火の扱いには気を付けましょう。使っていないけれど
裏の小さな組織や「血塗れの毒蛇」の残党が俺たちを探っているらしい。
それらが仕返しなりを企てているのなら、さっさと出てきてくれた方が楽というか、返り討ちにして終わらせられるのだが、それは俺とアイスラからすれば、だ。
ハルートは違った。
「さ、探っているって……それってつまり、報復しようとしているってことなのか?」
「目的まではわからないが、まあ、普通に考えればそうだろうな」
「え、ええ……ど、どうすれば……」
「いや、どうもしない。現状だと、警戒しておくくらいしかできないからな。そもそも、誰がそうだとわからない以上、向こうから出てくるのを待つしかない。だから、そこまで気にする必要はないぞ」
「そ、そう……なのか? なら、しばらくは戦うこともない?」
「ん? ああ、なるほど。今のハルートの強さで戦えるかどうかが不安なのか? まあ、まだ鍛えている最中だからな。そう思っても不思議ではないが、鍛錬は積み重ねだし、強くなっていっているから大丈夫だ。それに、今の内に襲撃してくるのなら俺とアイスラが居るし、森の中であればハルートにはぐるちゃんが居る。問題ない」
「そ、それもそうか……」
ホッと安堵するハルート。
このあと「魔の領域」である森まで行こうと思っていたのだが、ハルートは寝不足のようなのでやめておく。
明日にすることを伝えると、ハルートも了承する。
眠気が吹っ飛んだとしても寝不足なのは変わらない。
ハルートもその辺りを怠れば危険だとわかっているようだ。
なので、ハルートをもう一日休ませることになったが……俺はどうしようか。
特にやるべきことはない。
思うところがあって、アイスラと共にヘルーデン内を歩く。
………………。
………………。
特に襲われるといったことはなかった。
それに、監視するような目もない。
まだ、探っている連中に俺たちの情報は伝わっていないようだ。
今後もわからないままなら、それでもいいが……出てくるなら出てくるで、さっさと出て来て欲しいモノである。
「何もなかったし、宿屋に戻ろうか。アイスラ」
「デート……これはデートと数えて……いや、でも……」
「アイスラ?」
「はっ! そうですね。戻りましょう。……ちっ。出て来てくれれば、ジオさまから『アイスラは俺が守る』という、ときめきの言葉を頂けたかもしれないのに……報復でもするつもりかもしれませんが、空気の読めない連中ですね」
一瞬、アイスラから殺気が漏れ出たのだが、どうしたのだろうか?
敵か? と思ったが、そんな気配はない。
いや、これはアレか。
アイスラなりに敵を誘い出すといった、反応を見るために行ったのだろう。
それでも反応がないということは、間違いなく敵は居ない。
確認を終えたので宿屋「綺羅星亭」に戻って、今日はそのまま休んだ。
―――
翌日。昨日言ったように、アイスラ、ハルートを連れて、「魔の領域」である森へと向か――おうとしたのだが、待ったを入れる。
「……ハルート」
「なんだ?」
「その荷物はなんだ?」
ハルートは人の背丈くらいはありそうな大荷物を背負っていた。
「これはぐるちゃんに食べさせようと思って買った肉だ」
ハルートはいい笑顔でそう答える。
背負えるだけの力は鍛えている中で身に付けたのかもしれないが、どこからそれだけの金を………………ああ、「血塗れの毒蛇」壊滅でもらったヤツがあるか。
それをどう使おうがハルートの自由だが、そんな大荷物を背負ったままなのは、要らぬ注目まで集めてしまうかもしれない。
なので、俺の肩掛け鞄の中に入れて、ハルートからは「ありがとうございます」と感謝されてから出発する。
「「「いってらっしゃいませ!」」」
門番のことを忘れていた。
これを見られたら、まず間違いなく探っている連中に俺たちのことがバレる……バレて問題あるだろうか?
寧ろ、今はさっさと出て来てくれた方が後々面倒でなくていい。
いや、違う。
今は目立つのを避けないといけないのだが門番たちは言っても止めないし、ここで足を止めてしまうと、まだ警戒中らしき冒険者、警備兵、騎士たちの要らぬ注目を集めてしまうので……どうも、と軽く会釈だけ返して、ささっと「魔の領域」である森へと入る。
道中の魔物でハルートを鍛えつつ、浅層を越えて中層へ。
中層に入って少し進めば、森の中にある少し開けた場所に出たので――。
「前よりも少し奥まで来た。この辺りなら、ぐるちゃんを呼んでも大丈夫だろう。というか、呼べるのか?」
「ああ。呼べる。なんというか、ぴゅいちゃんともそうだけど、ぐるちゃんとも感覚的な繋がりがあって、その繋がりでどこに居るかとか、何をしているもなんとなくわかるし、何をして欲しいとかも伝えることができるんだ」
「なるほど」
テイマー独自……いや、ギフトだからこそ、かもしれない。
便利だな。
「独自の繋がり……ジオさまと私の間にもあるはず……ジオさまが今何を考えているか……私に何を求めているか………………はっ! 伝わってきました! ジオさまは今私の体を求めて――」
アイスラが俺をジッと見ているが、どうしたのだろうか?
……わかった。周囲の警戒は私に任せてください、ということだな。
任せた。
ハルートがぐるちゃんを呼んでいる間に、俺は肩掛け鞄の中からハルートが背負っていた大荷物を取り出しておく。
「ぐるるるるるっ!」
喜んでいそうな声を上げて、ぐるちゃんが飛んで来た。
ハルートはぐるちゃんに抱き着き、喜びを表す。
よく見れば、ぴゅいちゃんも抱き着くように引っ付いていた。
そのあとは、ハルートが大荷物を開き、持ってきた食物をぐるちゃんに与えていく。
ぐるちゃんは大喜び。
ぴゅいちゃんの分も用意していたようで、同じように喜んでいた。
そこからさらに、俺の肩掛け鞄から出したように見せて、アイスラが収納魔法の中から調理道具を取り出し、俺がそれにギフトで熱を与えて――バーベキューをする。
青空の下、というのが味をさらに良くした。
匂いに釣られて魔物が寄ってくると思ったが――まったく現れなかったのは、おそらくぐるちゃんを恐れてだろう。
穏やかでのんびりとした時間が流れる。
そのあと、お腹も満たされて、ハルートに再度ギフトによるテイムをお願いしたが、来たのはぴゅいちゃんよりは大きいが、手紙を運んで長距離は飛べなさそうな可愛い小鳥だった。
「どうする? 断るのを試してみるか?」
「……可愛くて無理!」
おそらく、ハルートは一生断ることができないと思う。
新しい小鳥については、必要があれば呼ぶとして、自由にしてもらうことにしたようだ。
とりあえず、肉体的、精神的な疲れはまだないようなので、ハルートにもう一度ギフトによるテイムをお願いしたが……駄目だった。
これまでやったことがないからわからなかったのだが、どうやら一度使うと再度使うのに時間が必要らしい。
ハルートの感覚によると数日は必要だそうだ。
そうなると、ハルートが断れないだろうということも含めて、できるだけ早くに俺が望むモノが来てくれることを願うだけである。
そうこうしている内にいい時間になったので、新たな小鳥は自分が守る、とぐるちゃんが共に飛び立つのを見届けたあと、俺たちもヘルーデンに戻ることにしたのだが、中層から浅層に入り、そろそろ森の切れ目が見えそう、という時に、周囲から複数の視線を感じた。
ジオ、アイスラ「「………………(ちらっ)」」
作者「いや、俺の視線じゃないから! 複数でしょ!」