一番安心
宿屋「綺羅星亭」の食堂で夕食を取っていると、ハルートたちが現れたので、同じテーブルについてもらって共に食事を取る。
食事を取りつつ、ハルートたちが最近どうしているのかを聞いた。
マスター・アッドからの直接依頼である「魔物大発生」調査をまだ継続中で、毎日「魔の領域」である森へと入り、増え続けている魔物の規模や種類を調べて、マスター・アッドへ報告しているそうだ。
おお。それなら話は早い、と俺とアイスラも調べたことをハルートたちに教えて合わせて伝えてもらうことにした。
あと、こちらについてだが、作為的な部分の進展? については話さないでおく。
というのも、ラウールアさまとアトレが捕まえた悪者? 十人からはまだ何も聞いていないので容疑者でしかなく、わからないままだからである。
だから、まずはちーちゃんの動向を聞く。
「えっと……うん。南の国の指定した場所に向けて真っ直ぐ飛んでいっている、かな」
大丈夫なようだ。
なので、また頼むことになるのは少し申し訳ないのだが……。
「今ではないが、少ししたら母上に手紙を送りたい。ただ、ちーちゃんは間に合わないかもしれないから」
「ああ、それは問題ない。ちーちゃんを南の国に行かせると聞いた時に、そういうこともあるだろうと、実はもう既に新しいのが居るんだ。シークさんとサーシャさんに手伝ってもらって、ギフトで」
「おお、それは、うん。ありがとう。素直に感謝しかない。それで、こうして手伝ってもらっているし、何かお礼をしたいところだが、何かあるか? 欲しいものとか、やって欲しいこととか」
「それも、実は考えていた」
そう言って、ハルートはシークとサーシャさんを見る。
シークとサーシャさんは好きなようにすればいいというように頷きを返した。
「……俺と、戦ってくれないか。実は、シークさんとサーシャさんには今も俺を鍛えてもらっていて、どこまで強くなったのか確かめたいんだ」
「なるほど。わかった。いいぞ」
それで話がまとまった。
ハルートが望むのなら、強くなったかどうか、しっかりと確認してやろうではないか。
いい覚悟だ、と笑みを浮かべる。
見れば、アイスラもいい覚悟です、と笑みを浮かべていた。
そんな俺とアイスラの表情を見たハルートは「はは……早まったかもしれない」と呟く。
―――
翌日。起きた瞬間、何故か嫌な予感……いや、嫌なというか、面倒な予感がした。
何故だろうか? と首を傾げながら食堂へと向かうと――答えが判明する。
「はあーい! おはよう! 待っていたわ! 昨日はいつの間にか居なくなっていて驚いたわよ。色々と話したかったのに。お父さまとお母さまも、泊っていけばいいのに、と言っていたわ」
食堂にラウールアさまが居て、食事を取っていた。
頭を抱えそうになる。
待てよ。ここにラウールアさまが居るということは、と食堂内に視線を向けると――。
「「………………」」
思った通り、ラウールアさまから少し離れた位置で、アイスラとアトレが睨み合っていた。
一瞬即発のような雰囲気を漂わせつつ無言というのが、どことなく怖さを感じさせる。
よく見れば、朝食の時間だというのに人の数がいつもより少なく、食堂に居る人も、巻き込まれないようにと距離を取っていた。
一日の始まりである朝食はゆっくり取りたいところだが、ラウールアさまが待ち構えているので、周囲の席に座るのは無理だろう。
諦めて、ラウールアさまと同じテーブルにつく。
「おはようございます。ラウールアさま。本日はどうしてこちらへ?」
貴族令嬢であるとわかった以上、合わせた態度を取ったのだが、ラウールアさまはムスッとした表情を浮かべる。
「昨日の感じがいつも通りなんでしょ? 私が誰かわかったからといって、それに合わせる必要はないわ。私もこれまでと変わらずに接するから。堅苦しいのは少し面倒なのよね。あっ、さま付けも要らないから」
ラウールアさまがそう望むのなら――と「わかった。そうする。ラウールア」と返す。
満足そうな笑みを返された。
それで、「どうしてここに居るのか?」と尋ねると、「お母さまの命令で来た」と言われる。
どういうこと? と尋ねると、あのあとラウールアがルルアさまに「魔物大発生」に対する協力を申し出たところ――。
「協力は嬉しいわ。でも、親として危ない目に遭わせるのは……と言いたいけれど、それで止まる娘でないこともわかっている。だから、協力するにあたって条件を出します。『魔物大発生』が終わるまでジオと行動を共にしなさい。それが一番、私が安心できるから」
と、周囲に聞こえないように小声で教えてくれた。
小声なのは、「魔物大発生」について関係各所は動いているようだが、まだ公表はされていないからだろう。
う~む。これはアレだな。ルルアさまが一番安心できるというのもあるが、側に俺が居ればラウールアを守るために動く――というのと、ラウールアが側に居れば俺も無茶をしないだろう、と考えての条件な気がする。
俺が断ると思わなかったのだろうか……まあ、断らないけれど。
「わかった。そういうことなら共に行動しよう」
「いいの? 断られると思っていたわ」
「まあ、これから起こることは全体的な話だからな。ラウールアが居た方が、ウェインさまやルルアさまに早く話が通しやすくなる」
「なるほど。それは確かに。直に伝えられるからね。でも、本当にいいの?」
ラウールアが視線を横に向ける。
視線の先には、先ほどよりも強く睨み合っているアイスラとアトレが居た。
そうだよな。ラウールアと行動を共にするということは、アトレも付いてくるということになる。
「……言ってどうにかなるとは思えないが、とりあえず、妙なところでこうならないように気を付けることくらいしか、今は思い付かないな」
「まあ、そうなるよね」
はあ……とラウールアと一緒に息を吐く。
ラウールアが気分を変えるためにか聞いてくる。
「それで、今日はこれからどうするの?」
「そうだな。とりあえず、森に入って魔物の数を減らすのと、どういうのが増えているのかの調査することは確定している」
「いいね!」
ラウールアは嬉しそうだが、戦うことが好きなのだろうか?
あとは、ハルートたち――というかハルートが望むのなら今日にも強くなったか確認したいところだ。
それで、「魔物大発生」が起こった時に頼めることがあるかもしれないし……というか、ルルアさまはラウールアにハルートたちのことを教えているのだろうか?
聞いてこないということは知らないかもしれないので、その時は俺が紹介すればいいか――と、ハルートたちが来るまで朝食を頂くことにした。
ちーちゃん「南の国へ! 今、私は誰より速く飛んでいる! ……旋回とか、きりもみ回転とか、しようかな!」
作者「あれ? 今、なんか飛んでいった?」