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潰してきた

「戻って来たようだな」


 食堂で食事を取っている、ハルートと暗殺者に声をかける。

 女性も一緒に居るのだが、初対面なので誰かはわからない。

 まあ、想像はつくが。

 一応、見た限りだと血色はいいので解毒できたと思われる。


「無事で良かった。しかし、送って直ぐ戻ってくると思っていたが、何かあったのか?」


 同じテーブルについてからハルートに尋ねると、ハルートは口の中の物を一飲みしてから口を開く。


「シークさんの奥さんを守るために行動を共にしたんだ。まあ、必要なかったけど。でも、いい経験にはなったと思う」


「シークさん? 守る? 必要なかった? 経験? 全然意味がわからない」


 何かが起こったようだが、その何かに対しては何もわからなかった。

 いや、シークさんというのが暗殺者だというのはわかるが、それ以外のことはどういうことだ? と首を傾げると、暗殺者が口の中の物を一飲みして口を開く。


「俺から説明する。まず、ありがとう。おかげで妻は助かった。嫌な暗殺をしなくても済んだし、あなたたちは恩人だ」


 暗殺者が俺に向けて頭を下げる。

 合わせて、初対面の女性も同じように頭を下げた。

 やっぱり暗殺者の妻のようだ。

 暗殺者はマスクが取れているので改めて、それと暗殺者の妻の姿を確認する。


 暗殺者は、紫髪に、鋭い目付きが特徴の整った顔立ちで、細身に軽装を身に着けた、二十代くらいの男性。

 普段は「シーク」と名乗っているので、その名で呼んで欲しいそうだ。


 暗殺者――シークの妻の方は、紺色の長髪を後ろで一つに纏め、美しい顔立ちで、均整の取れた体付きに、シークが着ているのと似た軽装を身に着けた、二十代くらいの女性。

 普段は「サーシャ」と名乗っているので、こちらもその名で呼んで欲しいそうだ。


 どちらも名乗っている名で呼んで欲しいようなので、そう呼ぶことにする。

 そして、恩人云々に関しては、気にしなくていい。巨大な蜘蛛に関しては偶々――運が良かっただけ、とそこまで気にしなくていいように答えてから、何故戻ってくるのにここまで時間がかかったのかを聞く。


 ここまで時間がかかった理由は一つ。

 聞いた話の中にあった、連合組織、それとその雇い主となっていた悪徳領主が、報復、反抗できなくなるくらいまで徹底的に潰すのに、ここまで時間がかかってしまったそうだ。


「それは……確かに時間がかかったな」


 俺が感じていた暗殺者の腕前なら、もっと早く片付けられると思うのだが。

 時間がかかったのにも理由があった。


「それは妻も加わっていたからだ。病み上がりで本調子ではなく、それで予定より少し時間がかかってしまった」


「ああ、なるほど。そういうことか。まあ、毒を食らわされた訳だし、やり返すのは当然だな」


「そういうことだ」


「あっ、ジオさんはそれで納得するんだな。病み上がりで危険だから大人しくしておくように、と思うのではなくて」


 ハルートが苦笑を浮かべる。

 いや、病み上がりで動かない方がいいのなら大人しくしておくべきだと思うが、病み上がりでも動けるのなら問題ないと思う。

 一応アイスラに確認の視線を向けるが、まったく問題ありません、と頷きが返される。

 やはり問題はないようだ。


 ただ、病み上がりなので万が一はあるかもしれない。

 そのためにハルートがサーシャさんに付き添って、一緒に連合組織と悪徳領主を潰したそうだ。


「それで、いい経験になった、という訳か」


 ハルートがその通りだと頷く。

 それが、戻るのにここまで時間がかかった理由だった。

 まあ、こちらはハルートがちーちゃんを寄こしてくれたし、特に問題という問題はないが、一応確認しておく。


「なら、その連合組織とか悪徳領主とかは、もう気にしなくて大丈夫、ということでいいか?」


「ああ、大丈夫だ」


 シークの断言には自信があった。

 まあ、一先ずは安心していいだろう。

 ただ、これで話は終わりではない。

 何故、シークとサーシャさんが、ハルートと共にヘルーデンに居るのかというのがある。

 それを尋ねると、シークはなんでもないように言う。


「それはもちろん、あなたたちを殺せと言ってきたヤツをどうにかするためだ」


 ……ああ、そういえば、そうだったな。

 ここ最近、視線すら感じないまでにちょっかいをかけられていなかったから、すっかりと忘れていた。


「それと」


「それと?」


「ヘルーデンに拠点を構えるからだ。それで、妻と共に冒険者となって、ハルートとパーティを組むために」


 ……なんか話が急に飛んだ気がしたのだが、気のせいだろうか?


「は? ヘルーデンに拠点? 冒険者? ハルートとパーティ?」


 また、わからない。

 いや、言っていることの意味は理解できるのだが、何故そうなるのかがまったくわからないのだ。

 そこを尋ねると――。


「「意気投合したんだ」」


 ハルートとシークが同時に答え、サーシャさんはクスクスと笑う。

 なんだろう……こう……ハルートとは俺の方が先に仲良くなっていたのに、少し前に会ったシークの方とより仲良くなっているというのは……いや、そもそも師弟の関係だから、気にすることではないのだけれど。

 ……慕われていないのかな。

 そういえば、ハルートはマスター・アッドとも直ぐ仲良くなっていたな。

 ハルートは誰かと仲良くなるのが上手いのかもしれない。


 そういう結論を出していると、ハルートが口を開く。


「そ、それだけでもない。詳しいことはわからないけれど、ジオさんとアイスラさんが何か目的があってヘルーデンに居ることはわかる。そして、それを今、俺を鍛えるということで進められていないということも。だ、だから、丁度いいと思ったんだ」


「丁度いい?」


「あ、ああ。俺も少しは強くなった。少なくともそう思えるくらいには。それと、手紙を運べるのもテイムできた。最初にあった交換条件はどちらも達成できたと思うから、もうジオさんとアイスラさんの目的の方を優先して欲しいんだ。もちろん、俺にとってもジオさんとアイスラさんは恩人だから、ちーちゃんによる連絡に関しては協力する。あ、あと、偶に手合わせというか、指導はして欲しい、かな」


「……気を遣わせてしまったようだな。わかった。目的を優先させてもらう。連絡に関しても協力は感謝する。ありがとう。もちろん、指導はいつでもするから言ってくれ」


 ハルートと共に笑みを浮かべ合う。

 シークとサーシャさんと見て、一礼する。


「ハルートはまだまだ未熟だから、よろしく頼む」


「ああ、任せろ。俺と妻はあなたたちに救われた。その恩義を裏切ることはない。……ただ、一つ懸念がある」


「懸念?」


「ああ、その……俺と妻は『暗殺夫婦』として有名で、その……もしそれが冒険者ギルドマスターにバレた時にどういう行動に出るかわからないというか……」


「なるほど。……なら、先に言ってしまうか」


 シークとサーシャさんが「ん?」「え?」という表情を浮かべる。

 まだ騒ぎを起こした訳ではないのだから、先に言っておけば大丈夫だろう。

マスター・アッド「(稲妻が走る)……嫌な予感がする」

作者「気のせい気のせい」

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