協力する
近いところから向かい、最初に辿り着いたのは――大通りからは外れて、裏通りのようなところを進んだ先にある小さな建物で、表向きは雑貨店のようだ。
夜も遅くなっているので、閉まっていた。
しかし、中から複数人の気配が感じられる。
こちらの様子を窺っている……感じはしないので、俺たちが来たことを把握していないようだ。
まあ、それも仕方ない。
冒険者ギルドを見ていた者たちは、連絡をする前にアイスラによって倒されたのだから。
「それでは、行ってまいります」
「ああ、何が起こるかわからないし、気を付けて。いってらっしゃい」
「……いってきますといってらっしゃいの挨拶。まるで夫婦のようなやり取り。いえ、これはもう実質夫婦では? いえいえ、それは時期尚早。もう一手欲しいところ……はっ! ここは、ただいまとおかえりの挨拶も行えば、完璧に夫婦。その仲睦まじい様子を周囲が見れば、夫婦として見られて外堀を埋めることも……もしくは恋人でも可……そのためには如何にして、おかえりの言葉を貰うか……引き出すか……」
何やら呟きながら、アイスラが雑貨店の扉を音もなく、まるで力で無理矢理開けてというか取って、そのまま中へと入っていった。
多分、どうやって制圧するかを考えていたと思うのだが、考え事しながらだと危ないので本当に気を付けて欲しい。
まあ、雑貨店の中に居る者たちから特に強さは感じないので、元々アイスラの敵ではないのだから、それでも大丈夫だと思うけれど。
「……一人、大丈夫なのかな?」
ハルートは不安のようだ。
「あの巨大な蜘蛛を斬ったのはアイスラだし、『鉄の蛇』を無傷でサクッと倒したのは見ただろう。問題ない」
「そ、そうだよな」
「それよりも、ハルートに聞きたいことがあるのだが?」
「聞きたいこと? 何を?」
「ああ。ハルートはテイマーだが、テイムしているのはぴゅいちゃんだけなのか? 他には?」
尋ねると、雑貨店の壁の一部が内側から砕けて、そこから鍋が飛び出してきた。
売り物だろうか?
雑貨店の中が騒がしくなってきた。
ハルートはそれに少しびっくりしつつも、答えてくれる。
「え、えっと、俺がテイムしているのはぴゅいちゃんだけで他には居ない」
「そうか」
「それが、何か?」
「いや、テイマーならテイムしたモノ次第で戦闘の幅が大きく広がるからな。今回だと高速移動ができるのが居れば色々と助かるな、と思っただけだ」
そう言うと、ハルートは少し気まずそうな表情を浮かべた。
ずれた方が良い気がしたので、ハルートを押して横にずれる――と同時に、雑貨店の壁が内側から大きく砕けて、そこから人が飛び出してくる。
飛び出してきた人は俺とハルートがずれる前に居た場所を通り過ぎていき、通路を挟んだ建物の壁に当たって止まった。
見るからに粗野な男性で、既に気絶している。
ハルートは気絶している男性を呆けて見ていたが、なんでもないように口を開く。
胆力が付いたな。
「そういうのが居ればいいのはわかるけれど、その……多分、求めているようなモノは無理かと」
「無理? いや、やる前から諦めてどうする」
「それは、そうなんだけど……その、ぴゅいちゃんもそうなんだけど、俺はテイマーといっても普通のテイマーではないというか、正規の手段でテイムした訳ではないというか」
「何を言っている。正規ではないと……なるほど。ギフトか」
ハルートが頷く。
「テイムの条件はあるけれど、ぴゅいちゃんはそれでテイムしたんだ」
「条件……それがギフトであることも踏まえれば、もしかして、その条件さえどうにかすれば、なんでもテイムできるのか?」
「あー……これにも条件というか制限があって、鳥系統しかテイムできなくて」
「そうか」
……ん? 鳥系統だけ? でも、それなら――と思ったところで、雑貨店の屋根の一部が砕けて、そこから人が飛び出して天高く舞い上がる。
「「ああ~……あぁ~……」」
ハルートも同じなようで、天高く舞い上がった人の落ちていく姿を目で追っていると、不思議とそんな声が出た。
すると、開いた扉からアイスラが出てきて、優雅に一礼する。
「ただいま戻りました」
「おかえり。アイスラ」
「――しっ!」
アイスラが拳を握って喜びを露わにしたのだが……もしかして、何かしらの情報――『血塗れの毒蛇』の本拠地の場所がどこかわかったのだろうか?
そう思ったのだが、アイスラは少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「申し訳ございません。ジオさま。ここでは新たな情報を得ることはできませんでした」
「そうか。まあ、まだ一つ目だ。悩むのは三つ回ってなかった時で十分だから、今は次に向かおう」
ここのことは……まあ、見かけた人が警備兵に連絡するなりするだろう。
もしくはマスター・アッドが既に話を通しているかもしれないので、放置で構わないだろう。
そう判断して次へと向かう。
―――
次に辿り着いたのは、表の大通りにある、それなりに大きな建物。
武具店のようだ。
剣を探す時に寄ったような……曖昧だが、記憶がある。
確か……売値に対して品質が良くなったような……。
「では、行ってまいります」
「武器が多そうだから、気を付けて。いってらっしゃい」
上機嫌なアイスラが、雑貨店の時と同じく、武具店の扉を音もなく開けて中へと入っていく。
それからそう時間がかからずに、武具店の中から阿鼻叫喚が聞こえてきた。
アイスラは張り切っているようだが、そんな要素あっただろうか?
ただ、張り切っているのは俺も同じ。
正確には気を張っている、だが。
というのも、先ほど寄った雑貨店で学んだ。
中から何が飛び出してくるのかわからない、と。
そして、表の大通りにあるということもあって、まばらだが人が行き来している。
中から何かが飛び出して、関係ない人に当たるのだけは阻止しなければならない。
特に、ここは武具店だ。
殺傷能力が高い物ばかりである。
警戒しつつ、ハルートに声をかける。
「先ほどしていた話の続きだが、良ければそのギフトを使って俺に協力してくれないか?」
「きょ、協力? な、何を?」
「別に危ないことではない。悪いことでもない。ただ、そのギフトを活かしてやって欲しいことがあるだけだ」
「は、はあ」
「協力してくれるならこっちも協力する。俺が感じたことだが、ハルートは強くなりたいと思っていないか?」
「そ、それは……」
ハルートが図星を突かれたように戸惑いを見せる。
どうやら、当たっていたようだ。
悩み始めるハルート。
とりあえず、そこは危ないな。とハルートを引いて横にずらすと、そこに武具店の壁を砕いて盾が回りながら飛び出してきた。
もちろん、他の人には当たっていない。
ただ、それを目撃した人たちは驚きの表情でこちらを見てくるだけ――かと思えば、遠回しにこちらを窺ってくる。
関わるべきかどうか、判断できない感じだ。
「わかった。協力する。俺は強くなれるなら強くなりたい」
「ありがとう。それなら、早速始めるか」
「は、始める? 何を?」
声を張り上げるために少し息を吸う。
「アイスラ! ハルートを鍛えることにしたから、手頃なのが居たら放り出して欲しい!」
「え?」
戸惑うハルートに説明する前に、武具店の壁を砕いて男性が一人飛び出してきた。
見た感じだと、丁度良さそうだ。
まあ、アイスラの目利きなら間違いないだろう。
ハルートを飛び出した男性の前に押し出す。
「さあ、実戦形式でいくぞ」
「ええ……早まったかもしれない」
そう言いながらも、ハルートは剣を鞘から抜いて構えた。
ハルート「だ、大丈夫かな? 大丈夫だよね?」
ジオ「………………」
アイスラ「………………」
ハルート「な、なんで答えてくれないの!」
ジオ「大丈夫だ」
アイスラ「大丈夫です」
ハルート「なんで明後日の方向を見て言うんだ! なんでこっちを見て言ってくれない!」
作者「打てば響く、からかな」