応援された 2
今日、二話目です。
門番の一人に案内されるまま、事態はさくさくと進んでいく。
まずは証明物を作ってしまおうと、冒険者ギルドへと向かった。
良くも悪くも、冒険者ギルドが一番手っ取り早く証明物を作れるからだ。
これで商業ギルドであれば、登録後に年間支払い義務みたいなモノが加わるらしいので、冒険者ギルドの方が気楽である。
もちろん、気楽でお手軽とはいえ規則的なモノはあるが、それは最低限のことに加えて冒険者としての心構え的なモノだけなので、そもそも冒険者として活動する気は今のところないので、証明物として使えればそれで十分なのだ。
冒険者ギルドカードを作る際、登録名は「ジオ」にしておいた。
別に珍しい名前でもないので大丈夫だろう。
それよりも下手に名を変えて反応できなかった時に困るかもしれないので、そのままだ。
アイスラも作るようで、登録名は変えずに「アイスラ」である。
ただ、作る際に気になることがあった。
それは冒険者ギルドカードを作る際のこと――。
「「「………………」」」
成人しているかどうかの男性に、メイドが付き添い、門番が案内してきているのだ。
目立つ。非常に目立つ。
冒険者ギルド内に居た冒険者たちから好奇の視線が向けられる。
……こっちを見ている暇があるのなら依頼に集中しろと言いたい。
その視線を気にして、冒険者ギルドカードはアイスラと門番に任せて形になってしまった。
まあ、門番が説明して上手く取りなし、アイスラがそれを補っているようだ。
多分、アイスラが門番たちにした話をもう一度していると思われる。
それで何故か受付嬢が興奮しているようだが……そんな要素があるのだろうか?
アイスラがしている話は気になるが、やはり周囲の冒険者たちから向けられる視線の方が気になってしまう。
……そうか。わかった。アイスラは美人である。それは疑いようがなく、間違いない。
対して俺は平凡。父上や兄上のような迫力系統は一切身に付けていないのは自覚している。
つまり、あんな美人のメイドが、なんであんな冴えない奴に? ということだ。
………………。
………………。
あれ? もしかして、このあと絡まれる? 人気のないところに連れていかれて痛い目に遭わされる……はさすがにないか。
絡まれるのはまだしも、痛い目は無理だ。
正直なところ、周囲の冒険者たちが束になって襲いかかっても、アイスラには勝てない。
アイスラはそれだけ強いのだ。
だから襲われても問題ないのだが……おかしい。
途中から雰囲気が変わっていった。
こう、硬いモノが軟らかいモノへ、というか……意味がわからない。
――ある意味、意味がわかった。
門番たちと同じだ。
アイスラの話を聞いて態度を軟化させたようである。
何故それがわかったかと言えば――。
「男を見せたな」
「幸せにしてやれよ!」
「わかった。もし、そんな奴が来ても、あんたたちは見たことないってことにしておいてやるよ。だから、安心しな」
門番たちと同じように何故か応援された。
……まあ、意味がわからなくても、応援してくれるってなんか嬉しくなる。
中には無言でサムズアップしてくる奴も居た。
受付嬢は両拳を握り、口パクで「頑張って」と。
……本当に意味はわからないが。
なので、わからなければ聞けばいい。
話した本人が居るのだから。
「アイスラ」
「はい」
「さっきから気になっていたけれど、どういった話をしているのか教えて」
「はい。今はオススメの宿について話をしていました」
「いや、そうではなく」
「値段は一般的な金額より高いですが、出せなくはありません。それに、何よりまずは安全であることを最優先にしております。あっ、勝手に話を進めてしまいましたが、本日はこちらで一泊する、ということでよろしかったでしょうか?」
「え? あ、うん。それは別に構わない。元々ここで宿泊して、しっかりと疲れを取るつもりだったから」
「はい。今後の道程のためにも、ここで一度疲労を取り去ることは重要です。さすがの判断力でございます。ジオさま」
「ありがとう。それで」
「門番の人は宿の方にも案内してくれるとのことですので、早速向かいましょう。宿泊人数には限界がありますので、早めに宿を取っておく必要があります」
「ま、まあ、確かにその通りだ。早速行こうか」
「さすがの即断力でございます。ジオさま」
なんだろう。褒められている気があまりしない。
けれど、予め宿を取っておくことは重要である。
直前では断られる可能性があるし、何より宿が決まっているのと決まっていないのとでは、取れる活動の幅が全く違う。
なので、出来上がった冒険者ギルドカードを受け取って、冒険者ギルドを出てから門番の案内で今度は宿屋へと向かう。
「「「頑張れよ~!」」」
冒険者ギルドを出る際に受付嬢や冒険者たちから応援された。
多分だけど、俺が頑張らないといけないと思うことと、応援してくれた人たちが頑張れと思うことは違うと思う。
案内されたのは「黄金の豊潤亭」という名で、美味いパンと酒が自慢の宿屋だった。
ここでもアイスラと門番は女将を相手に説明? 演説? を始めたので、その間に俺は若女将? 看板娘? にお願いして部屋を二つ取る。
男女別は当然だと思うのだが、何故かそのことを知ったアイスラは絶望の表情を浮かべた。
かと思えば、直ぐ何やら考え込み出して――。
「……いえ……つまり……夜這いに来る可能性が……」
……?
聞き取れないが、アイスラの表情は真剣だ。
何か思うところがあるようなので邪魔しないでおこう。
そのあとは、案内してくれた門番にお礼を伝え、食事を取る。
出された料理はどれも美味しかったが、自慢するだけはあって、パンが一番美味しかった。
酒はさすがに飲め……いや、もう成人として認められる年齢になったから飲んでも……どうなるかわからないのでやめておこう。
時機を見て、だな。
部屋に入ると、王都を出てからここまで強行したことで思っていた以上に疲労していたのか、直ぐ寝入ってしまった。
―――
――翌日。
「……折角、勝負したg……」
何やら呟きながら落ち込み、何故か寝不足のように見えるアイスラを連れて宿を出る。
俺の方はしっかり寝て疲れも取れた。
「なんならもう一泊しておく?」
「……いえ、問題ありません」
そうは言っても――という感じだが、まずは町中で食料などの必需品の買い物をする予定なので、その間に大丈夫かどうか判断しようと町中を進んでいると、何やら諍いを起こしている人たちが居た。
アイスラ「……しっかりと準備していたのに」