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息抜きにならない

 朝食を食べ終えると、早速冒険者ギルドへ向かう。

 シークとサーシャさんの冒険者登録と共に、マスター・アッドにこちらの事情を説明しておくためだ。

 ハルートのぐるちゃん(グリフォン)も受け入れたマスター・アッドである。

 暗殺夫妻として有名らしいシークとサーシャさんも受け入れてくれるに違いない。


 うんうん、と頷いている間に、冒険者ギルドに着いた。

 ゆっくりと歩んできたので、冒険者ギルドの忙しい時間帯は外れている。

 冒険者ギルドの中に入ると冒険者の姿は非常に少なかった。

 これなら話もしやすいだろう。

 まずは受付嬢のところに向かい、マスター・アッドと会えるかどうかを確認した――というところで、ふと気付いた。


 言ってはなんだが、俺、アイスラ、ハルートの冒険者ランクは低い。

 俺とアイスラは登録できればいいだけだったので一番下のFランクであるし、ハルートのランクは……そういえば知らないな。いくつだ? ……Ⅾランクに近いEランク……いや、それはEランクだろ……Dランクに近いってのが重要? ……わかった。Dランクに近いEランクだな……わかった。本当にわかっているから。

 なんにしても冒険者ランクは低い。

 普通に考えれば、冒険者ランクが低いということは、それだけ冒険者ギルドに貢献していないということにもなる訳だから、マスターに会いたいと言っても会えるとは限らないだろう。


 待てよ。マスター・アッドは、俺がパワード家の人間だと知っている。

血塗れの毒蛇(ブラッディーバイパー)」の件があって知らぬ仲でもないし、案外話は通るかもしれ――。


「あの、マスターは忙しいのでそう簡単に……あっ! そちらはテイマーのハルートさんですね! マスターがご友人だと言っていまして、面会を求めれば直ぐ通すように言われています。ご案内しますね。そちらはハルートさんのご友人方ですね。ご一緒にどうぞ」


 ………………。

 ………………。

 良し。会えるようだし、行くか。

 案内する受付嬢のあとに付いていく。


「……あ、あの、多分、あの受付嬢が俺のことを知っていたから反応しただけであって、ジオさんが名を出していれば」


「大丈夫だ、ハルート。問題ない」


 俺もそうだと思っているから。

 ただ――。


「……ジオさまに対し、あのような態度を……受付嬢を殺すべきか、マスタ―の方に責任を取らせるべきか……はっ! あえてそういう素振りを見せることで、自分のことを意識させる手法という可能性も……あの受付嬢(メス)……裏で消しておくべきかしら……」


 アイスラから妙な気配を感じるのが気になった。

 シークとサーシャさんが上手く受け入れられるのか、心配しているのかもしれない。

 大丈夫だ。アイスラ。マスター・アッドならきっと受け入れてくれる。


     ―――


「帰れ。あっ、ハルートは居てもいいぞ。というか、話し相手になってくれ。最近心労が溜まっていてな」


 案内の受付嬢に促されてギルドマスター室に入った瞬間、マスター・アッドからそんな言葉を投げられた。

 明らかにハルートだけを歓迎している。

 ハルートは苦笑を浮かべた。

「この空気感……面倒事の予感……あっ、私はこれで失礼します。あとのことはマスターにお任せしました」と、受付嬢がギルドマスター室から素早い動きで出て行く。

 マスター・アッドが何か声をかける前に動いた感じに見えた。

「……逃げられたか」とマスター・アッドが呟いたあと、大きく息を吐く。


「……はあ。それで、ここに来たってことは何か用か? まあ、あるから来たんだろうが。息抜きついでに話を聞いてやる。息抜きにはならないだろうけれど」


「いや、別に何かあった訳ではない」


 何かは既に終わって……いや、残党が残っていたな。

 ……まあ、残党は些事だから……何もなかった、でいいか。

 俺はシークとサーシャさんを指し示しながら、口を開く。


「今日はこちらの二人の冒険者登録、それとこの二人はハルートとパーティを組むから、そちらにも申請が必要なら一緒にお願いしたい」


「……ただの冒険者登録で、連れ立ってギルドマスターにお願いしにくることなんてない。その二人、何か訳ありってことか? それで、俺の保護なり、便宜なりが必要って辺りの話か?」


「さすがマスター・アッド。話が早い」


 シークとサーシャさんについて、こちらがわかっていることをマスター・アッドに説明する。

 最初はシークとサーシャさんが「暗殺夫婦」と信じなかったが、隠すことは何もない、とシークとサーシャさんは関係者しか知らないような情報を明かしていくことで信じさせた。

 どうやら「暗殺夫婦」の名はヘルーデンにも届いていたようだ。

 そして、信じたからこそ、「お前ら……よく生き残れたな」とマスター・アッドはこちらを見てくる。

 まあ、こちらにはアイスラが居るので。


 そして、説明を聞き終えたマスター・アッドは――頭を抱えた。


「ほらな……やっぱり……息抜きにならない……」


 苦労? かけます。

 ただ、気持ちはわかるとハルートが頷いているので、二人はこれからも仲良くやっていけると思う。

 マスター・アッドが気持ちを切り替えるように大きく息を吐いた。


「はあ……わかった。事情はわかった。『暗殺夫婦』なんて大物が出てくるとは思わなかったが……それも冒険者ギルドに加入したいとか、確かに俺に話を通しておく必要があることもわかった。……だが、冒険者になるっていうのなら、それは暗殺者ではなくなるってことだ。言っている意味、わかるな?」


「もちろんだ」


「わかっているわ」


 シークとサーシャさんは頷くが、シークはそこで「あっ」と思い出したように口を開く。


「冒険者になる意思はある。だが、その前に、ここにはまだ『血塗れの毒蛇(ブラッディーバイパー)』の残党が残っているだろう? そいつらをどうにかしてからでも構わないか?」


「あ、残って……待て。わかるのか? 残党の居場所が!」


「ああ。依頼してきた者の気配は覚えている。そいつがまだヘルーデンに居れば、町中を探って見つけ出すことは可能だ」


「わかった。なら、先にそっちを片付けてきてくれ。その間に手続きは済ませておく。……ああ、できれば殺さずに連れて来てくれ。色々と聞きたいことがあるからな」


 シークとサーシャさんは頷き、ハルートと共にこの場をあとにしようとする。

 早速パーティとして動くつもりのようだ。

 俺とアイスラも手伝おうかな、と一緒に出ようとしたところで、マスター・アッドから待ったがかかる。


「ジオ、それとアイスラは、ブロンディア辺境伯のところに行ってくれ。『暗殺夫婦』のことは、ブロンディア辺境伯にも伝えておいた方がいい」


「その心は?」


「ブロンディア辺境伯が後ろに居てくれれば俺も安心。心労が減る――て言わせるな!」


 本当に疲れているようだ。

 でもまあ、母上と手紙のやり取りができるようになったことを伝えに近々行くつもりだったので丁度いい機会である。

 わかったと頷きを返してからギルドマスター室を出た。

辺境伯「(稲妻が走る)何故かウキウキしてきた! もう出ていいか!」

作者「いや、落ち着こ。一旦、落ち着こ」

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