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鍛える

「なんだ、てめえら、こら! あのメイドの仲間か? わかってんのか? てめえら終わりだぞ! 『血塗れの毒蛇(ブラッディーバイパー)』に手を出したんだからな!」


 アイスラがハルートの手頃の相手として、武具店の中から外に放り出した男性が、こちらに気付くとそんなことを言ってきた。

 まあ、ハルートは既に剣を構えているので、そう言ってきてもおかしくない。


 男性は三十代くらいで、粗野な見た目に、その手には剣を持っている。

 その剣の切っ先をハルートに向けた。

 やる気満々である。

 俺から見ても、ハルートの相手に丁度良さそうなので問題ない。


「それでは、ハルート。まずは普通に戦ってくれ。今の力を知りたい」


「わ、わかった!」


「あっ、知りたいだけだから無理しないように。それと、死なないように」


「わ、わかっている!」


「舐めてんのか、こら!」


 粗野な男性が襲いかかってきて、ハルートが迎え撃つ。

 剣戟が続き――有利なのは粗野な男性の方。

 といっても、一気に決めきれるような有利ではなく、僅かながら押しているといったところだ。


「相手の剣筋は大したことない。今でも、しっかりと見てからでも避けるなり防ぐなりの対応はできるから、食らわないように」


「わ、わかった!」


 伝えるだけのつもりだったが、ハルートから返事があった。

 周囲に反応できるだけの意識の余裕はある、ということだ。


「チッ! いい加減死ねよ!」


 粗野な男性が苛立ちを見せる。

 それからも剣戟は続くが……時間が経てば経つほど、その差は明確になっていった。

 状況は変わり、ハルートが優勢となって押していく。

 こうなった理由は一つ。体力の差だ。


 粗野な男性はおそらく元冒険者で、ある程度は戦えるようだが、命のやり取りをしたのはいつかわからず、それ以前に日頃からまともに鍛えていたかどうかも怪しい。

 対して、ハルートは未熟といっても現役の冒険者である。

 その差は大きい――のだが、やはりそれだけでは決めきれないようだ。


「ハルート。乱雑に剣を振るな。ただ振ればいいというモノではない。剣も自分の体の一部として振れ――というのはまだできないだろうから、今は自分の攻撃の流れを意識しろ。相手もこちらを倒そうと考えているのだから、思考を放棄するな」


 ハルートの戦いを見ながら声をかけていく。

 その戦いを見ていると、一つ思うことがあった。

 ただ、それはこの戦いが終わってからだな、と思っていると、アイスラが開いた扉から出て来て優雅に一礼する。


「ただいま戻りました」


「おかえり。アイスラ」


「――しっ! これはもう結婚したと言ってもいいのでは? いずれそうなるのですから、今からでも良いはず。それで外堀を埋めて――」


 何やら呟いているが、アイスラは喜びを露わにしている。

 ということは――。


「何か見つかったのか?」


「なあに、既成事実はあとでも――いえ、見つかっておりません。どうやら、ここはあくどい商売をしているだけのようです」


「そうか。それなら先ほどの喜びは」


「ジオさま。あの者が危ないかと」


 ハルートのことか? と見れば、ハルートが体力に任せて押しに押して粗野な男性を追い詰め、トドメとして振った剣が粗野な男性の剣に当たって折れたところだった。

 体力に任せた攻撃に耐え切れなかったようだ。

 あまり良い剣ではなかったことも関係あるかもしれない。

 粗野な男性が絶好の機会だと歪な笑みを浮かべて襲いかかろうとする――が、そもそも体力が切れかかっているようで動きは鈍い。


「う、うわあああああっ!」


 だから反応できたハルートが焦って叫びながらも、粗野な男性が振る剣を避けて、蹴りを放つ。

 狙った訳ではないだろうが、それが粗野な男性の顔面に綺麗に当たって――。


「う、ぐっ……」


 粗野な男性は倒れた。


「まぐれだな」


「まぐれですね」


 俺とアイスラの評価は同じ。


「わ、わかっているよ! はあ……はあ……俺も当たって驚いているから!」


 ハルートも自己分析ができて何より。

 運良く勝てただけだが、それでも俺としては色々とわかったことがある。

 そのために必要な物、それと折れた剣の代わりを、丁度そこに武具店があるので、ハルートは疲弊していたので一旦休ませ、俺とアイスラで取ってきてから次へと向かう。


     ―――


 辿り着いたのは、町中から少し外れたところにある大きな倉庫。

 大きな倉庫の中からは、雑貨店、武具店よりも多くの人の気配がする。

 まあ、人が多いだけだが。


「では、行ってまいります」


「いってらっしゃい。大丈夫だと思うが気を付けて」


「はい!」


 相変わらずご機嫌なアイスラが倉庫に向かい、大きな両扉を蹴り飛ばして――。


「おめでとうございます。今の私は大変上機嫌です。普段であれば全殺しですが、九分殺しで生かしてあげましょう」


 優雅に一礼して中に入っていった。

 直ぐに阿鼻叫喚が聞こえてくる。

 ただ、大きな倉庫の中には大勢が居るのだ。

 アイスラは一人も逃さないと思うが、念のために逃げ出す者が居ないか、居たとしても直ぐ対処できるように警戒しつつ、ハルートに声をかける。


「さて、体力はどうだ? もう休憩は終わりで大丈夫か?」


「……まだ少し疲れているけど、大丈夫だ」


 俺から見ても問題なく戦えそうなので大丈夫だろうが、ハルートの表情はどこか浮かない。

 その理由は、先ほどの戦いで剣が折れたからだろう。


「そう気落ちするな。剣なら持ってきている」


「え? 持ってきて、いる?」


「ああ、前の場所が武具店だったのが幸いしたな」


 肩掛け鞄(マジックバッグ)の中から、あの武具店で取ってきた新しい剣をハルートに渡す。


「えっと、もしかしてこれって」


「武具店に置いてあった中で上質なのを拝借した。前のより良い剣なのは間違いない


「いや、そうじゃなくて……いいのかな?」


「気にするな。元々悪質な商売をしていた店のだ。それでも気にするのなら、『鉄の蛇(アイアンスネーク)』にかけられた迷惑の代金だとでも思えばいい」


「わ、わかった。そうだよな」


「それに、それだけではない」


 次いで、肩掛け鞄(マジックバッグ)の中から上質な槍を取り出して、ハルートに渡す。


「や、槍?」


「見たままの物だ。先の戦いでわかったが、ハルートは相手との間合いの取り方から判断すると、中距離から攻めた方が合うと思う。まあ、こればかりは実際にやってみないことには確かなことは言えないが」


「中距離……そうかな。でも、言われて納得する部分もある。手に持ってみて、剣よりも槍の方が妙にしっくりくるんだ」


 槍を構え、払ったり、突いたりするハルート。

 本当に合っているようで、剣よりも上手く使えそうだ。


「大丈夫そうだな。早速実戦を始めていいか?」


「ああ、始めてくれ」


「アイスラ! こちらの準備はできた! 丁度良いのが居たら頼む!」


 それが合図となって大きな倉庫の壁の一部が砕け、そこから粗野な男性がこちらに飛んできた。

 今度は二十代後半くらいで、剣を持っている。


「あ? なんだ、てめえら? 槍なんか構えて……ぶっ殺すぞ!」


 粗野な男性が、槍を構えているハルートに襲いかかる。

 ――どうやら、ハルートは剣よりも槍の方が得意なようだ。

 粗野な男性が持つ剣を、近付かれる前に槍で弾いて、そのまま倒してしまった。


「………………」


 ハルートは、あっという間に倒した粗野な男性を見て、え? あれ? 俺、なんかやってしまいました? みたいな表情を浮かべている。

 そのまま俺を見るので、間違いなく倒したんだよ、と頷く。


「お、おおおおお!」


「喜びたい気持ちはわかるが、それはあとだ。アイスラ! 次の丁度良いの居る?」


 新たな粗野な男性が、大きな倉庫の壁を砕きながら現れた。

 ハルートが戦いに挑むが、先ほどのより強いようで直ぐには倒せない。

 戦いが少しばかり硬直したので、ここでも一つアドバイスをする。


「ハルート! お前はなんだ? テイマーだろ!」


「何を当たり前なことを――そうか! ぴゅいちゃん!」


「ぴゅい! ぴゅい! ぴゅい!」


 ぴゅいちゃんが粗野な男性の視界を遮るように飛び回る。


「あっ! なんだ! 小鳥? 邪魔だ! こら!」


 粗野な男性は払い除けようとするが、ぴゅいちゃんは攻撃が当たらない位置を上手く飛んでいる。賢い。

 そして、それは明確な隙であり、そこを突いてハルートが槍を振るって直ぐ倒した。


「やったよ! ぴゅいちゃん!」


「ぴゅい! ぴゅい!」


 喜び合うハルートとぴゅいちゃん。

 その光景を少しだけ眺めたあとに声をかける。


「そろそろ次にいってもいいかー?」


「あっ! お願いします!」


「ぴゅい!」


 そして、ハルートとぴゅいちゃんが何度か実戦を経験していると、大きな倉庫から人が飛んでこなくなって静かになった。

 アイスラによる制圧が完了したようだ。

 大きな倉庫の開いた両扉からアイスラが出てくる。


「ただいま戻りました」


「おかえり。アイスラ」


「――しゃっ! ご報告がございます。ジオさま。ここには幹部が居まして、優しく尋ねたところ、快く本拠地の居場所を教えていただきました」


 本拠地の場所がわかったようなので、早速向かう。

作者「強くなれ、ハルートよ」

ハルート「いや、あなたに鍛えられている訳じゃないので……その、どういう立ち位置でそれを?」

作者「いや、立ち位置とかじゃなくて……なんとなく?」

ハルート「いや、なんとなくで言われても」

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