会ってみないとわからない
一旦、宿屋「綺羅星亭」に戻ることにした。
冒険者ギルドよりも、そこの方がハルートと会うのに確実だからである。
戻っている間に思うのは、辺境伯の城を出る前にルルアさまから言われた言葉。
ウェインさまとルルアさまの娘……記憶にない。
会ったことはないと思う。
でも、母上とルルアさまは交流があるし、記憶に残らない幼い時に会っている可能性は十分にある。
いや、それもどうなのだろう。
何しろ、相手のことがまったくわからない。
歳すら知らないのだから、俺と同年代かどうかも定かではない。
アイスラは本来母上の専属メイドであるし、会ったことがあるのではないかと聞いてみたが、返答は「会ったことはありません」だった。
ただ、どのような人物なのか推測はできる。
母上とルルアさまの歳はそう離れていないので俺と歳は近いと思うし、今ヘルーデンに居なくて王都から帰ってくるということを含めて考えると、王都の学園に在学中なのではないだろうか?
多分、間違えていない。
となると、王都の学園は成人前の男女が通うところなので、成人して既に卒業している俺よりも下だと思う。
この推測は間違っていないと思うが……もし本当に王都の学園生だとしたら、俺のことを向こうは知っているかもしれない。
というのも、学園で俺は少しばかり有名だった。
いい意味ではなく悪い意味で。
なんというか、俺のギフト「ホット&クール」は大したことがない、使えない、と散々馬鹿にされていて、それは学園の中でも同じだったのである。
まあ、学園に入った頃には既にこのギフトが非常に強力であると理解していたから何を言われても響かなかったし、父上と兄上に鍛えられていたから物理的にも問題なかったので、俺としてはまったく気にならなかったが。
寧ろ、俺にそういうことがあった――なんてことが家族――アイスラ含む――に知られた場合の怒りの方が怖かったくらいだ。
何しろ、父上と兄上、アイスラは物理的に、母上は社会的に終わらせて、いくつかの貴族家が……うん。記憶からもなくなったのだから思い出す必要もないというか、わざわざ思い出さなくていいか。
とにかく、そういうことがあって、学園内での俺の扱いは腫れ物的であったため、少しばかり有名だったのである。
なので、もし向こうが俺を知っていた場合、反応次第ではアイスラの怒りを買うかもしれない。
……まあ、今諸々を考えても仕方ないか。
どうなるかは、会ってみてからである。
俺はそう結論付けたが――。
「ルルアさまがジオさまに娘と会って欲しいと言う……これはまさかジオさまを娘の婚約者にしたいという願望があるのでは……確かにカルーナさまとルルアさま、お二人の仲が良好ですので両家の結び付きが更に強まる好手なのは間違いありません……今の私の立場でそれを否とは言えませんが……それでも……ルルアさまは私の気持ちを察しているはずですのに……しかし貴族家として……メイドよりも令嬢の方が対外的にも……いや、待って……正妻は無理でも愛人となって、実は愛しているのはキミだけだよ的な立ち位置というのも……ぐふふ……ですがやはり正妻………………ああ! 悩ましい!」
後方に控えていて、何やら悩んでいたアイスラが突然叫ぶ。
「大丈夫か? アイスラ。どこかで休むか?」
「いえ、大丈夫です。先々の展開について、私はどのようにするのが最も良いのかを考えていまして、それの答えが中々出なかっただけですので」
「そうか。しかし、先のことを考え過ぎてしまうと、今度は目の前のことを見逃してしまうこともあるから、程々にな」
「はい。……なるほど。目の前のこと……つまり、私が先に手をだして、いえ、ジオさまには攻めて欲しいので、手を出してもらって既成事実さえできてしまえば、あとは如何様にも……」
また「う~ん……う~ん……」と悩み始めるアイスラ。
まあ、他の人が何を言おうとも、自分の中で決着が着かないこともあるだろう。
きっとそれなのだ。
そってしておくことにした。
―――
宿屋「綺羅星亭」に着く前に――。
「まずは敵の出方を窺うことにしました。敵がどのような存在であるか、情報が足りませんので」
アイスラがそう言ってくる。
自分の中で、何かしらの決着が着いたようだ。
しかし、敵とは……なるほど。「魔物大発生」に出てくる魔物がどのようなモノか考えていたのだろう。
それは確かに情報が足りない。
でも、魔物によって有効な対処も違ってくるし、どのような魔物が多いかだけでも知っておくのは、先の展開を大きく変えることになると思う。
もう何度か森に潜って、その辺りを調べておくのはいいかもしれない。
そこまで考えるとは、さすがはアイスラである。
―――
宿屋「綺羅星亭」に着く。
食堂を見るが、食事の時間にはまだ早いので人は少なく、常連っぽい人たちが談笑しているくらいだった。
ハルートたちの姿はない。
どの部屋かは知っているので、確かめに行くが居ない。
それならそれで、先に母上への手紙を書いておくことにした。
アイスラも書くとのことで一旦分かれる。
「魔物大発生」に対する辺境伯側の対応や、ハルートに聞いたところ南の国にもちーちゃんを飛ばせるらしいので、どこに飛ばせばいいのか返答をお願いする、といったことを書いておく。
……あっ、作為的な部分を調べてくれることのお礼と、無理せず気を付けて、というのも書いておこう。
まあ、母上なら相手が手を出す前にすべて終わらせるくらいのことができそうだけど、それでも心配はしてしまうのである。そんなものだ。
手紙を書き終わって食堂に向かえばアイスラが待っていて、ハルートたちも居た。
ハルートたちも交えて、今後について話す。
一応「魔物大発生」発生の可能性をそれとなく話したが、ハルートたちはその調査の依頼をマスター・アッドから直接受けているそうで知っていた。
なるほど。いい人選だ。
翌日。手紙はハルートにお願いして、俺とアイスラはキンドさんに会いに行く。
キンドさんは母上の指示でここに来た訳だし、味方だ。
「魔物大発生」のことは伝えておいた方がいいと思ったのである。
キンドさんは――知っていた。いや、察していた、だろうか。
魔物素材が急に大きく増えたことや、冒険者ギルド、辺境伯の動きから推測していたようだ。
それで逃げるようなことはせず、手伝ってくれるそうなので、本当にありがたい。
物資に関しては、間違いなく助かる。
キンドさんと会ったあとは、「魔の領域」である森へと入って魔物討伐を優先して動く。
アイスラが考えていた、どの魔物が多いかなどの調査をするためである。
あと、魔物の数を少しでも減らすことで「魔物大発生」の発生を遅らせるつもりである。
発生遅延の効果があるかどうかは怪しいが。
それから二日後。ちーちゃんが戻って来て、母上からの返事を受け取り、その中に南の国のどこに向かえばいいか、向かった先でどうすればいいのかが書かれた指示書があったので、早速ハルートにお願いする。
ハルートは大丈夫だと答え、早速ちーちゃんを飛ばす。
俺とアイスラはルルアさまに母上からの手紙を届けたあと、調査は終わっていないので「魔の領域」である森へ入った。
そこで、怪しい人たちを見つける。
作者「行くぞ! ちーちゃん! 南の国へ!(ちーちゃんに乗る)」
ちーちゃん「ちち!(行く!)ーーちちちっ!(重いから無理! パージする! 幸運を!)」
作者「(ちーちゃんが一回転する)え? ちーちゃーーーん!」