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見立て

総合評価100Pいきました。

ありがとうございます。

楽しんで頂けるように頑張ります!

 陽が落ちる前にヘルーデンへと戻ってきた。

 どこにも寄らずに冒険者ギルドへ真っ直ぐ向かう。

 中に入ると、受付には長蛇の列ができていて、かなり込み合っていた。

 依頼の報告とか、そういう時間帯なのだろう。


「これは、少し待った方が良さそうですね」


 ハルートがそう言うので、待つことにした。

 列には並ばずに、待っている間にハルートに確認を取るために尋ねる。

 俺とアイスラは相手の顔を知らないからな。


「それで、『鉄の蛇(アイアンスネーク)』というのはここに居るのか?」


「え? あっ……えっと……」


 ハルートが列に並んでいる人たち、併設の酒場の方、もう一度列に並んでいる人たちと見ていき――。


「……居ない、ですね」


 居ないか……居ないのなら今はどうしようもないな。

 列が短くなるのを待ってから並び――そこそこ空いた時に受付へと辿り着く。

 報告するためにハルートが前に出て、受付嬢へと声をかける。


「あの、報告したいことがあるんですが」


「はい。なんでしょ……え? あなた、確かハルートさん、ですよね?」


「あっ、はい。そうですけど」


「生きていて――はっ! 不味いですよ、今ここに居ては」


「え? あの、それはどういう……」


 受付嬢が警戒を露わにした。

 ただ、それはハルートや俺たちに向けてではなく、他の何かを恐れて、という感じである。

 戸惑うハルートがどういうことかを聞く前に、受付よりも奥にある扉が開き、そこから男性四人組が出てきた。

 全員二十代くらいで、軽装や鎧姿であるため、冒険者であることがわかる。

 その男性四人組は全員ニヤついていて、態度と柄も見た感じ悪いので印象は悪い。

 なんというか、俺の中で覚える必要がない枠である。


 しかし、それは俺にとってはであって、ハルートにとっては違うようだ。


「あいつらっ!」


 怒りを露わにするハルート。

 その反応で男性四人組が誰かわかった。

 それは向こうもそうだったようで、こちらというかハルートに直ぐに気付き、男性四人組は揃って面倒そうな表情を浮かべる。


「おいおい、マジかよ」


「はあ? 生きてんのかよ、あいつ」


「さっき死亡したって報告したばっかりだってのに……面倒だな」


「二度手間とか勘弁して欲しいわ」


 溜息を吐きながら、男性四人組はハルートの下へ来ると、今度はハルートを見下すように見て圧力を発して――。


「おいおい、わかってんだろうな?」


「下手なことは言うなよ」


「お前は俺らを生かすために自ら現場に残ったって言うんだぞ」


「もし余計なことを言えば……言わなくてもわかるよな?」


 脅しをかけてきた。

 陳腐な圧だと思うが、ハルートには効果があったのか、少し怯えているように見える。

 まあ、ハルートの戦力はそこまで高くなさそうだし、人数差もあるから仕方ないかもしれない。

 ただ、それでもハルートの戦意は落ちていないようだ。


「ふ、ふざけるな! お前たちがやったことは許さないことだ! 何を言われようが、しっかりと報告するからな!」


「「「「あ゛?」」」」


 男性四人組が剣呑な雰囲気に変わり、ハルートが少し怯む。

 というか、今にも争いが起きそうだというのに誰も介入してこないのが不思議なので、周囲の様子を見てみると、こちらの様子を窺いつつも、積極的には関わろうとしない感じが漂っていた。

 それはこの場に居る冒険者たちだけではなく、冒険者ギルド職員たちも。


 ……この男性四人組には迂闊に関われない何かがあるのか?


「おいおいおいおい」


「まさか、俺たちを相手にそこまで言うとはな」


「ヘルーデンに来て間もないと言っていたし、最初にしっかりと教えてやるべきだったな」


「これからもヘルーデンで生きていたかったら、大人しく従うしかないってことをな」


「ど、どういう意味だ!」


 ハルートが戦闘態勢のように拳を握って構えるが、怯みは隠し切れていない。

 これは助けに入るべきだな、と思うのだが、その前に一つ気になることがあったのでアイスラにこそっと尋ねる。


「……アイスラ」


「はい。なんでしょうか?」


「代表で一人が言えばいいことを、どうして四人で分けて話すのかわかるか?」


「そうですね……きっとそうしなければならない理由があるのでしょう」


「理由?」


「はい。私の見立てですと、仲良しアピールかと。といっても、それは周囲に向けてではなく、自分たち――正確には自分以外の三人に向けてです」


「どういうこと?」


「まず前提として、大して強くないくせに強く振る舞っているのは異性へのアピールの一種で、そこから考えられるのは、四人の心中には自分が最初に彼女持ちになってみせるという思いが強くあるのです。そして、自分が最初になるために、他の三人への妨害工作を秘密裏に行っているのですが、それを表に出てしまえば他の三人からの明確な批判を受けるだけではなく、異性の評価も悪くなってしまいます。なので、それを隠すために――自分にそういう思いはないと、仲良くやっているように見せているのかと」


「……四人全員が?」


「はい。それもおそらく、共有した訳ではなく、個別に考えた結果、揃って同じ行動を取っていると思われます」


「そんな奇跡のようなことが?」


 本当に? と思うのだが、アイスラの見立てだ。

 間違っているとは思えない。

 しかし、そうだと決めてしまうのは早計だろう。

 他の可能性についてもアイスラは考えているだろうし、その辺りも聞いてみようと思った――。


「おい!」


「お前ら!」


「そこで何を!」


「こそこそと話している!」


 が、邪魔された。

 気付けば、男性四人組の視線がこちらに向けられている。

 こちらを見るのは別に構わないが、だからどうして分割して話すのか……聞く側のことも少しは考えて欲しい。

 四人の内の誰に向けて話せば……手前に居るのでいいか。


「こそこそしなくていいのなら直接聞くが、なんで全員が話すのかわからない。代表で一人が話せば済む話では?」


 尋ねると、周囲の至るところから押し殺したような笑いが漏れ出た。

 男性四人組が顔を真っ赤にする。


「は、はあ?」


「なんだ、こいつ!」


「見ない顔だな。やっちまうか?」


「そうだな。こいつと一緒にわからせてやるか」


「いや、大して強くないようだし、わからせるとか無理だから」


「「「「生意気な! わからせてやるよ!」」」」


 男性四人組が稚拙な殺意を向けてきた。

 とりあえず、ハルートでは勝てないだろうから、少し怯んでいるハルートを掴んで後ろに下げて俺が前に出る――とアイスラが尋ねてくる。


「ジオさま。その者を助ける、ということですか?」


「まあ、助けた者がこんな状況に陥って放置では寝覚めが悪いからな。それに、父上や兄上なら絶対に見過ごさないから、俺もそうありたい」


「なるほど。かしこまりました。ジオさまがそうありたいと望むのであれば、私はそのお手伝いを」


「ヒュ~! こいつの方は女連れか」


「しかも、中々の女じゃないか。これなら話は簡単になるな」


「その中々の女を寄こせば、お前の生意気な態度を許してやるよ」


「まっ、別に断ってもいいぜ。そうなったら俺たちがお前をボコったあとに、その中々の女を頂くだけだ」


 ……意味がわからない、と首を傾げる。

 なんでこいつらは自分たちが上というか、強いと思っているんだ?

 あの巨大な蜘蛛から逃げ出す程度なのに。

 不思議に思いつつ、アイスラを渡すことはないと口を開――こうとした時、そのアイスラが俺より前に出る。


「は? 先ほどから口にしていますが、私が中々の女? 別にあなたたちのような見る目のない節穴のクズに評価してもらおうとは微塵も思いませんが、それでも訂正させてもらいます。私は最上級の女ですよ」


 アイスラから、少しばかり怒りが漏れ出た。

作者「まあ……確かに(戦闘において)最上級かな」

アイスラ「……含みのある言い方ですね」

作者「いいえ、まったくございません」

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