協力を得られました
ブロンディア辺境伯家の協力を得た。
協力の話し合いが終わると、今度はルルム王国の現状を教えられる。
表立った変化は今のところはない。
王が変わったことによる局所的な影響はあるが、それだけ。
それだけ済んでいるのは、謀反によって玉座を手にした新王の派閥――新王派に貴族の大半が属していて、そこの尽力による結果だそうだ。
「……ほんと、普段はいがみ合っているくせに、こういう時だけはやけに仲良くなるのよね。嫌になるわ」
貴族について、だろう。
うんざり、とルルアさんの顔に書いてあった。
ともかく、貴族の大半ということは、新王派に属していない貴族も居るということだ。
その貴族たちは、さらに二つの派閥に分かれている。
メーション侯爵家を中心にした、反新王を掲げた前王派と、その前王派と新王派のどちらにも属さない中立派の二つに。
ブロンディア辺境伯家は、もちろん前王派である。
今のところ、前王派は中立派を取り込むために動いているのだが、その動きを新王派は放置しているそうだ。
集まった方がわかりやすいとか、纏まってくれた方が叩きやすいとか、色々な理由はあるが、一番は総戦力で比べた場合、新王派が圧倒的だからである。
「せめて、オールが居てくれればな。……私と一緒に正面から王都に乗り込めるのに。さすがに私一人では無理だ」
ウェインさまがボソッと口にする。
つまり、父上とウェインさまの二人でなら王都、王城を攻め落とせると?
それはできない、と安易に口にできなかった。
あとは、ルルム王国の隣国であるウルト帝国とサーレンド大国が、それぞれ自国に協力を要請する使者を出す頃合いらしい。
その結果でどちらに付くか――は今わからないが、どちらに付こうとも、そこからルルム王国が大きく動くのは間違いなかった。
「結果が出るまでどれだけの時間が残っているかわからないけれど、何かしらの行動ができる時間猶予は、その辺りがギリギリだと思うわ。情報は伝えるから、『魔の領域』を進むにしても、間に合わないと判断して別の行動に切り替えることも、頭の隅にでも置いておきなさい」
ルルアさまに「わかっている」と返したところで、一旦話し合いは終わった。
そこで狙っていたかのようにノック音が響き、老齢の執事が入って来て、ハルートとマスター・アッドが落ち着いたことを教えられる。
部屋に来てもらい……実際に落ち着いていた。
「なんというか、同じ経験をして同じように思ったようで、共同体のような意識が目覚めた」
「贔屓が良くないとは思うが、ハルートは俺の友だ。仲間だ。できるだけ協力してやりたい」
……妙に仲良くなっているのは何故だろうか。
この短い時間の中で何があったのか不思議である。
まあ、仲が良いのは良いことだ。
それで納得した。
それと、二人が俺に気遣うような素振りを見せたが、そういうのは要らないと言っておく。
今更態度を変えろとは言わないし、前のままの方がこちらも接しやすい。
また、今は新王によって貴族籍は剥奪されたのである。
だから、気を遣う必要はない――と説き伏せて、以前のままの態度で接してもらう。
そうして、こちら側が落ち着いたところで、ウェインさまとルルアさまから、改めて「血塗れの毒蛇」壊滅の件についての感謝を告げられた。
……そういえば、元々はそのために来たんだったな。
お礼として少なくないというか、かなりの金を貰い、ハルートはさらにブロンディア辺境伯家と繋がりを得た、といったところか。
「以上で終わりか?」
何かあっただろうか? とウェインさまが考え出す。
多分何もない――訳ではなかった。
事前の印象が強くて忘れていたが、俺は思い出す。
しかし、俺から口にすることではないため、話すかどうかを決めるのはお前だ、とハルートを見る。
ハルートは考える素振りを見せたあと――口を開く。
「あ、あの、実はお話ししたいことがあって……俺のギフトについて……それと、それでテイムしたモノも」
そう切り出して、ハルートがテイムしたグリフォンについて説明した。
俺、アイスラ、マスター・アッドは既に知っていることなので特に反応はしないが、ウェインさまとルルアさまは違う。
「「グリフォンー!」」
同じ言葉を発しているのに内訳は違う。
ウェインさまは目を輝かせて嬉しそうに言い、ルルアさまは驚愕していた。
「良し! グリフォンと戦える絶好の機会! ここに連れてこい!」
「連れてこれるかー!」
好戦的な発言をするウェインさまを、ルルアさまが叩く。
なんだろう。既に見慣れた光景になりつつあって、いつも通りのような気もするのでほっとする。
「つい先日現れたのがそれということね。……嘘ではないのよね?」
ルルアさまが確認してきた。
「自分は聞いただけなので」とマスター・アッドはこちらに返答を求めたので、「間違いない」と俺とアイスラが答える。
ルルアさまは悩むように額に手を当てた。
「そう……欲しいのは、ブロンディア辺境伯家の後ろ盾かしら? グリフォンのテイムとなれば、確かに必要ね」
「そういうことか! 良し、わかった! 後ろ盾になってやるから連れてこい!」
「だから、無茶言わない!」
「いやいや、待て。ルルアよ! きちんと考えている! 私と戦うことでテイムしたグリフォンであると、安全であると示すのだ!」
「だから、連れてく――待って。それも一つの手かもしれないわね」
「おお! 話が早いではないか! では早速」
「いいえ、あなたが戦うのではなくて、グリフォンが安全だとわかればいい、という部分よ。安全だとわかれば、町に連れて来ても問題ないわ。それに、考えようによっては、グリフォンが『魔の領域』ではなく町の方に居れば、下手な魔物は町に近付くことすらできなくなる。悪いことではないわ。でも、どうやって安全だと示して滞在させるか……」
ルルアさまが考え出すが、直ぐに頭を振る。
ウェインさまが「だから俺と戦えば」と自分を指差していたが、視界に入っていない。
「駄目ね。色々とあり過ぎて考えが纏まらないわ。とりあえず、後ろ盾の件はウェインが乗り気だから了承するとして、グリフォンについてはまた改めて相談する、ということで良いかしら?」
ハルートは頷いてから、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
そのあとは後ろ盾の手続きに移り、ハルートにはブロンディア辺境伯家の家紋が印された、手のひらサイズの小さな盾が渡される。
「必要な時に出せないと意味はないけれど、どのように持つかは自由だから、決してなくさないようにしなさい。それと見せびらかすのは止めた方がいいわよ。逆に狙われることになりかねないから」
「わ、わかりました」
ハルートがごくりと喉を鳴らして、俺を見てくる。
「どうした?」
「ど、どう持てばいいか……」
「まあ、服に裏ポケットを付けてそこに入れるとか、ネックレスみたいに首から提げるとか。まあ、ルルアさまが言ったようになくさなければ問題ない」
「な、なくさなければ………………」
「だから、どうして俺を見て……まさか、俺に持っていて欲しいとか言わないよな? それはさすがに駄目だ。自分で持つように」
「はい……考えます」
これで一旦話は終わったので、お暇しようと思ったのだが――。
「良かったら泊まっていかない? ウェインも、アイスラの今の腕前を確認したいだろうし」
「うむ! 弟子がどこまで成長したか、確かめてやろうではないか!」
「師匠を超える日は今日でしたか」
アイスラが乗り気なので泊まることにしたのだが、ハルートとマスター・アッドは精神的にもう以上疲れたくないと言って帰っていった。
逃げたな、と思わなくもない。
ハルート、マスター・アッド「「……ふう」」
作者「ここに逃げてくるんじゃない!」