服は着ようか
母上に手紙を出すと、そのまま返答があった。
運んでくれたちーちゃんに感謝を伝えて何かお礼を、と思った時……そういうのを持っていないことに気付く。
部屋に果物が入っている籠でもあればいいが、生憎とそういうのはない。
……肉食だろうか?
わからないが、ちーちゃんの分類は鳥類だけど魔物である。
だから、多分肉もいけるはず。
肩掛け鞄の中から、最近倒した魔物を適当にいくつか取り出して並べていく。
「お礼だが、食べたいのはあるか?」
多分、理解していると思うのでそう声をかけてみると、ちーちゃんは「ちっ!」と鳴いたあと、吟味するように並べた魔物を見ていき、その中からオークの亜種の半分になったヤツ――アイスラが真っ二つにした――を選び、ありがとうと俺に一礼してから足で選んだ魔物を掴んで持って帰っていった。
ちーちゃんを見送ったあとに出した魔物を肩掛け鞄に入れていく……とふと思う。
「……一応、今は夜だけど、町の上を見たら半分に魔物を運んでいる巨大な鳥が飛んでいるのか……見つかったら大騒ぎだな」
見つからないことを願っておく。
出した魔物を片付ければ、次は母上からの手紙を読む。
アイスラとの共有は、部屋に呼ぶ時間としてはもう遅いので、明日でいいだろう。
そう判断して読む。
……内容としては、「魔物大発生」が起こった場合、心配はしているが俺とアイスラなら大丈夫だろうから無理をしないように、ということが主に書かれていたがそれだけではない。
「魔物大発生」が作為的かもしれない、ということも書いたので、母上の方でも調べるようだ。
ヘルーデンというか辺境伯の方はこれから「魔物大発生」の対処で手一杯になるだろうから、母上が調べてくれるなら心強い……というか、色々暴かれそうだな。
それともう一つ書かれている。
これは、母上からハルートへの依頼だろうか。
ちーちゃんを南の国に居る知人のところまで飛ばすことはできないか? というモノ。
これはハルートに聞いてみてからになるので、次会った時に聞いておこう。
抜けがないか、もう一度手紙を読んでから大丈夫だと確認して眠った。
―――
翌日。
アイスラと合流して、母上からの手紙の内容を共有するために伝えると――。
「一声かけてくだされば、たとえシャワー中や下着姿、寝間着姿であったとしても向かいましたのに」
「いや、そこは普通に服を着ようか」
そこよりも、まずは手紙の内容について反応して欲しいと思う。
ただ、さすがはアイスラと言うべきか、直ぐに真剣な表情を浮かべて何やら考え込み始める。
「ですが……ぼそぼそ(それだとジオさまに私の芸術のような裸体を見て欲情できませんし、そのあとのくんずほぐれつ……いえ、そういえばこの宿はそういうのが禁止でしたね……ですが、一緒に寝るくらいなら……しかし、それで出禁になるのは困りますし……今は諦めておきましょう)」
何か呟いているのは考えを纏めているからだろう。
手紙の内容を吟味しているようだ。
アイスラの中で結論が出たのか、一つ頷く。
「どう? アイスラ」
「はい。一旦諦め――んんっ。確かに、『魔物大発生』が起きようとも、ジオさまと私であれば問題ありません。ですが、事はもっと大きく、ヘルーデンが崩壊するかもしれない危機的状況なのです。ジオさまは、きっとヘルーデンを守るために動くでしょう。それは大変素晴らしいことですが、それで無理をしないか、とカルーナさまは心配されているのだと思います」
「そうか。なら、母上を心配させないようにしないとな。ただ、母上からの手紙を読んで懸念が一つできた」
「懸念? なんでしょうか?」
「『魔物大発生』が起こり、それが作為的なモノだとして、そこまでのことが起こせる側が、果たしてそれだけで終わるかどうかと思って」
「なるほど。確かにその次を考えている可能性はありますね。でしたら、『魔物大発生』が起こるまでの猶予はありますし、ジオさまのその考えを手紙に書いてカルーナさまに伝えておきましょう」
「母上なら把握していそうだけど、伝えておくに越したことはないか。ハルートに確認しないといけないことがあるから、それを確認してから纏めたモノを書いて送るとしよう」
そう考えて……「魔物大発生」は大事であるし、辺境伯も関わっているから、母上が作為的な部分を調べていることを教えた方がいいかもしれないと思った。
そうすれば、ウェインさまは「魔物大発生」に集中できるだろう。
ルルアさまも母上に伝えたいことがあるかもしれない。
一度ウェインさまのところに向かってから、母上に手紙を書くことにした。
―――
ウェインさまのところに行く前に、まずは朝食を取りに食堂へと向かう。
「あっ、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます」
ハルートたちが既に居た。
相席して、共に食事を取り、ハルートには母上からの依頼について話す。
「南の国までだが、届けることはできるか?」
「み、南の国? 多分、いけると思う。ただ、それは南の国のどこに、というのははっきりしている?」
「母上はわかるだろうから、簡易だが地図のようなモノが用意されると思う。あと、母上に運んだ時と違って、向こうがどうなっているとかわからない。それでも、どうにかなるか?」
「た、多分、大丈夫。元々南の国の方から来たから」
「そうだったのか。でも、それなら本当に心強い。諸々が終われば、きちんとお礼しないとな」
ハルートが受けてくれてホッと安堵。
あとは、ウェインさまのところに行って、母上に伝えたいことがあるかどうかの確認をしてから、手紙を書いて出せばいいだけである。
そうして話している間に朝食は終わって、最後にハルートには近日中には手紙を出すつもりだと伝えてから、食堂を出てウェインさまが居る辺境伯の城へと向かう。
その途中で声をかけられる。
「あっ! 師匠! ヘルーデンに居たのか!」
喜びを露わにした、ツンツンした黒髪の少年がそこに居た。
アイスラ「しかし、やはりここは……でも……」
ジオ「アイスラが真剣に悩んでいる。邪魔してはいけないから、向こうに行こう」
作者「いや、ジオくん。多分止めた方が……駄目だ。行こうじゃなくて! 聞いて! お願いだから!」