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報告

「魔の領域」である森に出てくる魔物の数が増えているかもしれない。

 気のせいかもしれないが、どうにも嫌な予感がするというか、感覚的にスッキリとしない。

 何か大きな流れが起こりそうな――そんな感じがする。

 なので、出てくる魔物の数を意識して、森の浅層と中層を探索してみることにした。

 アイスラにも伝えて、協力してもらう。


 ――結果。


「浅層から中層に入って直ぐ辺りまでの魔物の数が、僅かですが以前よりも増えていると思われます。体感的に、ですが」


 アイスラの結論に同意する。


「俺も、増えていると感じている。ハルートを鍛えるために森へ来ていた時よりも、魔物と遭遇しているのは間違いない」


「これが一時的なモノであればいいのですが、もしこのまま増えていきますと……」


「『魔物大発生(スタンピード)』が起こるな」


「その前兆かもしれません。どうされますか?」


「まあ、念のために報告しておいた方がいいだろうね。勘違いならいいが、これで報告せずに起こってしまったら、準備不足でヘルーデンが大打撃を受け兼ねない」


 そう判断して、ヘルーデンへと戻る。

 まず報告しに行くのは、ヘルーデンで一番森へと入っているから詳しいであろう冒険者ギルドである。

 今は俺とアイスラの感覚的な話でしかないので、報告して調べてもらうのが先だと思う。

 しかし、それには問題があった。

 マスター・アッドに話を通せれば早いが、俺でマスター・アッドのところに案内されるだろうか?

 ハルートなら直ぐマスター・アッドのところまで案内されるだろうから連れて行きたいのだが、上手く出会えるかどうか……。


 冒険者ギルドに着く。

 ハルートには出会えなかった。残念。

 仕方ない。


 マスター・アッドのところまで案内されなかったら、辺境伯(ウェインさん)のところに行こう。

 そこも話は早いだろうから。

 そう考えて、冒険者ギルドに入る。

 ………………どういうことだろうか。


「「「お疲れさまです!」」」


 入って受付の方に向かい始めたところで、冒険者たちが左右に分かれて俺の前に空いた道を作り、冒険者たちは誰もが頭を深く下げると同時に先ほどの言葉である。

 冒険者は気の荒い者が多い印象だが、今の様子を見る限りだとそんなことはまったくない。

 しかし、お疲れさまですと言われても、別に疲れてはいないのだが……ではなく、併設の食堂で食べていた冒険者も参加していてそれなりの数であるため、なんというか迫力があった。

 そんなことをしていると食事が冷めるのだが、いいのだろうか?


 あと、なんというか俺ではない。

 冒険者たちは、俺を対象としていないと思う。

 というのも、この言動のタイミングは俺が入った時ではなく、俺の後ろに居る人が入った時のような気がするのだ。

 振り返ってアイスラを見る。

 微笑みを浮かべていた。


「どうされました? ジオさま。道を譲ってくれるようですので、先に用件を済ませてしまいましょう」


「まあ、それもそうだな。そうしよう」


 多分だけど、アイスラが「姐さん」と呼ばれていたことに関わっているような気がしないでもない。

 ただ、早々にこの場を進めた方がいいというか、早く終わらせてあげた方がいい気がしたので、空いた道を、受付に向かって進んでいく。

 その途中で気になる状態の冒険者たちが居た。

 ところどころ包帯を巻いていて、小刻みに震えているのが、こう……徹底的にやられたあとというか、心が折れるまでボコられたような、そんな感じの冒険者たち。


「大丈夫か?」


 思わず声をかけてしまう。

 ここに居らずに休んだ方がいいのでは? と思うくらいだったのだ。


「え? あ、いや、こ、こここ、これは、そこの………………」


 そこの?

 そこで止まってしまった。。

 冒険者たちの震えが大きくなって、その視線は俺ではなく俺の後ろに向けられていて……振り返ると微笑みを浮かべるアイスラが居るだけ。


 アイスラが関係しているのか? と冒険者たちを見ると――。


「な、なんでもありません! こ、これは……そう! 転んで滑って回って飛んで落ちただけです! もうちょっかいはかけません!」


 どんな状況だ、それは?

 ちょっかい、というのもわからない。

 ただ、冒険者たちからは触れて欲しくないというか、早く行って欲しい雰囲気が感じられる。

 個人的な問題だったら、踏み込み過ぎるのもどうかと思うので、先に進むことにした。


 受付まで行くと――。


「お疲れさまです!」


 ここでもそうだった。

 受付嬢が立ち上がって、俺ではなくアイスラに向けて頭を下げる。

 アイスラを見ると、そこには変わらぬ微笑みがあるだけ。


「……アイスラ。一つ確認するけれど、何かした?」


「少々教育しました」


「そこは正直に言うのか」


「ジオさまの問いに嘘は吐きません」


「そうか。……まあ、程々に」


「かしこまりました」


 アイスラが一礼する。

 一瞬、頭を下げている冒険者たちから、それでいいんだ、という空気が流れた。

 それでいいと思っているので、特に気にすることなく受付嬢へと尋ねる。


「マスター・アッドに話があるのだが、面会できるだろうか?」


「もちろん可能です!」


 俺が尋ねたのに、受付嬢はアイスラに向かって答えていた。


     ―――


 受付嬢にギルドマスター室まで案内される。

 中に入ると、マスター・アッドは書類の山を片付けるのに忙しそうだった。


「なんだ? どうし……お前たちか。見てわからないか? 書類仕事が一杯なんだが?」


「報告したいことがあって、可能であれば調査して欲しいことができたから来た」


「報告? 調査?」


 マスター・アッドの書類を片付ける手は止まらないが、それでも聞く気はあると追い返すようなことはしなかった。

 近くまで行き、「魔の領域」である森で感じたことを報告すると、マスター・アッドは手を止めて訝しげな表情でこちらを見る。


「……は? 魔物の数が増えている? なんでそうなる?」


「確かではないから調査して欲しい、ということだ。勘違いならそれでいい。なんなら、今はそれなりに金を持っているから依頼を出してもいい。もしもの場合、後手に回るのは危険だと判断しただけだ」


「本気で言っている?」


「ああ。根拠としてはまだ薄いが、少なくともハルートを鍛えている時と比べると、間違いなく増えている」


 少し強めに言うと、マスター・アッドは顎に手を当てて考え出し………………結論を出す。


「わかった。探索を得意としているパーティのいくつかに依頼を出して調べさせる。その結果が出るまで口外しないように」


「まだ予測でしかないモノを広めるつもりはない」


 調査結果を待つことにした。

一部の冒険者たちの一人「……な、なんだ? 体が勝手に震え始めて」

一部の冒険者たちの一人「お、俺もだ!」

一部の冒険者たちの一人「ど、どうなって……ま、まさか! 来るのか! これから来ることを本能が察して! な、並べ! 並べ並べ!」


ジオとアイスラが冒険者ギルドに入る。


一部の冒険者たち「「「お疲れさまです!」」」

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