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歓喜はダンス

 辺境伯と会う日が決まった。

 二日後、である。

 つまり、明後日で、その日の朝に迎えの馬車が来るそうだ。

 元貴族として思うのは、早いな、だった。

 こういう場合に前もって教えられる日はもっと遅いと考えると……元々あった予定が急遽なくなって、そこにねじ込んだのかもしれない。

 もしくは、緊急性が高くなったか。

 マスター・アッドは辺境伯と親しい感じを受けているので、そこから早くに会っておいた方がいい、とか進言したという可能性もある。


 また、二日後という早急な日取りであったためか、こちらの服装や貴族に対するマナーなどについては、気にしなくてもいいということだった。

 それでも最低限のマナーは必要である。

 俺とアイスラはともかく、ハルートは大丈夫だろうか?


 今日はその確認で終わった。

 思いのほかマナーはできている、というのが印象的だったのだが――。


「今からそんなガチガチに緊張していてどうする。まだ会ってすらいないというのに」


「貴族――それも辺境伯という大物貴族に会うとか、考えただけでもう……」


 ハルートは既に倒れそうである。

 まあ、貴族なんて普通は会わないだろうから仕方ない。

 というか、俺も元伯爵家の子息なのだが……教えていないし、まあいいか。

 今更敬われることになっても、それはそれで面倒だし、ハルートを鍛えるのに邪魔でしかない。

 今のままでいいのだ。


     ―――


 翌日。

 ハルートのマナーは、まあ問題ないところまではいけたと思う。

 教え込むことができた。

 しかし、その影響からか、ハルートは疲労している。

 肉体的にではなく精神的に。

 そんな状態で「魔の領域」の森に連れていくのもどうかと思うし、明日に響くのもマズイので、今日も休ませることにした。

 鍛えるのも、新たにテイムさせるのも、辺境伯と会ってからにしよう。


 そうなると、俺とアイスラも時間ができたので、町中へと出る。

 そこで、昨日は確認できなかったが、当日限りだった「魔の領域」である森の立ち入り禁止は本当に解除されているのかどうか、確認しに行く。

 ………………。

 ………………。

 駄目だった。

 外に出ようと思えば出られるのだが、その前に門番に見つかってしまったのだ。

 いや、見つかった程度であれば問題はない――と思っていた。

 向こうも門番という仕事がある訳だし、いつまでもこちらを見続ける訳にはいかないのだから。


 しかし、門番は優秀? だった。

 気配を察知? 周囲の状況を把握? どうやって感知しているのかはわからない。

 けれど、門番たちは俺とアイスラが一定の距離から近付いていくと、近付く距離に合わせて手が上がっていくのだ。

 手の行き着く先は敬礼だろう。

 無駄な能力というか、使い方を間違った能力である、と言いたくなる。


「ジオさまが通るのです。当然の行動ですね」


 うんうん、と頷くアイスラ。

 ……アイスラがそうするように指導した訳ではないよな?

 いや、共に行動しているし、そんな時間的猶予はなかったはず。


 ともかく、町中からでも、門の外には冒険者、警備兵、騎士の姿がちらほらと見えている。

 それでも見ていれば状況はある程度理解できた。

 森からの帰り――魔物素材を持ち帰っている冒険者たちの姿がある。

 おそらく、立ち入り禁止は解除されていると思われるが、念のために警戒は続けている、といったところだろう。

 これなら、辺境伯と会ったあと、直ぐにでも「魔の領域」である森へ入ることができそうだ。

 ハルートには早く、手紙を運ぶのに丁度いいのをテイムして欲しい。

 ……少なくとも、ぐるちゃんには無理だ。


 とりあえず、警戒はまだ続いていると確認はできたので宿屋「綺羅星亭」に戻ろうかな? と考えた時、一つのお店が目に付く。

 それは、洋服店。

 大通り沿いにあって、店自体もかなり大きく、歴史を感じさせる風合いがあった。

 その洋服店を見て、巨大な蜘蛛の糸を冒険者ギルドに納品しようとしてできなかったことを思い出した。

 ここなら――これだけ大きければ、持ち込みの買い取りもやってくれるのではないだろうか?

 それに、こういうのは冒険者ギルドに納品するよりも、お店の方で直接買い取ってもらった方が高額である場合が多い。

 行くだけ行ってみることにした。


 ………………。

 ………………。


 結果だけで言えば、買い取ってもらった。

 それも、高額――だと思う。

 また手に入るのならお願いしたい、とも言われる。


 ただ、最初は店員が相手だったのに、途中から店主が出てきたのには正直少し驚いた。

 なんでも、巨大な蜘蛛の糸は、隙を突いて蜘蛛の巣から手に入れようとしても直ぐに巨大な蜘蛛が駆け付けて襲いかかってくるそうで、中々纏まった数が手に入らない希少品らしい。

 それを、俺とアイスラは纏まった数で持ってきたのだ。


 だからこその高額買い取りだったのだが、店内だけだと思うがそれなりの騒ぎになったことが問題だった。

 店員が言うには、普段は落ち着いた雰囲気の店主が喜びで踊り出すところなんて初めて見た、である。

 マスター・アッドから、またか、と呆れた目を向けられないように、店内で騒ぎを抑えるのに頑張って――疲れた。


 洋服店から出ると、明日に備えて宿屋「綺羅星亭」に戻り、そのまま休んだ。


     ―――


 翌日。辺境伯と会う当日。

 アイスラと共に朝食を頂くのはいつものこととして、今日は緊張で中々寝付けなかったハルートも一緒に朝食を頂く。

 ハルートは不安そうにしていて、俺に救いを求める目を向けてくる。

 わかっている。俺が前に出て辺境伯の相手をするから。と宥めておいた。


 食べ終わると、そこを狙ったかのように迎えがくる。

 ……一回、先にトイレに行かせて。


 アイスラ「トイレ? ジオさま。女性にそのような――はっ! まさか、ジオさまは私の……そういう特殊プレイを」とハルート「……うう……緊張し過ぎて逆に」も済ませたかどうかはわからないが大丈夫そうなので、宿屋「綺羅星亭」を出ると、目の前に豪華な馬車が止まっていた。


 馬車の中には、既にマスター・アッドが待っていて、俺たちが乗り込むのと同時に出発。

 向かうは、ヘルーデンの中心にある、堅牢そうな城。

 馬車内でマスター・アッドから「魔の領域」である森の調査結果を聞く。

 中層にグリフォンが現れた影響は些細と言ってもいいくらいの軽微だったようで、今後については、浅層はできれば止めて欲しいが中層なら呼んでも大丈夫だろう、と言われた。


 ハルートがホッと安堵している間に、堅牢そうな城に着き、城の門前に止まる。

 馬車から降りると老齢の執事が待っていて、案内してくれるようなのでそのまま付いていき、辿り着いたのは豪華で分厚そうな扉の前。

 執事がノックして「お客さまをお連れしました」と口にすると、「わかったわ。今起こすから少し待って」と女性の声が中から聞こえてきた。


 辺境伯。寝ていたようだ。

 それだけ疲れているというか、大忙しなのかもしれない。

 なんてことを考えていると、「バシーン!」と何かを強く叩く音が中から聞こえてきた。


 え? もしかして、話の流れから考えると、辺境伯が叩かれた?

作者「……(ビシッ)!」

ジオ「いや、敬礼しなくていいですから」

アイスラ「角度が甘いです! もっと励みなさい!」

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