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出発

 ……夜空に輝く星々が綺麗だ。

 そう思う。

 思えば、こうしてしっかりと夜空を見た覚えがない。

 だからこそ、より強くそう思うのかもしれない。


 雰囲気も大事だ。

 今は森の中。

 足下には出た場所から続く水路が近くで流れる川と合流して、耳に届く流れる水音がより良い雰囲気作りに大きく貢献している。


 というより、今はそういうことしか意識してはいけないのだ。

 下水道から出た俺は、下水道の方に背を向けて、視線を上に――夜空に向けたまま固定した。

 視線を下げることはできる。

 しかし、できない。いや、やらない。

 紳士としてやってはいけない。


「ん、しょ……」


 後方――下水道がある方から、どことなく艶めかしい声が聞こえてきた。

 多分、わざと。

 そんな声を出さなくても、アイスラなら鉄格子の隙間から抜けられるはずなのだ。

 まあ、その様子を見ることはないので確かなことは言えないが。


「ふう……さてと、通り抜けるために脱いだスカートを履かなくてはいけません。このままですと下着――それも下半身の下着姿を見られてしまうことになります。けれど、今は夜中ですし、視界不良なので大丈夫でしょう。それに、たとえ見えてしまったとしても、それは不可抗力というモノ。事故です。事故なのです。事故で片付けられます」


 妙な予感がしたのでそっと目を閉じる。

 アイスラが俺の前まで回ってきてから、こちらに聞かせるように衣擦れの音が耳に届く。

 音と気配でわかる。

 不意に音が止む。


「……ジオさま」


「どうした?」


「どうして目を閉じているのですか?」


「パワード家の者として、着替え中の女性の破廉恥な姿を見る訳にはいかないからだ」


「なるほど。さすがはジオさま。ですが、安心してください。もう履き終えています」


 なんとなく目は開けない。


「………………」


「………………よいしょ」


 黙っていると、アイスラの声と共に衣擦れの音が耳に届いた。

 なんとなくスカートをきちんと履いた気がする。

 でも、念のために――。


「今から目を開けるけれど、これでもし履いていなかったら同行はなしだ」


「それは杞憂に終わります」


 アイスラを信じて目を開ける。

 いつも通りのメイド姿のアイスラが居た。


「確かに杞憂だったね」


「はい……と言いたいところですが、やはり下水道を通った弊害でしょうか臭いが少しばかりキツイので、消臭の魔法を使用しても構わないでしょうか?」


「そうだね。この臭いで誘因してしまう可能性の方が高そうだし、消えるのならお願いするよ」


「お任せ下さい。『悪臭よ消えよ(ディオドライズ)』」


 アイスラが魔法を使うと、俺とアイスラの体全体がほんのりと輝き……それは直ぐに消えて……うん。問題なく臭いが消えていた。

 ……消えているよな?

 下水道を通ってきて鼻が馬鹿になっている可能性はある。

 実際はまだ――とかにはなっていないはずだが、アイスラが念入りに自分の体と服を嗅いでいるから不安を抱いても仕方ないだろう。


 アイスラが満足するまで大人しく待った。


「失礼しました。ジオさま。それで、家から出る時は聞きませんでしたが、これからどうするのですか? 奥さまの下へ向かわないのでしたら、当主さまの下へ向かうのですか?」


「いいや、父上と兄上の下へも向かわない。パワード家の力と立ち位置を考えると、そっちにも手を回されていると思う。念のため、王都から出たことがバレないように出たけれど、それで大丈夫だと過信して下手に接触するのは愚策だから、無闇に接触しない方がいいと思う。少なくとも、しっかりとした連絡手段を得るまでは。だから、個人で動く。父上たちもそうするだろう。国が取られたのなら、国を取り返すために」


 それに、父上たちならもう既に独自に動いていると思う。

 ならば、俺も自分にできることをするだけだ。

 それがいずれ一つに繋がる……はず。

 ……そうなるといいな。

 そのためには――。


「なるほど。確かに当主さまたちであれば問題ないでしょう。ジオさまの考えに賛同致します」


 今後の行動を考えていると、アイスラが納得して一礼する姿が目の端に映った。


「……ぐふふ。これは実質ジオさまと二人きりの旅行……いえ、追われるでしょうから愛の逃避行……こうして二人は更なる愛を育んでい」


「ん? 今なんか言った?」


「はい。まずは王都脱出を優先したために詳しくお聞きしていなかったのですが、脱出できたことですし、今後の行動はどのようにお考えなのかをお聞きしたいのですが、構わないでしょうか?」


 そんな感じだったろうか? ……まあ、いいか。


「構わないけれど、脱出したといってもこのような落ち着けない場所ではね。だから、まずはどこか町へ――そこで説明したいところだけど、まずここはどこかわかる?」


 尋ねると、アイスラは周囲を見回し、少しの間、空を――星の位置や動きを見る。

 ……さすがに森の木々に遮られて、王都の姿は見えないか。


「……私の読みが間違っていなければ、王都北東の森の中かと」


「北東の森か……さらに東へ進めば町があったはずだけど、そこだと捜索の手が直ぐ来るかもしれないから、そこには寄らずにその次――北の方にある町へ行こう」


「北、ですか?」


 思うところがあると、アイスラが本当に? という雰囲気で尋ねてきたので間違っていないと頷きを返す。

 とりあえず、王都北東の森に脅威となる魔物は居ないから、夜だけど慎重に進んでいけば大丈夫だろう。

 今は少しでも距離を稼いでおかないと。


 しかし、今日は俺の誕生日だっていうのに……用意されていた豪華な食事も食べられなかったし、散々な日になってしまったな。

 この礼は必ず返す。

 決意を胸に、歩み出す。


 ……父上たち……まあ、大丈夫か。

王都を出て、いざ! ……どこへ行く?

18時にもう一話投稿します。

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