成敗
男性四人組――改めてハルートに確認したが、やはり冒険者パーティ「鉄の蛇」だった――は、わからせてやると言っていたが、戦いというか、喧嘩を吹っかけてきていたようである。
ただ、冒険者ギルドの中で戦えば、冒険者として活動するにあたってさすがにマズい――くらいの考えはできたようで、アイスラから怒りが漏れ出たあとに「鉄の蛇」の方から模擬戦を提案してきた。
今直ぐ。場所は冒険者ギルドの裏にある訓練場で。
元々そういう場らしい。
俺とアイスラは提案を受けた。
ハルートも提案を受けて、勇気を振り絞ったかのように自分を鼓舞する。
「鉄の蛇」がついてこい、とニヤつきながら歩き出す。
そのあとをついていく。
「……ごめんなさい」
歩き出すと、ハルートがいきなり謝ってきた。
「どうした?」
「だって、俺の事情に巻き込んだような形だから……いや、今からでも遅くない。今の内にあなたたちは逃げて」
「いや、あんな程度問題ない。話してみて、あいつらの方が悪いことはわかった。だから、潰す。それだけだ。それに俺とアイスラも狙われているのだから、既にハルートだけの問題ではない。まあ、安心しろ。大丈夫だから」
ただ、ハルートには申し訳ない。
おそらく……いや、間違いなく戦う出番はない。
アイスラがやる気満々なのだ。
多分、中々の女発言がお気に召さなかったと思われる。
あの巨大な蜘蛛から逃げることしかできなかったのなら、正直に言ってアイスラの敵ではない。
なので、訓練場に着く前に、アイスラのやる気が殺る気であるかどうかを確認しておく。
「アイスラ。わかっているな?」
「はい。わからせれば良いのですよね?」
「いや、わかっていないな、これ。一応、訓練場も冒険者ギルド内だ。ルールに則って殺さないように」
「かしこまりませんでした」
「そうか、わかって……今、わかっていないって言った?」
「いえ、かしこまりました、と言いました。そうですね。あのような無能共はわざわざ手を下さなくとも魔物にやられて終わりでしょう。ジオさまがルールに則るのなら、私もそうします。ただ、一つ確認をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「確認? なんだ?」
「結果的に殺さなければ――死んでなければ良いのですよね?」
「ああ。どこまでやるかはアイスラに任せる」
酷薄な笑みを浮かべるアイスラ。
今のアイスラを前にして、俺が戦うとは言えなかった。
そうしている間に辿り着く。
ギルドの奥にある通路の先にある訓練場の出入口から外に出ると、周囲が少し高い壁に囲まれている、それなりに広い場所に出た。
ここが訓練場か。
既に陽は落ちているのだが、魔道具による照明が各所に設置されていて視界は良好なので、戦闘を行うことはできる。
実際、数人が武器を手にして訓練を行っていた――のだが、「鉄の蛇」の姿を確認すると、関わるのはごめんだと端の方へと移動していく。
「鉄の蛇」は自分たちが主役であるとでも言わんばかりに、訓練場の中央に進んでこちらを待つ。
俺、アイスラ、ハルートは対峙するように進むと、背後から人の気配を感じる。
振り返って見れば、訓練場の出入口に冒険者たちが集まって、こちらの様子を窺っていた。
関わる気はないが、見物はしたいのだろう。
物好きなことだ、と思っている間に「鉄の蛇」と対峙する。
「なあ、おい!」
「このままでいいよな?」
「今更訓練用の武具で、なんて生温いことは言わないよな?」
「ああ、もちろん。殺しはしねえよ。安心しな。だが、わからせて、反抗なんてしないように徹底的にやらせてもらうけどな」
何やら今更勝手に決めてきたが……まあ、いいか。
結果は何も変わらない。
アイスラも否はないようなので、了承を伝える。
すると、早速「鉄の蛇」は武装した。
一人は剣。一人は槍。一人は盾。一人は杖。
「さあ!」
「俺たちが!」
「お前たちを!」
「わからせてやるよ!」
そして、戦いが始まり――直ぐ終わった。
なんなら、俺は静観していたが、ハルートは駆け出して辿り着く前に終わったくらいだ。
起こったことを最初からなぞっていくと――。
アイスラが一瞬で距離を詰めると、まずは前に出ていた盾を持っている者に乱打を浴びせて、盾を穴だらけにするついでに、盾を持っている者もフルボッコ。
盾を持っている者の鎧も粉々に砕け散って、顔面は原形を留めていない。
次は槍を持っている者で、アイスラの行動にまったく反応できておらず、アイスラが槍を奪うとそのまま勢い良く振って腹部に痛恨の一撃、流れるように槍を振り上げて頭部に会心の一撃。
それで槍は折れて、移動するのに邪魔だとアイスラが蹴った。
その次は近くに居た杖を持っている者で、蹴り飛ばされた槍を持っていた者がぶつかり、その衝撃に耐え切れずに纏めて壁まで吹き飛んでいき、衝突。
槍を持っていた者がぶつかった際に杖を落としていたようで、アイスラがその杖を拾って投擲して、壁まで飛んでいった二人に更なる衝撃を与えると共に杖は爆散した。
最後は剣を持っている者で、最後だというのにまったく反応できておらず、アイスラに胸倉を掴まれて往復ビンタを受けて顔面がぱんぱんに膨れ上がり、ついでとばかりにアイスラがその顔面に膝蹴りを放つ。
剣を持っている者の体が浮き、そこにアイスラが回し蹴りを食らわせ、角度を変えて地面に陥没するだけの威力で叩き付けると、当たりどころがいいのか悪いのか、剣と鎧が砕け散った。
これがあっという間の出来事であり、「鉄の蛇」が全滅した瞬間でもある。
アイスラがこちらに振り返り、優雅に一礼した。
「申し訳ございません。ジオさま。この者たちが想定よりも虚弱であるため、これ以上攻撃してしまうと死亡させてしまいます。瀕死で終わりとなりますが、よろしいでしょうか?」
「それなら仕方ない」
瀕死が限界だろう。
さて、これからどうしたものか。
とりあえず、「鉄の蛇」の方は冒険者ギルドに任せていいのだろうか? と訓練場の出入り口を見れば、何やら騒がしい。
そっちでも何かあったのか? と見ていると、訓練場の出入口に集まっていた冒険者たちの中から――。
「一体この騒ぎはなんだ! 何をやっている!」
一際声の大きな、筋骨隆々な男性が出てきた。
作者「騒ぎの中心はそいつで(指差し)」
アイスラ「ふんっ!(差された指を曲げる)」
作者「ひぎゃあ! 指が! 指があ!」