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行ける訳ありません

 ブロンディア辺境伯が尻すぼみしたのは、パワード家の現状を思ってのことだった。

 貴族籍の剥奪。父上はサーレンド大国に捕縛。母上は実家から出れば狙われる。兄上は行方不明。俺も公式には同じく行方不明。俺も兄上も世に出れば狙われる。

 そんな現状を思ってのことだ、とブロンディア辺境伯自ら教えられた。


「すまなかったな。オールの友でありながら、辺境の地に居たばかりに報せを受けて何かしようにも、既に何もかもが遅く何の手助けもできなかった。精々が、新王派に対抗するために、カルーナが居るメーション侯爵家と協力体制を築くくらいだった。だからこそ、よくぞここに――ここまで来てくれた。あとは私たちに任せろ。ことが終わるまで、私たちが守ってやる」


「いや、大丈夫だ。守ってもらう必要はない」


「そう。だから安心して――えええええ! 違うのか! 王都に居ることはできず、オールから私の話を聞いていて、頼りにしてきたのではないのか!」


「いや、まったく」


「まったく!」


「そもそも、ここ――ブロンディア辺境伯家には来るつもりはなかったので」


「来るつもりはなかったし」


「だから、元々頼るつもりは一切ありません」


「頼るつもりは一切ありません!」


 ブロンディア辺境伯が崩れ落ちると、確認するように尋ねてくる。


「では、何故私の家に来たのだ!」


「『血塗れの毒蛇(ブラッディーバイパー)』の件で会いたいとブロンディア辺境伯側から申し出があって受けたから」


「そうだった! がっはっはっはっ!」


 直ぐに立ち上がって、立ち直って、ブロンディア辺境伯が笑い出した。

 なんというか、こう……切り替えの早さというか、切り替えると同時に行動を起こしている感じ……そう。父上が捕まったとしても、なんか父上だと何かの拍子で手枷とか縛っているモノを簡単に破壊して、相手の頭を抱えさせそうな――そんな感じが父上と似ている気がする。


 そう感じていると、ブロンディア辺境伯は顎に手を当てて考え出す。


「ん? ……ということは、どうしてメーション侯爵家ではなくヘルーデンに来たのだ? 王都からだとあちらの方が近いの」


「あんたは思ったことが口から出過ぎなのよ。気を付けなさい。特に今はそういうことに関係ない人も居るのだから」


 ブロンディア辺境伯夫人が、ブロンディア辺境伯の頭を軽く叩いて口を閉ざさせる。

 そこでブロンディア辺境伯は気付いたようだ。

 今口にしたことに関係しているのは、俺とアイスラだけで、ハルートとマスター・アッドは関係ないということを。

 ハルートとマスター・アッドを見れば、声にならない悲鳴を上げたあとのような驚き顔を浮かべて固まっていた。


「ありゃ、これはしまった!」


「しまったではないでしょ……はあ。仕方ないわね。そちらの二人には話すかどうかはあとにして、まずは休んでもらった方が良さそうね。先に私たちで話しましょう。隣の部屋でいいから、お願いできる?」


「かしこまりました」


 ブロンディア辺境伯夫人の指示を受けて、老齢の執事が動き出す。

 あっ、この人も居たな。


     ―――


 ハルートとマスター・アッドが固まったまま、老齢の執事によって精神の安定を図るために隣の部屋へと連れていかれる。

 残ったのは俺とアイスラ、ブロンディア辺境伯夫妻。


「さあ、話せ!」


 スパーン! とブロンディア辺境伯夫人が、ブロンディア辺境伯の頭を軽く叩く。

 小気味良い音だった。


「いきなり話せはないでしょ。そもそも、向こうからすれば、私たちは親との繋がりはあっても初対面なのよ。まあ、私はその子の小さい頃に会っているけれど、言ってしまえばそれだけでしかないのだから、順序というモノがあるでしょ。確か……ジオ、だったわね。幼かったし、さすがに憶えていないでしょ?」


 尋ねられて、苦笑を浮かべる。


「申し訳ありませんが、ブロンディア辺境伯夫人のことは記憶にありません」


「でしょうね。ああ、それと私のことは『ルルア』で構わないわよ。カローナの子に気を遣われるのもね。あっちも『ウェイン』で構わないわ」


 許可が出ても、さすがに呼び捨ては駄目である。

 ルルアさま。ウェインさま。でいこう。

 そうすることを伝えると、「硬いなあ。オールではなく、リアンの方を見習ったのか?」とウェインさまが言ってきたが……確かに、父上よりも兄上の方が身近に居たので、それで自然と兄上を見習っていたかもしれない。


 とりあえず、ウェインさまには「そうかもしれない」と答えたあと、俺はヘルーデンに来た目的は正直に話すことにした。

 まあ、そもそも隠したところで、という話であるし、話す前にアイスラに確認したが、大丈夫という返答だったから、というのもある。

 ブロンディア辺境伯夫妻を信じて――というよりは大丈夫だと言うアイスラを信じて、だ。

 直感も――大丈夫だ、と告げている。


 そして、俺はヘルーデンに来た目的を話した。

 ………………。

 ………………。

 結果。


「おお! それは面白そうだ!」


 ウェインさまは大喜びで――。


「なんて無茶で無謀なことを……」


 ルルアさまは頭を抱えた。

 反応が両極端である。


「良し! それには私も同行しよう! 『魔の領域』である森も少しは開拓したいし、深層以降の状況も知りたい! 直接目にする良い機会だ! だから私も行く!」


「一緒に行ってくれるのか!」


 ウェインさまから感じられる強さは父上に近い。

 それだけではなく、辺境伯という肩書きはヘルーデンでは絶大だろう。

 単純に心強い。


「もちろんだ! 共に行こうではないか!」


「行ける訳ないでしょうが!」


 本気を示すようにルルアさまが拳でウェインさまを殴り飛ばす。

 ウェインさまは壁まで吹き飛んでいった。

 そういえば、ウェインさまの頬には手形が残っていたし、ルルアさま……普通に強くない?


「ちなみにですが、ルルアさまはオールさまやウェインさまとやり合えるくらいにはお強い方です」


 アイスラがそっと告げてくる。

 うん。そういうのは最初に言って欲しかった。


 少しばかり戦々恐々としていると、ルルアさまが鋭い目付きでこちらを見る。


「ジオも! 気軽に誘わない!」


「はい。すみません」


 こういう時は素直に謝る。

 母上とは違った怖さ(物理的)があった。


「素直なのはいいことよ。それで、どうなの? 強いの? ジオは」


 ルルアさまに尋ねられたのは俺ではない。

 殴り飛ばされたウェインさまである。

 ウェインさまはなんでもないように戻って来て、俺をジッと見始めて……首を横に振った。


「……弱くはない。一般的に考えても強い方だと思うが、私やオール、リアンほどではないな。アイスラよりも劣る」


「そう。それならさすがに認めるわ」


「お待ちください。その判断は尚早です」


 アイスラが待ったをかける。

 先に反応したのはウェインさま。


「アイスラよ。私の判断が間違っているとでも?」


「いいえ。確かに、ジオさまより私の方が強いでしょう。それは間違いありません。ですが、それは直接的な強さに限れば、です。ジオさまは攻よりも守に重きを置いており、実戦同様になんでもありであれば、ジオさまは誰にも負けません。オールさまも、ジオさまの強さは認めておられます」


「……そうか。オールが認めている、か。なら、一度私と戦おうではないか! 実際に戦ってみるのが一番早い! がっはっはっはっ!」


 ウェインさまが胸を張って笑い声を上げる

 ルルアさまはやれやれと額に手を当てて首を振った。

 アイスラはぶちのめしてやりましょう! と言わんばかりの良い笑顔を浮かべている。


 ……あれ? もしかして、そういう(断れない)感じ?

作者「そういう感じ」

アイスラ「そういう感じです」

ジオ「そういう感じなのか」

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