……」と諦めたような息を吐く。

 まあ、言えば止めるだろうが、こういうのは止めてしまうと燻りが残ってしまうことがある。

 だから、発散させる必要があるし、戦っているのは丁度いいのだけれど……決着が着かなそうな気がした。

 ハルートの時と違って、どこまでも――続けられるまで続けそうだ。


 ………………。

 ………………。

 良し。これしかない。


「時間がかかりそうだから、これからヘルーデンに戻るまでに多くの魔物を倒した方を勝利とする! 始め!」


 声を張り上げて言った瞬間――アイスラとアトレは格闘戦を止めて駆け出し、森の中へと消えていくと――。


「はい! 一体目!」


「こちらは二体同時ですが?」


 そんな声が聞こえてきた

 これでいいだろう。

 ラウールアから「いい手ね」と褒められる。

 こちらが見ていなくても、二人はどちらも不正はしないだろう。

 それで相手に勝利するのを良しとしないだろうから。


 そうして、ハルートの休憩が終われば、残った皆で魔物を倒して調査を行う。

 結果としてはわかったのは、特定の魔物の種が多いとかではなく、満遍なくといった感じで、中層より浅層に現れる魔物の方が多い、といったところだった。

 あと、止めることはできない。

 魔物は次々と増えていっている。

魔物大発生(スタンピード)」発生は時間の問題だろう。


 そこまでわかったところで、ヘルーデンに戻ることにした。

 なので――。


「そろそろ戻るぞお!」


 聞こえるように大声で言うと、巨大で武装したオークが現れる。

 まあ、大声を上げれば聞きつけた魔物が現れるのは何も不思議ではないだろう。

 ただ、戦う気はない。必要がないのだ。

 巨大なオークの左右からアイスラとアトレが現れる。


「「これで、三十体目!」」


 アイスラの拳とアトレの蹴りを同時に食らい、巨大なオークは倒れた。

 魔物を倒した喜びは一切見せずに、アイスラは俺の前に、アトレはラウールアの前に瞬時に移動する。


「ジオさま。ジオさまなら見えていましたよね? 私の拳の方が先に当たり、そのままオークを倒したのを」


「ラウールアさま。ラウールアさまなら見ましたよね? 私の蹴りが先に当たり、オークを絶命させたのを」


 ラウールアと目を合わせ、互いに頷いてから答える。


「「同時だった。だから、引き分け」」


 実際、俺の目から見ても同時だったので、狙った訳ではない。

 アイスラとアトレは不服そうな表情を浮かべる。

 だが、事実なので納得してもらうしかない。

 俺はアイスラを、ラウールアはアトレを宥めつつ、全員揃ってヘルーデンに戻っていった。

アイスラ&アトレ「「これも倒せば数に入りますか?」」

作者「入りません。というか、誰がこれだ!」

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