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やり手である

 冒険者ギルドを出ると、ハルート、シーク、サーシャさんは行動に移すと、町中へと消えて行った。

 早速パーティ行動である。

 まあ、残党探しに町全体を巡ることになるかもしれないので、行動は早い方がいいのは間違いない。

 しかし、ハルートは自分が狙われている立場だとわかっているのだろうか?

 それなのに町中を巡るとなると、襲ってくれといっているようなモノ……もしかして、それを狙っているのだろうか?

 残党をあぶり出す餌というか、囮として。


 危険は……ないか。

 シークが居るから大丈夫だ。

 サーシャさんの実力はわからないが、シークと共に暗殺稼業をしているのだから大丈夫だろう。

 ハルートの安全は守られているので、そうなれば早期解決に繋がるな――と思いながら、アイスラと共にブロンディア辺境伯の城へと向かった。


     ―――


 ブロンディア辺境伯の城の門番には――話が通っていた。

 会いたいと伝言だけお願いして、実際に会うのは数日後になるかと思っていたのだが、「ジオさまとアイスラさまですね。確認してきますので少々お待ちください」と丁寧な対応をされる。

 好感。

 冒険者ギルドの時のようにならなくてホッと安堵していると、確認しに行ってくれた門番と共に、以前も会った老齢の執事が現れる。


「ジオさま。丁度お時間が空いていましたので、どうぞこちらへ」


 老齢の執事に案内されるまま付いていく。

 本当に時間が空いていたのか怪しいが……まあ、話が早いに越したことはないので深くは聞かない。


 以前案内された部屋で、ブロンディア辺境伯――ウェインさまと、その奥さま――ルルアさまと会う。


「よく来た! では、早速戦おうか!」


「戦おうか、ではありません。ジオは何か話に来たのです」


「話? なんだ、私と戦いに来たのではないのか?」


「戦いに来たとは一言も言っていないわよ。まったく。それで、話とは何かしら? 楽しい話だといいのだけれど」


 楽しい話になれば、いいな。

 ルルアさまにたしなめられたウェインさまは、とりあえず放置。

 話して時間があればアイスラが戦いたがるかも……というか、話だけなら俺だけでもできるか。


「……アイスラ。どうする?」


「どうする、とは? ……ああ、なるほど。話はジオさまがルルアさまに言えば済みますね。……ルルアさま。ウェインさまをお借りして構わないでしょうか? 今後に向けて、もう少し体の調整をしておきたいので」


「そういうことなら構わないわよ。好きに使って」


「良し! そういうことなら私に任せろ!」


 ウェインさまが喜びを露わにして、その喜びようを見たルルアさまの目が細められる。


「アイスラ。なんなら、叩きのめしてもいいわよ。そろそろ師匠を越えてもいい頃合いでしょ」


「かしこまりました。暫く執務しかできない体になるまで叩きのめします」


「お願いね」


「ええっ! い、いや、まだまだアイスラに負けんぞ!」


 戸惑うウェインさまだが、戦える喜びは隠せないと、うきうきしながら部屋から出て行く。


「では、叩きのめしたウェインさまをジオさまに捧げるために行って参ります」


 いや、それを捧げられても困るのだが。

 一礼して出て行くアイスラを見送ったあと、ルルアさまに話というか説明を行う。


 まずは、シークとサーシャさんについて。

 暗殺者であるし、下手に隠してそれを裏があるように捉えられても困るため、俺が聞いた範囲だけではあるが包み隠さず二人について話す。

 まあ、そんな意思がなくとも、ルルアさまなら上手く誘導して、洗いざらいすべてを話させそうだけど。

 そういうのは、母上が得意だったな……。


 そうして話し終えると、ルルアさまは「『暗殺夫婦』がこの辺境に来るなんて」と、頭を抱えた。

 その反応は知っている反応である。

 尋ねれば、奥さまは当然のように知っていると頷いた。


「当たり前でしょう。近隣の領にそんな凄腕の暗殺者が――それも二人も居て、調べない領主は居ないわよ」


 それはそうだな、と頷く。

 ただ、これは正確にはシークとサーシャさんの人となりを知っているのではなく、情報として「暗殺夫婦」を知っているということである。

 いや、別に俺も知り合ったばかりであるし、人となりは知らないが、少なくとも俺とアイスラに恩義を感じて協力してくれること、あとは暗殺稼業を止めたい、ということも含めて話せば、とりあえずは大丈夫かもしれない。


 ………………。

 ………………。

 駄目だった。いや、駄目じゃないというか、これで排除とか監視とかの話にはならなかった。

 シークとサーシャさんが俺とアイスラに抱いている恩義を信じることにして、いざという時の責任は俺が取ることにしたので、そういう話にはならなかったのである。

 まあ、ハルートと会う時に一緒に会うだろうし、適任と言えば適任だろう。

 わかりました、と頷きを返す。


 なのに、奥さまの眉間には皺が寄った。

 え? 返事は間違えていないと思うが……意味がわからない。

 わからなければ、聞けばいい。


「ルルアさま? 眉間に皺が」


「……思い出したのよ。そういえば、ウェインが『暗殺夫婦』のことを知った時、戦ってみたいから襲いに来ないかな、と言っていたのを」


「………………」


「………………」


「連れて来い、と言うと?」


「連れて来い、と言うわね。間違いなく」


 ルルアさまと話して、連れて来たとしても後日、ということになった。

 そこで、一つ気付く。

 シークとサーシャさんは冒険者になるのに、どうしてマスター・アッドではなく俺に責任があるのだろう、と。

 ……まさか、マスター・アッドはこうなることを見越して、俺にウェインさまへ報告するように言ってきたのだろうか?

 マスター・アッド……やり手である。

 責任を取りたくないから逃げただけかもしれないが。


 ともかく、シークとサーシャさんに関しては大丈夫そうなので、次にハルートのおかげで母上と手紙のやり取りができるようになったことを伝える。

 そうなのね! それは良かったわね! とルルアさまは喜んでくれた。

 ただ、時々でいいから、安全であるし、早いから、ルルアさまから母上への手紙も一緒に送って欲しい、とお願いされる。

 友人同士の砕けた感じの手紙を出したいそうなので、了承しておく。


 そのあとはルルアさまと世間話をしていると、アイスラとウェインさまが戻ってきた。

 どちらも身綺麗なままだったことを不思議に思ったのでそのことを尋ねると、ボロボロになるまで戦ったので部屋に入る前に着替えてきたそうだ。

 だからだろう。

 そこまで戦ったことで、アイスラとウェインさまの表情はスッキリとしていて晴れ晴れとしている。


「それで話とはなんだったのだ?」


 ウェインさまにはルルアさまから伝えてもらうことにして、俺とアイスラはこの場をあとにする。


 城から出る際――。


「何ぃ! 良し! 連れて来い――あれ? ジオが居ない!」


 という声が聞こえてきた気がした。


     ―――


 思いのほかウェインさんのところに長く居たので、「魔の領域」である森に行くには遅い時間ということもあって宿屋「綺羅星亭」に戻ってのんびりしていると、ハルートたちが戻って来た。

 時間的には、まだ夕食前である。

 思っていたよりも早い戻りに成果なしかと思ったが……違った。


 なんでも、分かれたあとに直ぐ出会ったというか、向こうから「よく捕まえた! ははは! 裏ギルドを潰されて、色々と予定が狂った恨みを晴らしてやる!」と出て来たそうだ。

 そこを捕縛。

 合わせて人を呼んでいたようで、それも捕縛。

 思っているよりも残党が多かったため、そこで少し時間がかかったらしい。

 冒険者ギルドに運んで、あとのことはマスター・アッドに任せて戻って来たそうだ。


「……そういうこともあるのか」


「そのようですね」


 出てくる時は直ぐ出てくるものだな、と思った。


 そのあとは、食堂で共に食事を取り、これから別行動になるが頑張れよ、とハルートを励ます。

 といっても、そこまで別行動という訳ではない。

 手紙のやり取りをお願いするのにも会うし、ハルートはこのまま宿屋「綺羅星亭」に泊まるそうなので、食事を共にすることだってある。

 それはシークとサーシャさんも同じ。

 ただ、二人はヘルーデン内で家を探すつもりなので、いつまでかはわからないが……ハルートと冒険者パーティを組むのだから、もう会わないなんてこともない。

 なので、これからについて悲観的なモノは一切なく、楽しく食事を取った。

マスター・アッド「ふっ。狙い通り」

作者「あっ、今ここに来ちゃうと」

アイスラ「ジオさまに不利益を与えるモノは排除します」

マスター・アッド「ひえっ!」

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