見通しが立つ
大きな鳥がこちらに飛んでくる。
ある程度近付いたところで、どういう鳥か見えた。
体は艶のある漆黒で、腹は白銀に輝き、額と喉が炎のように赤く染まり、尾は長く、先が四つに分かれている。
見た目で判断するのなら、燕だと思う。
ただ、その大きさがおかしい。
スワローは基本的に大きくないのだが、こちらに飛んで来ているのは、その背に人が二人は乗れそうなくらい大きいのだ。
「……な、なんか、大きくないか?」
「まあ、大きいな」
ハルートの呟きが聞こえてきたので答えておく。
見れば、少し震えている。
思っていた以上の大きさに動揺しているのかもしれない。
「しかし、あれはスワローでいいのだろうか?」
「ふむ……あの大きさに容姿……何よりお腹が白銀となると……ジオさま。おそらくですが、あれは『クイーン・ギガ・スワロー』と呼ばれる魔物です」
「クイーン・ギガ・スワロー?」
「はい。天敵の多いスワローが魔物化し、その上で長年生き抜いた果てに辿り着く魔物だと言われています。また、長年生き抜いた分、その力は強く、魔法も得意と言われていますので、ランク的に言えばグリフォンと同じランクです」
「なるほど」
「ちなみに、あれはメスですね。オスだと腹の部分が白銀ではなく黄金に輝き、『キング・ギガ・スワロー』と呼ばれています」
「……つまり、滅多に見ない魔物だということか?」
「はい。先ほども言いましたが、長年生き抜く必要がありますので、絶滅に近い状態かと」
「そうか……そういうことだそうだ」
アイスラからの説明を受けて、ハルートに聞こえていたかどうか確認する。
「き、聞こえていた!」
聞こえていたようだ。
二度手間にならなくて良かった。
「だ、だから、頼む!」
ハルートから何かを頼まれる。
……ああ、あの巨体だ。支えて欲しい、ということか。
わかった、と俺も木を登り、ハルートを後ろから支える。
それで巨大なスワローをハルートの腕に乗せて――テイムは完了した。
巨大なスワローが地に下りると、ぴゅいちゃんたち――ハルートのテイムモンスターたちが歓迎するように周囲を飛び回る。
それに対しての反応は、どこか優雅だった。
それぞれに対して、翼を器用に折り曲げて――まるでカーテシーでもしているかのような仕草を取っていく。
これからよろしくお願いします、と言わんばかりに。
クイーンの名は伊達ではない、ということか。
巨大なスワローは俺とアイスラにもカーテシーを行ったあと、ハルートにも同じようにしたのだが、その時が一番親愛を感じるモノだった。
主は別格、ということだろう。
俺とアイスラ、ぴゅいちゃんたちの時は特に変化はなかったので、同格扱いなのかもしれない。
それよりも、この大きさなら手紙を運んで飛ぶくらいは問題ないだろう。
強さもグリフォンと同格なら、妨害があったとしても対処できそうだ。
問題は、ない。
「これならいけそうですね、ジオさま」
アイスラも同じ考えなのか、同意を口にする。
「ハルート。それなら手紙は運べるな」
「手紙? ……あ、ああ! そうだったな! そうだ! 運べるな!」
ハルートの声音には歓喜が含まれていた。
来ると期待していなかったところに来たのだ。当然である。
俺もそうだ。
期待していない時ほど来るとか、そういうこともあるかもしれない。
あとは手紙を書いて、母上の下へ届けてもら……届けて………………問題が、あった。
まったく懸念していなかった。
どうやって母上のところに行かせればいいのだろうか。
母上が居る場所はわかっている。
しかし、相手は鳥だ。
どうやって、母上が居るところまでの道順を伝えればいいのだろうか。
普通なら伝えるか、そこまで連れて行くとかすればいいのだが、今は国内を動き回ると見つかる可能性が高いので、できることなら控えたい。
いや、諦めるのはまだ早い。
グリフォンと同格であるならば、相当な知性を有していて、言葉が通じる可能性もある。
確かめてみることにした。
「俺の言葉、わかるか?」
巨大なスワローに聞いてみる。
「……ちっ?」
首を傾げられた。
明らかに通じていない。
……終わった。
がっくりと項垂れる。
「え、えっと……どうした?」
ハルートが不思議そうに聞いてきたので、思い当たった問題について、話す。
聞き終えたハルートは「確かに、それは……」と口にしたあと、考えるように顎に手を当て……そのまま視線を巨大なスワローに向ける。
巨大なスワローもハルートを見て、少しの間見つめ合ったあと……ハルートは頷く。
「大丈夫だ。前にも言ったと思うけれど、俺とぴゅいちゃんたちの間には繋がりがある。当然、ちーちゃんとの間にも繋がりは既にある」
「ちーちゃん?」
「ちーちゃん」
ハルートが指し示したのは巨大なスワロー。
……まあ、いいけどな。そもそも、ハルートのテイムモンスターなのだ。
ハルートが名付けて当たり前。
本人、じゃなかった。本鳥? ……巨大なスワローも納得しているというか、名前が付いて喜んでいるようなので良しとしよう。
巨大なスワローは、ちーちゃんである。
いや、そうではなく。
「それで?」
「その繋がりである程度のことは伝えられるし、ちーちゃんのことも理解できる。だから、届けられる! ジオさんからは無理でも、俺なら伝えられるんだ! 場所を教えてくれ! ちーちゃんに頼んで届けてもらうから!」
「お、おお! ハルート……ありがとう!」
そういうことなら、と早速届けて欲しい場所について、ハルートに話す。
すると、ハルートはその場所――王都近郊にある、メーション侯爵家が治める町を知っていて、それなら繋がりを通して教えることができる、と心強い言葉を返してくれる。
また、それだけではなかった。
ハルートは繋がりによってちーちゃんの能力も把握できて、魔法によって姿を隠すこともできるらしく、それで誰かに見つかることなく届けられるそうだ。
理想の配達鳥である。
それなら、あとはメーション侯爵家が町のどこにあるか、母上に手紙を渡すならどこがいいか、といったことを伝え、考えないといけない。
ただ、それらはしっかりと考えたいし、手紙も書かないといけないので、これ以上の話はヘルーデンに戻ってからにした。
見通しが立ったことで、幾分気持ちが軽くなる。
ちーちゃんを交えてのんびりと過ごしたあとは、ちーちゃんも希少な存在ということでヘルーデンには連れて行けば騒ぎになりそうなので今はまだだと、ぐるちゃんと小鳥と共に飛び立つのを見送ってから、俺たちはこの場をあとにした。
ぐるちゃん「ぐるるるるる」
作者「はい。あの、その件は本当に考えていますので……」
ちーちゃん「ちちちちち」
作者「はい。もちろん、連れて行けるように、今は調整中でして……」
ジオ「言葉、わかるのか」
アイスラ「そのようですね」