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サイド 家族 3

 一方、ジオの家族の方は――。


     ―――


 サーレンド大国。

 大王都から北部に暫く進んだ先にあるのは、五階建ての武骨な塔のような形の巨大な建物。

 そこは、サーレンド大国で一番大きく、最も強固な収容所。

 ここは現代では再現不可能な古代の超技術によって描かれた巨大な魔法陣の上に建てられており、専用の魔道具を身に着けていないと、「身体能力大幅低下」、「魔法使用不可」、他にも「スキル効果低下、あるいは一部使用不可」といったモノを強制的に受けることになる。

 そこまで強固な理由は唯一つ。

 ここにはサーレンド大国の重犯罪者が集められており、上に行けば行くほど犯した罪が重くなっていっている。


 そこに、オール・パワードは収容された。

 しかも、生涯出ることはない、それだけ重い罪を犯した者が収容される最上階に。

 敵国で最も名の通った総大将、あるいは英雄――オールの名は、最も警戒すべき敵として、サーレンド大国中に轟いているほどの人物なのだから、これも当然と言えば当然と言えた。


 そして、重要なのは、オールはルルム王国の者であり、ここに収容されている者の大半はサーレンド大国の者である。


「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」


 看守たちに連れられて、オールが最上階へと向かう中、どの階でもこの連呼が行われた。

 ただ、これは別にオール憎しで口にしている訳ではない。

 もちろん、中には憎悪を抱いているのも居るには居るが、大半は収容所の日々の中で起こる何かしらの刺激が欲しいだけである。

 これは最上階に着いても行われ、オールが牢の中に入れられると止まった。

 オールが入れられた牢には、この収容所に入れられた犯罪者たちのボス的存在――白髪の筋骨隆々な男性と、その取り巻きたちが纏めて入れられているため、それで下手に騒いで不評を買ってしまえば、命を失い兼ねないからだ。


 白髪の男性と取り巻きたちの視線が、オールに向けられる。

 オールは応じるように、取り巻き立ちを見て、最後に白髪の男性へと視線を向けた。


「お前がここのトップか?」


「てめえ! ルルム王国の総大将だそうだが、ここでは新入りだ! 新入りのくせに誰に口きいてんのか、わかってんのか! ああんっ!」


 取り巻きたちが騒ぐ。

 オールが気にせずにいると、取り巻きたちは更に騒ぐが、白髪の男性が静まるように手を上げればピタッと止まる。


「……てめえのことは聞いているが、どうやら教育をしてわからせることが先のようだな」


 白髪の男性が指示を出すと、取り巻きたちがオールに襲いかかる。

 オールは獰猛な笑みを浮かべていた。

 もちろん、この場の総合的な弱体化はオールも受けている。

 しかし、それは相手も同じであり、更に元々の強さが大きく違うのだ。


 この日、この収容所のボス的存在が変わる。


     ―――


 メーション侯爵家の屋敷。

 カルーナは自室で紅茶と茶菓子を楽しむと、一息吐く。

 というのも、新王と敵対貴族の動向を探り、味方への指示を出し、さらにウルト帝国とサーレンド大国が今のルルム王国に対してどのように動くのかなど、カルーナはルルム王国と両国から情報を集め、新王を打破するために頭を働かせて少し疲れていた。


 そうして頭を休めていたところで、部屋の窓がこつこつと叩かれる。

 時刻は夜。普通であれば誰もが怪しむ出来事であるが、カルーナはそういった素振りが一切なく、叩かれた窓へと向かう。

 カルーナは窓を開けて、近くにある大きな木を見る。

 その大きな木の枝に、巨大な鳥――ちーちゃんが止まっていた。


「おいで」


 カルーナが手招きすると、ちーちゃんは音を立てないようにふわりと飛び、窓の縁に止まる。


「ふふ」


 微笑みながらちーちゃんを撫でるカルーナ。

 ちーちゃんは喜びを露わにして、その様子にカルーナは癒される。

 当初は慎重なやり取りがあったのだが、今はここまでできるくらいに受け入れていた。

 ひとしきりちーちゃんの感触を楽しんだあと、カルーナはちーちゃんが提げる鞄に手を入れて、中から封筒を取り出す。


「あら? 一通だけ? ……緊急かしら?」


 早速封筒を開き、中の手紙を取り出して確認するカルーナ。

 その間、ちーちゃんは大人しく待っている。

 手紙はジオから。内容は、ヘルーデンで「魔物大発生(スタンピード)」が起こる可能性が高く、更にマスター・アッド曰く作為的なモノであると、ジオが見聞きしたことが書かれていた。


「『魔物大発生(スタンピード)』……アイスラも共に居るし、ジオなら問題ないでしょうけれど……作為的……確か昔に『誘魔(ゆうま)』という名の魔物を引き寄せる禁具というのが……調べて……実際に可能か試したはず……つまり、どこかで似たようなことが………………あと、あちらの方にも……」


 考えを口にすることで、思考を整理していく。

 思考は直ぐに終わり、あとは行動に移すだけ。

 カルーナは近くにあるテーブルへと向かい、その上に籠に入れて置かれている果物をいくつか手に取って戻る。


「これから返事を書くから、少し待ってくれる?」


「ちちち」


 ちーちゃんの肯定のような返事を聞き、「良い子ね」と呟いてから手に取った果物をちーちゃんに与えて一撫でしたあと、カルーナはジオに宛てた返事を書く。


     ―――


 ルルム王国の中央部から南部に入って直ぐにある町――サウゲトに合計で百人は越えている数の騎士と兵士の一団が現れる。

 この一団は物々しい雰囲気を醸し出していた。

 というのも、この一団も目的はリアンと元王妃たちを捕らえることであり、リアンに関してはこの数でも足りるかどうかわからない、というのが正直なところだからである。

 捕らえに来たのに全滅する――その可能性を誰もが胸中に抱いていた。

 しかし、それは空振りに終わる。

 リアンと元王妃たちの姿は、サウゲトのどこにもなかったのだ。


 既に、リアンと元王妃たちはルルム王国の最南端にある町を出て――ルルム王国とその南になる国とを分ける、向こう岸が微かにしか見えないほどの巨大な川の上を渡し船に乗って渡っている最中であった。


「ここまで来れば、一先ず安心だな。だが……」


 金髪の男性――元王子であるライボルトが、船の上からルルム王国側の岸を見て、そう口にした。

 その胸中には様々な思いが渦巻いている。

 一言では推し量れないだろう。

 それはライボルトだけではなく、元王妃たちも同様である。


 ライボルトの隣にリアンが立つ。


「必ず戻って来よう。南の国の協力を得て、ルルム王国を取り返すために」


「ああ。もちろんだ」


 リアンと元王妃たちは、このまま無事に南の国へと入国した。

オール「うむ。中々歯応えはあった。カルーナの方はどうだ?」

カルーナ「そうですね。これから色々と積極的に動いていこうかと思っています。リアンはどうなの?」

リアン「自分はこれから、といったところかと。ただ、ジオに早く会いたいです」

オール&カルーナ「「間違いない!」」


作者「いや、だから、ここに集まらないで! 早く自分が居るところに戻ってよ!」

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