仲良くなれると思う
黒ずくめの人たちを引き摺りながらヘルーデンに戻った。
「魔の領域」である森の中から、十二人を引き摺って現れたのだから、当然のように一騒ぎである。
門前には門番だけではなく、冒険者や警備兵、騎士といった、グリフォン騒動の影響がまだ残っていたため、さらに拍車をかけた感じだ。
といっても、手間取った訳ではない。
話はいつも以上に早かった。
俺たちについても、「血塗れの毒蛇」の残党? についても聞いていたようで、事情聴取を受けて黒ずくめの人たちを渡して終わり――かと思ったのだが、話の伝達速度もいつも以上だったのだ。
この話は直ぐに辺境伯――ウェインさまにまで届いて、馬車のお迎え付きで呼び出された。
ルルアさまが心配しているから無事な姿を見せて欲しい、と付け加えられていたので、さすがに断れないか、と辺境伯の城へと向かう。
一応、ハルートも連れていく。
残党? と思われる存在が襲ってきた人たちだけとは限らないからだ。
ハルートも狙われる対象に入っているようだし、別行動させて襲われでもしたら、今のハルートの力量だと対処は難しい。
これで町中であってもぐるちゃんがハルートと一緒に居れば、別行動でも問題ないのだが……。
「この問題が片付くまでは、一緒に行動した方が良さそうだな。だから、このままだと時間的に今日は辺境伯の城に泊まることになる――というか、ルルアさまが泊まりなさいと言うだろうから断るつもりはないし、そうなるとハルートも泊まるということだ」
「え? 辺境伯の城に宿泊とか緊張で……拒否したら?」
「一人で居て、今回みたいに複数人に襲われて無事に撃退できる自信がある、ということか? ハルートとはお互いに約束を交わしているし、無事で居て欲しいからこその提案なのだが」
「わ、わかった! この件が片付くまでは一緒に居るよ! 大丈夫……部屋の隅とかに居れば……あるいはベッドに潜り込んで視界を制限すれば……」
納得してくれたようで何よりである。
馬車に乗り、辺境伯の城へ。
ウェインさまとルルアさまに出迎えられた。
ハルートが盾、あるいは生贄であるかのように、俺の後ろに隠れる。
……わかっている。ハルートを矢面に立たせるつもりはないから、服を掴むのを止めてくれないか。動けない。
ハルートの掴む手をどうにか放してもらい、俺は前に出てウェインさまとルルアさまに無事な姿を見せる。
「まっ、アイスラも共に居たのだ! やられるとは思っていなかったがな! がっはっはっはっ!」
「ジオが無事で本当に良かったわ。アイスラも。それと、あなたも」
ウェインさまは豪快に笑い、ルルアさまは俺だけではなくアイスラ、ハルートの姿も見て安堵の息を吐く。
食事も用意されていて、まずは食事を頂いてから、残党? とのことを報告する。
報告を聞き終えたウェインさまは、「そいつらのことは任せろ。どんな手を使っても口を割らせる」とどこかに行った。
指示を出すためだろう。
「……どんな手って、一体」
「どんな手は、どんな手だ」
ハルートが不思議そうに口にしたので、そう答えておく。
まあ、わかりやすく言えば、なんでもあり。何をしても。だろうか。
口に出すことを憚られることもあるので、曖昧な方がいいのだ。
「それはともかく、今日はもう遅いし、泊まっていくわよね?」
思った通り、ルルアさまから宿泊の提案が出たので受ける。
受けるとわかっていたのか、部屋は既に用意されていて、そこまでは普通というか気にすることはなかったのだが、お風呂に入ろうとした時に思い出す――というか、目の前に現れて思い出した。
「お体の隅々まで洗わせて頂きます。ご希望でしたら私の体を使って」
押しの強いメイドが現れた。
ハルートは怯えている。
「大丈夫だ。実害はない……多分」
絶対ではないが、来ると思ったからだ。
そして、来た。
「またあなたですか。どうやら、前回の敗北が応えていないようですね。ならば、今度は忘れないように刻んであげましょう……あなたの体に、ね」
アイスラが。
押しの強いメイドが不敵な笑みを浮かべる。
「またあなた、はこちらの台詞です。前回のが私の本気だと思っているようですが、それは間違いです。何しろ、私は北部冥土豪拳だけではなく、北部冥土虎牙爪拳も習得済みなのです」
そう言って、押しの強いメイドは両腕を上げ、手は爪を見立てるように構えて、「がおー」と口にする。
「くっ。虎という一つの強さの象徴でありながら、可愛さ全開で迫ることでギャップを感じさせる言動。しかも、あなたは八重歯付き。やりますね」
アイスラが悔しそうな表情を浮かべたのだが、それは一瞬のことで直ぐに笑みへと変わる。
「ですが、私も前回のはまだ本気ではありませんでした。そして、あなたと同じく、私も中部冥土極拳だけではありません。お見せしましょう……中部冥土龍身拳を!」
そう言って、今度はアイスラが両手を後頭部に当て、腰の辺りをくねらせる。
「その姿! 腰回り! まるで龍が天へと昇っていく美しさを体現しています! さすが、ライバルと認めた存在!」
押しの強いメイドが狼狽えるがそれも一瞬のことで、二人は対峙したまま「ふふふ……」と小さく笑い出した。
ハルートは困惑している。
「これは……どういう状況なのか……」
「深く考えない方がいいというか、気にしたら負け、のような感じがする。まあ、一つ確かなのは、今の間であれば安全にお風呂に入れる、ということだ。だから、入るぞ」
「は、はあ」
ハルートと共にお風呂に入った。
………………。
………………。
のんびりと湯に浸かったあと、お風呂から出た。
前回と違って、アイスラと押しの強いメイドの戦い? はまだ続いている。
「中々やりますね」
「そちらこそ」
ただ、二人の姿勢は変わっていた。
アイスラは、相手に向けて背を見せて顔だけ振り返っている。
押しの強いメイドは、ペロッと舌を出し、丸めた手を顔の横に付けていた。
ハルートは再び困惑する。
「あれは……何をしているのかわからない」
「言っただろ。気にしたら負け、と。……アイスラ。友達と遊ぶのはいいけれど、夜更かしはしないように」
「「お友達ではありません!」」
アイスラと押しの強いメイドの両方から言われる。
仲良さそうに見えるけれどな。
とりあえず、この決着がどう着くかわからないので、それは二人に任せて、俺とハルートは用意された部屋へと戻ってゆっくりと休んだ。
―――
翌日。
アイスラに会った時にあのあとどうなったのかを尋ねて、「私の美しさが可愛さに勝ちました」と言われた。
違う場で戦っているような気がしたが、「そうか。さすがアイスラだ」と答えておく。
アイスラが負ける姿は思い浮かばないので、当然の結果と言えなくもない。
そして、辺境伯の城から出たあと、考える。
ハルートのテイムは確認したが、数日かかると言っていたようにまだ使えない。
その間でハルートを鍛えてもいいのだが、数日あるのなら以前考えたようにハルートの武具を改めて揃えるのもいいと思い、ラックスさんのところへ向かうことにした。
押しの強いメイド「さてと、ここで続きを」
アイスラ「望むところです」
作者・ジオ「「帰れ」」