そういうことになった
話は早い方がいいだろうと、早速目的とする場所へと向かう。
まあ、元々向かっていた場所なのだが。
もちろん、軽食の代金はこちらで支払っておいた。
それくらいは大人の余裕である。
マーガレットとはそんなに歳は離れていないが、一応俺は成人として認められる年齢だから大人ということで。
向かうは、辺境伯の城。
アイスラは直ぐに察して――。
「ああ、これは良い手ですね。少年には増長が少し見られますので、ついでにそこも矯正してもらいましょう」
うんうんと頷く。
レオは何かを察したのか震えて、マーガレットは不思議そうに首を傾げた。
「どこへ向かうのですか?」
「大丈夫。直ぐ着くから。このあとに教会に行っても問題ない」
で、着いた。
辺境伯の城の大きさを見て、レオとマーガレットは――。
「「………………」」
口をぽかーんと開けていた。
仲良しだな。
軽くでも説明したいところではあるが、二人の意識が戻るまで少し時間がかかりそうなので、先に中へ入ってしまおう。
門番に「話したいことがある」と伝えに行ってもらい……上手く会えればいいな。これで駄目だったら後日だが、レオとマーガレットの前で少々きまりが悪いのは間違いない。
伝えに行った門番と共に老齢の執事が現れて「そちらは?」と聞かれたので、「レオとマーガレットは今回したいが話しの一つなので、連れて行っても構わないでしょうか? 何かあれば責任は持ちます」と口にすると、「わかりました」と案内される。
会えるようなので、内心でホッと安堵。
何しろ、これからのことを考えれば、今は忙しいと思うので。
案内された先は、もうここで会うことが確定しているのでは? とこれまでと同じ部屋に通される。
まず、ルルアさまが出迎えてくれた。
「よく来たわね、ジオ。アイスラも。無事な姿を見れて嬉しいわ。話というのは、これから起こるであろうことについてかしら?」
「そうですね。それもあるのですが――」
まずはレオとマーガレットの話を先に――と思ったところで、ウェインさまがこちらに来た。
「よく来た! ジオ! アイスラ! これで息抜きでき――ん? そっちは誰だ? 男女? そうか! そちらが『暗殺夫婦』なのだな! 随分と若いな!」
ウェインさまがレオとマーガレットを見て、そう口にする。
そうだ。それがあった。失念していた。
時機を見ている内に「魔物大発生」発生の可能性が出てきたので、頭から抜け落ちていたのだが……今ので思い出さされてしまった。
とりあえず、そっちは時機を見れ――と継続して、今は否定しておこう。
「いや、違う。二人は『暗殺夫婦』ではなく、ヘルーデンに来るまでの町で知り合って――」
まずはレオとマーガレットのことを伝えなければ、とここに連れて来た経緯を話す。
ちなみに、レオとマーガレットはカチカチに固まっていた。
緊張か?
ウェインさまを辺境伯だと認識しているかは不明だが、少なくともかなり偉い立場の人だというのは感じているようだ。
話し終えると、ウェインさまが尋ねてくる。
「つまり、ジオの考えとしては、そこの少年には才能があるから剣を教えてやって欲しい、ということか?」
「そういうこと」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 何の話だ? 勝手に話を進めるな! 俺は師匠に剣を教えてもらいたいんだよ!」
どうやら、剣に関したことであれば動けるようだ。
レオは、今にも俺に向けて跳びかかってきそうである。
跳びかかってこなかったのは、ジオさまに手を出すのなら処す――とアイスラが殺気を発して、それに反応したからである。
いやまあ、飛びかかってきたら、普通に返り討ちにするので問題ないのだが。
それが伝わったのか、アイスラは殺気を吐き出すように息を吐いて、ウェインさまに一礼する。
「こういう感じでして、多少剣が振るえるようになって少し図に乗っていますから、合わせて矯正もお願いします。特に、ジオさまへの態度は改善していただかないと、いつ手が出てしまうか……」
「なるほどな。まあ、矯正はまだしも、ジオの言う才能の方は実際に見てみないとなんとも言えないが……しかし、そこの少年が言う師匠とはアイスラのことを指しているのだろう? なのに、ジオを軽んじているようなのは、どういうことなのだ?」
「それは多分、目の前で戦ったことがないので」
「そういうことか。まだ、相手の力量云々はわからない、と………………良し! それなら、ジオはその少年と戦ってわからせればいい! その様子を見て剣を教えるかどうか判断してやろうではないかっ!」
そういうことになった。
―――
案内された部屋から移動して、中庭のような場所へ。
その中央付近で、互いに訓練用の木剣を持ってレオと対峙する。
少し離れた位置に、アイスラ、ウェインさま、ルルアさま、老齢の執事、マーガレットが陣取ってこちらを見ていた。
「おい! 本当にやるのか? 危ないぞ!」
レオがそう言ってくるが、それは自分の方が強いと思っているからこそ出る言葉である。
俺は肩をすくめた。
「問答はいい。かかってこい」
「本当に怪我しても知らねえからな!」
レオが木剣を構えて斬りかかってくる。
木剣を振り下ろしてきたところをかわして、レオの木剣を踏んで動かなくし、俺の木剣はレオの首筋へと当てた。
「はい。終わり。これで俺が真剣を持っていて敵だったなら、お前はこのまま首を斬られて死亡だ」
「なっ! え? どうして!」
レオから困惑の声が漏れるが、俺としては当然の結果である。
ただ、レオはまだ自分が強いと思っているようで――。
「い、今のは俺が油断していただけだ! だから、もう一回! もう一回だ! 俺がどれだけ剣を振れるようになったかを師匠に見せて、もっと振るえるように教えてもらうんだからな!」
「……わかった。もう一回な」
首筋に当てていた剣を引き、レオから距離を取って対峙する。
レオが木剣を構えるのだが、今度は気迫が籠っていた。
「今度は本気だ!」
再度、レオが斬りかかってくる。
今度は動きも素早く、木剣の振りも鋭い。
……少し付き合ってやるか。
レオの木剣に俺の木剣を合わせていく。
「くそっ! 当たらない!」
レオから焦る声が漏れる。
今度はフェイントも交ぜてきたが、その程度では引っかからない。
まだまだ素直な剣である。
「それなら! これで!」
レオが一旦俺から距離を取り、木剣を構える。
その構えを見ていると、あの時のアイスラを彷彿とさせた。
「どうだ!」
レオが駆け寄り、木剣を振るう。
あの時のアイスラには遠く及ばないが、瞬間的に五回は斬れるような剣速だった。
まあ、それでも俺には通じない。
そもそも、あの時のアイスラの瞬間的に十五回斬った剣速も、俺は防げるのだから。
レオの木剣をすべて防ぎ、再び俺は木剣をレオの首筋に当てる。
「はい。これで終わり。まだやるか?」
「い、いや、俺の負けだ……俺の剣は、まだまだ弱い……」
レオががっくりと項垂れる。
……あれ? もしかして、レオの自信を粉砕してしまっただろうか?
やり過ぎたかもしれない。
そもそも、レオの才能をウェインさまに見せるための戦いなのに……これで大丈夫だろうか? とウェインさまを見る。
ウェインさまは腕を組んでいて、大きく頷く。
「筋は良し! 確かに剣の才能があるようだ! 調子に乗っている部分はジオが叩き折ったようなモノだが、また調子に乗らないとも限らない! そうならないように、その辺りも私が剣と共に教えてやろう! がっはっはっはっはっ!」
うん。大丈夫なようだ。
レオのことは、ウェインさまに任せられそうである。
ジオ「……さて、と」
作者「いや、ジオくん。どうして俺に向けて剣を構えるのかな?」
ジオ「もう少し動いておきたいので、お付き合いを」
アイスラ「お覚悟を!」
作者「ちょ! いきなり仕留めに来ている人が割り込んで来たんだけど! 助けて、ジオくん!」
アイスラ「ジオさまを盾にするとは卑劣な!」