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襲撃

「止まれ。ハルート」


 俺とアイスラは既に足を止めているので、ハルートだけに言う。

 ハルートは足を止めて、不思議そうに尋ねてきた。


「え? なんだ? 何かあったのか?」


「どうやら、ハルートは感知系も鍛えた方は良さそうだな。囲まれている。囲んでいる時点で、狙いは俺たちで、姿を隠している時点で後ろ暗い目的がありそうだ。ついでに言えば、殺意も隠し切れずに漏れ出ている。それが全部で、十……十一……十二人か」


「は? え? 囲まれている?」


 ハルートの言葉がきっかけとなったのか、周囲から何かが飛び出して来て俺たちを囲む。

 飛び出して来たのは、頭は目だけ見えるように目元部分をくり抜いた黒いマスクを被り、体はところどころに暗器のような武具を付けた黒のレザーを着ていて、腰から剣を提げた、全身黒ずくめの人。

 全員、それで統一されていた。


「な、なんだ! なんなんだ! こいつらは!」


 戸惑いつつも、ハルートは槍を構える。

 ――瞬間、黒ずくめの人たちから、嘲るような雰囲気が流れた。

 ハルートの構えを見て、数的有利もあるし、これくらいなら――とでも思ったのかもしれない。

 まあ、ハルートはまだ鍛えている最中なので仕方ないが……これはどうしたものか。

 本当に困った。


 俺は一人ずつ指差していき……七人目で止める。

 感覚的に、黒ずくめの人たちの中で一番弱いヤツ。


「お前がこいつらの隊長的なヤツか? 一番弱いし」


「は、はあ! ふっざけんな! 俺が一番弱いだと! 舐めた口をききやがって! ……こいつ、俺に任せてもらえませんか! 切り刻んで、いい悲鳴を上げさせてやりますから!」


 俺が指差したのは憤り、他のからは失笑のようなモノが漏れ出る。

 あれ? 間違えた? こういうヤツらの隊長って部下に任せっきりで自分は動かずにいるから、体は鍛えても経験が足りずに実際は弱い、というイメージがあるのだが……ということは、単純に黒ずくめの人たちの中で一番強いのが隊長だろうか?

 そう思って、黒ずくめの人たちを見ていくと、失笑などはせずに腕を組んで様子を見ていたのが居た。こいつか?


「好きにしろ。ただし、この人数差だ。急がないと他の者が殺してしまうぞ。この者たちは惨たらしく殺さないといけないのだからな」


「わかっている! 即殺す! 俺が弱いなんて言ったことを後悔しながら死ね!」


 俺が指差した黒ずくめの人が腰から提げた剣を鞘から抜いて襲いかかってくる。

 ただし、剣を鞘から抜いたのは視線の誘導で、実際は暗器を手に取っていて投擲していた。

 投擲してきたのは、細長い針が三本。

 細長い針は一切ブレていないので、普通であれば非常に見づらい。

 腕はそれなりにいいのだろうが……そういうのが通じる相手がどうかを見定める目はないようだ。

 ……マスクの目元部分をくり抜いた意味がないな。


 俺も剣を抜こうとして、止めた。

 これは思った以上の切れ味があるので、彼我の実力差を考えた場合、そのまま斬り殺してしまう可能性が高い。

 捕まえて情報を得たいところなので、生かして捕らえた方がいいだろう。

 飛んできた細長い針三本を鞘付き剣で叩き落とし、そこに驚愕したような目を浮かべる指差した黒ずくめの人が剣を振り下ろしてきたのでかわして、鞘付き剣を振り上げて指差した黒ずくめの人の腹部に打ち込み、そのまま飛ばさないように鞘付き剣を動かして、勢い良く地面に叩き付ける。


「ぐはっ!」


 あれ? 追撃で顔でも踏んでやろうと思ったのだが、指差した黒ずくめの人は既に気絶していた。

 打たれ弱すぎないか?

 暗器ではなくて防具を身に着けた方がいいと思う。


「「「なっ!」」」


 周囲の黒ずくめの人たちから驚愕の声が漏れる。

 そんなに驚くようなことだったろうか?

 もしかして、自分たちが余裕で襲撃できるとでも思っていた?


「かかれっ!」


 腕を組んでいる黒ずくめの人が号令を出して、他の黒ずくめの人たちが一斉に襲いかかってきた。


「一先ず、俺の後ろに居ろ」


 ハルートの服の襟を掴んで、強引に俺の後ろに回す。

 襲いかかってくる黒ずくめの人たちの大半がハルートより強いため、下手に戦わせると殺されるかもしれないからだ。

 それはハルートもわかっているのか、大人しい。


 鞘から抜いた剣や暗器を使ってくるが、ハルートを庇いながらすべて防いでいく。

 反撃はしない。

 といっても、反撃できない訳ではなく、俺自身、攻守の守に特化しているとはいえ、黒ずくめの人たちを倒そうと思えば倒せるくらいの力は有している。

 単に、反撃する必要がないだけだ。


「ジオさまに襲いかかっていいのは私だけです!」


 ……俺に襲いかかるとは、どういうことだろうか?

 アイスラに襲いかかられるようなことをした覚えがないのでわからない。

 ともかく、俺が反撃する必要がないのは、アイスラが攻撃に回ってくれるからである。


 当然、アイスラにも黒ずくめの人たちの剣や暗器は通じず、逆に黒ずくめの人たちはアイスラによって殴り飛ばされたり、蹴りで叩き付けられたり、投げ落とされたりと、その数を減らしていった。

 収納魔法の中に武器はあるのだが、それらを使うまでもない、ということだろう。

 その中で俺は冷静に見極めて――。


「アイスラ。あいつが丁度良さそうだ」


 残っている黒ずくめの人たちの中から一人選ぶ。


「かしこまりました」


 俺が指名した黒ずくめの人以外を、そう時間をかけずにアイスラが倒す。

 この場で無事に残った黒ずくめの人は、俺が指名したのと、腕を組んでいたのだけ。

 多分、腕を組んでいたのが黒ずくめの人たちの隊長だと思うのだが、仲間? 部下? がやられていくのを黙って見ていたのはどうかと思う。

 確かに、アイスラがそう時間をかけずに倒していったが、動けるだけの時間はあった。

 それなのに、動かずに見ていただけとか……無能と言う他ない。

 普段から部下任せだから、いざという時の判断力が落ちたか、なくなったんだろうな。


「そ、そんな馬鹿な! 栄えある『血塗れの毒蛇(ブラッディーバイパー)』の精鋭が……」


 動揺したとしても、そういうことをポロっと口にしてしまうのはどうかと思う。

 こんな無能が上に立っているとか、やられた黒ずくめの人たちもこれまで苦労をしてきたのかもしれない。

 少しばかり同情してしまう。

 まあ、だからといって見逃しはしないけれど。


「くっ!」


 無能が逃げ出したが、俺が何か言う前にアイスラが動いて地面に叩き伏せた。

 残るは、指名した黒ずくめの人のみ。


「……ま、まさか」


 ハルートが恐る恐る口を開く。


「さあ、鍛錬の時間だ。頑張れよ。陽が落ちる前にはヘルーデンに戻りたいからな」


「や、やっぱり~!」


 指名した黒ずくめの人を使って、ハルートを鍛えた。

 俺の助言を受けながらハルートが戦っている間に、肩掛け鞄(マジックバッグ)の中から縄を取り出して、アイスラが倒した黒ずくめの人たちを縛り上げていく。

 念のため、自決防止として口に縄を噛ませる。


 縛り終わる頃に――。


「か、勝ったぁ~!」


 多少傷を負いはしたが、ハルートが勝利の喜びの声を上げた。

「お疲れ」とハルートを労ってから、ハルートが倒した黒ずくめの人も縛り上げて、黒ずくめの人たち全員を手分けして引き摺りながらヘルーデンへと戻る。

ジオ「……よいしょ」

アイスラ「回収をお願いします」

作者「黒ずくめの人たちをここに運んでくるんじゃない! 怖いだろうが!」


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