まだまだ続きそうだ
いいね、もありがとうございます。
楽しんでくれるといいな。
冒険者ギルドの訓練場に入ってきた筋骨隆々な男性は、ヘルーデンの冒険者ギルドのマスターだった。
そのヘルーデンの冒険者ギルドマスターが、訓練場の様子を見て的確に指示を出していく。
瀕死の「鉄の蛇」は冒険者ギルドの職員が回収していった。
多分治療されるのだと思う。
そして、俺、アイスラ、ハルートは、ギルドマスター室へと連れていかれた。
ソファーにハルートと並んで座り――アイスラはメイドだからと俺の斜め後ろに立って控えている――テーブルを挟んだ対面にヘルーデンの冒険者ギルドマスターが座っている。
そこで改めて確認。
白髪の短髪に、厳つい顔立ちで、筋骨隆々な体付きの、それなりに質の良さそうなシャツとズボンを着た、五十代くらいの男性。
名は「アッド」。
父上程ではないが、強さを感じる。
多分だが、元冒険者で、その時は高ランクだったのではないだろうか。
さすがに、冒険者なり立て――それも違う町で登録――の名まではわからないようなので、まずは名乗る。
ちなみに、ハルートも冒険者になってからそれほど日が経っていないそうで、冒険者ランクは俺やアイスラと変わらなかった。
つまり、一番下の、登録したてのFランク。
「……驚かないのか? Fランクが、おそらく上のランクの者を倒したのに」
「別に驚くことではないな。なり立てなら特にだ。強かろうが弱かろうが、誰だってFランクから始まる。ランクは当人の強さを示すモノではない」
冒険者ギルドマスター・アッド――長いので、マスター・アッドとしよう。本人了承済――は胆力がある、と思った。
まあ、だからこそギルドマスターとして色々と取り纏められるのかもしれない。
だから、ここに連れて来られた理由は、「鉄の蛇」との間にあったこと――事情聴取かな? と思ったのだが違った。
「見たところ、ヘルーデンに来たばかりのようだな。なら、知らなくても仕方ない。とりあえず、今日はもう遅いから冒険者ギルドに泊まれ。明日早朝、人目を避けてヘルーデンから出してやる。いや、出すだけだと不十分だな。おそらく、既に動いているだろうから、安全なところまで送るべきか。それだと護衛も必要だが、それなりに高ランクでないと危険だな。今空いているのが居ただろうか……」
いきなりそんなことを言い出したのだ。
正直言って、危なかった。
思わず、「では、あの者たちとの諍いに関する流れの話か。まずは――」とこちらから言い始めなくて本当に良かった。
ただ、マスター・アッドが口にした内容が内容だけに、待ったをかける。
「いや、一旦待って欲しい。一体なんの話だ? ヘルーデンを出る? どうしていきなりそんな話になる?」
「ん? ああ、そうか。何もわからないのだから、戸惑って当然か。もちろん、何故そうするのか――いや、そうしなければならない理由を説明しよう」
そう言って、マスター・アッドが教えてくれた。
少しばかり時間はかかったが、要約すると――里や村といった、それが小規模とかならまだしも、町や都といった、その規模が大きくなれば必ずといっていいほどに存在する、闇組織とか裏ギルドとかそんな感じで呼ばれる犯罪組織がある。
ヘルーデンだと、それは「血塗れの毒蛇」という裏ギルドで、かなり手広く犯罪行為に手を染めているそうだ。
もちろん、直接的に最も関わる警備兵も黙ってはおらず、これまでに何度か摘発しているそうだが、捕まるのは下っ端ばかりで未だ壊滅には至っていない。
その理由は単純に規模と保有している力だ。
「血塗れの毒蛇」の規模はヘルーデンで一番大きく、所属している人も多いため、それだけに保有している戦力も強い。
それこそ、警備兵も迂闊に手を出せないほどに。
それが、マスター・アッドから逃げろと提案された件に関わっていた。
何故関わっているのかがわかるかというと、「血塗れの毒蛇」関係には必ず「蛇」の文字が使われているからで、今回叩きのめした「鉄の蛇」もそうである。
そう言えば、「鉄の蛇」がハルートに、これからもヘルーデンで生きていたかったら、とか言っていたな。
つまり、「鉄の蛇」は「血塗れの毒蛇」に所属していて、それがやられたことで組織としての体裁やら沽券にかかるとかそんな感じで、俺、アイスラ、ヘルートは、今後「血塗れの毒蛇」が報復として狙ってくるだろうから、安全のためにヘルーデンから出た方がいい、ということである。
それで大丈夫かどうかは怪しいが、なんだかんだとこういう組織は地元に根付いた影響力なため、他の地域に入ってしまえば影響力はどうしても低くなるので、そこを狙っての安全性を高める方法、ということのようだ。
あと、何故俺たちを助けるのかと言えば、ランクは関係なく、冒険者ギルドマスターとして、冒険者の身を案じての言動とのこと。
……まあ、マスター・アッドの言いたいことは大体わかった。
だが。しかし。
「断る。必要ない」
断言する。
アイスラはその通りだと頷いているのだが、ハルートとマスター・アッドは驚きの表情を浮かべていた。
あっ、一言添えるのを忘れている。
「保護はハルートだけで頼む。俺とアイスラは必要ない。手を出してくる……いや、もう出されているようなモノか。だったら、返り討ちにするだけだ。いや、返り討ちだと後手か。それだと時間がかかって今後に支障をきたすかもしれない。こちらから討って出た方が話は早いな。マスター・アッド。その……『血塗れの毒蛇』だったか? それの拠点がどこか知っているか?」
「……は? いや、いやいや! 話聞いていたか? 危険だから手を出すなって言ったんだよ! 『鉄の蛇』を倒していけるとでも思ったのか? それは勘違いだ。あいつらは自分たちが強いと振る舞っていたようだが、実際の強さはそこまでじゃない」
マスター・アッドが焦るように言うが、その声にはこちらを心配して言っているのが伝わってきた。
見た目は厳ついが、良い人のようだ。
「だから、ここで大人しくしておけ。『血塗れの毒蛇』も冒険者ギルドには迂闊に手を出してこない。言ってしまえば、こっちは世界規模だが、向こうは一都市規模だからな。総力ではこちらが上だ。だから安心しろ。決して手は出させない」
こちらを安心させるようにか、マスター・アッドはハッキリと言う。
しかし、俺は――いや、アイスラもだが、既に察知している。
冒険者ギルドの外から、敵意のある視線がいくつも向けられているのを。
正直に言って、察知できるからこその弊害というか……煩わしい。
ただ、その視線を向けている者たちに話を聞けば、「血塗れの毒蛇」とかいう裏ギルドの拠点がわかるだろうから、それで潰せば解決だ。
いや、それなりの規模なら拠点は複数あるだろうから……まあ、そうならそうで全部潰せばいいか。
ともかく、ここで守られる気はないと、ハッキリと告げる。
「気遣いには感謝するが、本当に無用だ。別に驕っている訳ではない。今後に邪魔になりそうで、それを潰せるから潰すだけだ。といっても、こうして話しても伝わらないというか、マスター・アッドが納得できないのもわかる。実際に起こらなければ信じられないだろう。だから、結果で判断してから動いて欲しい」
本当に大丈夫だから、と笑みを浮かべる。
それで伝わったのか――。
「………………はあ。まあ、冒険者は基本自己責任だからな」
諦めたかのように、マスター・アッドが大きく息を吐いた。
さて、今夜はまだまだ続きそうだ。
ジオ「また、眠れない夜か」
作者「だ、大丈夫だから! 今回は! きっと!」