表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/204

そういえば

 アイスラと紫髪の男性との戦いが始まった。

 紫髪の男性が暗殺者なのは間違いない、と思う。

 それと、暗殺者の中でも凄腕であろう、ということも。

 これで暗殺者に対して初見であったのなら、対応は相当難しい。

 暗殺者が持つスキルの中には、相手の意表を突くようなものが多く、中には思考を鈍らせ、曇らせるのもある。

 スキルだけではなく暗殺術なんてのもあるので、初見殺し、と言ってもいい。

 知らなければ、まともに食らいかねない。

 ……まあ、アイスラなら初見でもどうにかできそうだが。


 ただ、実のところ、暗殺者も、暗殺スキルも、暗殺術も、アイスラは初見ではない。

 何しろ、アイスラは母上専属のメイドである。

 そして、母上は父上や兄上と違って高い戦闘能力を有している訳ではない。

 精々が、多少の自衛を身に付けている程度。

 パワード家の中だと、どちらかと言えば俺もそうなので、俺は父上似ではなく母上似だと思う。

 父上は納得しても、細かい部分が自分に似ている、と言いそうだが。


 ともかく、そんな母上を普段から守っているのがアイスラである。

 今は俺の方に居るけれど。

 まあ、母上は今メーション侯爵家に居るので安全である。

 なので、アイスラは母上を守るために、ありとあらゆる状況に対抗できるよう鍛えているのだ。

 ありとあらゆる状況の中には、当然凄腕暗殺者に襲われた場合に対するモノも含まれている。

 ……懐かしいな。父上が「中々の腕前だったから、こいつで特訓するぞ!」と、どこからか凄腕暗殺者を捕まえてきたのが。


 そういうこともあって、アイスラに暗殺スキルや暗殺術は通じないというか、対処できるようになっている。

 もちろん、俺も、だ。

 だから、アイスラがいくらかやり合ったあとに暗殺者を取り押さえたことは、不思議でもなんでもなかった。


「え、ええ……一体何が……」


 初見のハルートが戸惑うのも仕方ない。


「殺しに来たのですから、殺される覚悟はおありですよね?」


 アイスラが、そのまま暗殺者を殺そうとする。

 人死には慣れていないのか、ハルートは顔を両手で覆った……いや、指の隙間から見ているな、これ。

 だが、相手は暗殺者である。

 この状況からでも、何かしらの手を打ってくるかもしれない。

 周囲に仲間の気配はないので助けが入るといったことはないが、殺れる時に殺っておいた方がいいのは間違いない。

 ただ――。


「アイスラ。待て」


 少し気になることがあって止めた。

 トドメを刺そうとしたアイスラの手が止まる。


「気になることがある。この状況で町ではなく森での襲撃といい、先ほどの発言も仕事だからと割り切ったモノではない感じがした。残党らしき雰囲気でもないし、もし雇われただけで、そこに何かしらの事情があるのなら聞いておきたい」


 上手くすれば残党がどこに居るのかわかるかもしれない。

 わかれば、今度はこちらが襲撃をかけて片付けるだけである。


「……まあ、話す気があるのなら、だが」


 ないなら殺すだけ。

 たとえ、俺たちを殺さないと誰かが死ぬとしても、それで殺されてやる気は更々ない。

 暗殺者は俺をジッと見て……息を吐く。


「……失敗した以上、俺も妻も終わりか。なら、誰かに恨み言を言うのもいいかもしれないな。少なくとも、間接的にヤツらへの嫌がらせになるかもしれないし」


 そう言って、暗殺者は語る。


 物心付いた時から既に暗殺ギルドに居たことに始まり、AS計画によって暗殺を学ばされ……成長して外の世界を知り……運命の出会いへ。


「それが後に俺の妻となる女性だった。最初はぶつかり合ったのだが、今思い返せば、外見の美しさだけではなく、内面にあった気高さにも惹かれていたと思うのだが……どう思う?」


「知るか。こちらに聞くな」


「そうだよな。妻のことを知らないのだから、いきなり話しても………………妻について話すから判断してくれないか? もちろん、今ではなく当時の印象と取った行動をそのままで話すから、どちらが先に惚れていたのか判断してくれないか。これについては今でも妻と決着が着いていないんだ」


「それこそどうでもいい。というか、この状況でそれは、実際のところかなり余裕があるだろ、お前」


「いや、それは違う。諦めたからこそ、あとは心残りを残したくないだけだ」


「心残りなのか、それは?」


 暗殺者だけではなく、アイスラとハルートも頷く。

 つまり、これは心残り足り得るということになるのか。

 俺にはわからないが。


「わかった。聞いてやるから話せ」


「ああ! あの頃の妻はな――」


 ………………。

 ………………。

 一応聞いてみたが、なんというか妻自慢……いや、暗殺者が思う妻の可愛いところ、好きなところを延々と聞かされて気が滅入った。

 正直に言えば苦行というか、人に聞かせる話ではない気がする。

 あと、結論として、暗殺者の方が先に惚れた、ということになった。

 俺はよくわからなかったが、アイスラとハルートがそちらを支持したからである。


 暗殺者は納得して「ありがとう。スッキリした」と口にしたあと、続きを話す。

 所属していた暗殺ギルドを潰し……後に妻となる女性と結ばれ……義賊のようなことをして「暗殺夫婦」と呼ばれるようになり……敵対する連合組織によって妻が毒状態となって……その解毒のために必要な素材を成功報酬として、俺たちを殺す依頼を受け……今に至る、と。


「……それで話は終わりか?」


「ああ」


「確認するが、義賊みたいなことをしているのに、俺たちを殺せという依頼を受けたことに思うところはないのか? それとも、俺たちが何故そんなことになっているのか知らない?」


「もちろん裏は取った。お前たちが何をしたのか、本来なら依頼主の方が俺と妻の標的になるような者だってことがな。だが、今は妻が一番だ。妻を救うためにやるしかなかった。妻が治れば、依頼主は殺すつもりだったよ。ああいうのは、生かしておくと不幸しかばら撒かない」


「……つまり、お前は依頼を出したヤツの居場所を知っていると?」


「いいや、知らない。会ったのは待ち合わせた場所だったからな。だが、気配は覚えたから探すことはできる」


 ……ふむ。


「なら、俺たちに協力して、そいつを襲撃するというのはどうだ?」


「……駄目だ。それは俺も考えたというか、そもそも単身でやろうと思えばできたが、もしそれで報酬を駄目にされたら……意味がない」


「まあ、そうなるよな……ちなみに、その報酬とはなんだ? こちらで用意できるような物なら用意するが?」


「そう簡単に手に入るような物じゃない………………ギガスパイダーの毒袋だ」


「毒袋? 毒だぞ、それ」


「わかっている。毒も使いようによっては薬となるんだ」


「なるほど。そのギガスパイダーというのはどこに――」


「滅多に遭遇できる魔物ではない上に、強い。まあ、俺なら殺れるが、もう探し出す時間も惜しいくらいだから無理だ」


 そうか。どうしようも――。


「あっ!」


 ハルートが声を上げたので、全員の視線が向けられる。


「どうした、ハルート」


「い、いや、その、ギガスパイダーには身に覚えがあったというか……」


「どこに居るのか知っているのか?」


「知っているというか、その、俺とぴゅいちゃんが捕まって、ジオさんとアイスラさんに助けられた時に居た巨大な蜘蛛がそれだったと」


 ………………あれか。ん? 待てよ。あの巨大な蜘蛛は確か……。

 肩掛け鞄(マジックバッグ)の中から、布に包んでいた巨大な蜘蛛を取り出す。

 そういえば、糸は売ってしまったが、巨大な蜘蛛の方は回収しておいたのに忘れていた。

 一応、俺の肩掛け鞄(マジックバッグ)は、これでも容量拡大だけではなく時間遅延の効果もあるので腐っているようなことにはなっていない。


「これがそうか?」


 布を取って暗殺者に目視で確認してもらうと、「そうだ! これだ! 間違いない!」と喜びの声を上げる。


 そこからの話は早かった。

 忘れていたようなモノなので譲渡するのにまったく問題はなく、暗殺者はこちらに付いた。

 ただ、残党をどうにかするよりも先に解毒を優先したいそうなので、巨大な蜘蛛――ギガスパイダーから毒袋を取り出させて、物が間違いなく、品質が高いことも確認してもらってから、暗殺者を送り出す――。


「あ、あの、急いでいるんだよな? なら、その、送ろうか? ぐるちゃんで」


 ハルートがそんな提案を口にした。

作者「空を飛んで移動、か。憧れるな」

ハルート「と、飛んでみる?」

ぐるちゃん「ぐるるるるる!」

作者「ねえ、大丈夫? 明らかに俺を見る目が捕食者になっているんだけど」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ