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まずはお試し

 夜にはしっかりと休ませてもらい――初日は怒れるエリーさんの介入によってラックスさんが怒られたことで終わった――数日間、ラックスさんとエリーさんの家でアイスラと共に寝泊まりして鍛冶を行った。

 宿屋「綺羅星亭」からの通いでも良かったのだが、寝泊まりになったのは、少しでも鍛冶時間を確保したいというラックスさんの強い希望である。


 あと、数日間かかったのは……当然といえば当然というか、一からこだわって作るとなると、本当に大変だということが今回のことで良くわかった。

 白銀に輝く剣身があの時間で完成までいったのは、既にラックスさんが完成形を思い描いていたからだ。

 だから、何本か作るだけで終わった。

 そう。あれは早かったのだ。


 対して、俺が求めていた剣は感覚的にこれと思うモノ。

 うん。明確に答えはないというか、出来上がって持ってみないとわからないのである。

 なので、本当に色々と試さなければならなかった。

 それこそ、素材から吟味した。


 そうして出来上がったのは、ラックスさんがヘルーデンで一番の腕前を発揮したことで、見た目以上の切れ味を持つ、銀が少し混ざった鉄の剣。

 なんというか、これという感じがして、気兼ねなくぶんぶん振り回せるのがとても良いのだ。

 持ち手の柄も特別な装飾はないが、エリーさんが俺の手にしっかりと合わせてくれたので馴染む。


 もちろん、しっかりと代金は払った。

 鞘とベルトも用意してくれていて、腰から提げる。

 ……指輪も購入したし、直ぐ必要という訳ではないが、しっかりと稼げる金策を考えよう。


 ラックスさんとエリーさんに感謝を述べて、これで準備はでき――。


「防具は良いのか?」


 ラックスさんがそう尋ねてきた。

 ただ、その狙いはわかっている。

 俺とアイスラの身を案じた訳ではない。

 いや、多少はそういう意味もあるかもしれないが、一番の理由は俺のギフトありきの鍛冶をもっとしたいだけだ。


 要は味を占めたのである。

 ラックスさんが言うには、俺のギフトありきかどうかで出来が大きく変わるそうだ。

 まあ、見た目の輝きは確かに違っていた。

 だから、まだまだ打ちたいのだろう。


 しかし、俺もアイスラも、どっしりと構えるよりは身軽に動く方が得意である。

 なので、下手に防具を身に着けると、動きが阻害されてしまう可能性が高いので、俺は必要としていない。

 アイスラに確認しても必要ないと返されたので――。


「防具? 要らない」


 断った。

 もちろん、理由もしっかり伝えて、ラックスさんも納得――。


「わかったが、防具が必要になったらワシに言え! いや、防具だけではなく、鍛冶が必要になるモノはすべてワシに言え! 作ってやる! 日用品でも良いぞ! なんだったら、今持っているモノを更新するか? いや、更新しよう! ワシが存分に腕を振るってやるぞ! 良し! そうと決まれば早速――」


 していないな、これは。

 ただ、ラックスさんの隣で、エリーさんがニッコリと逆らってはいけない類の笑みを浮かべていたので大丈夫だと思う。

 ちなみに、エリーさんも宝飾がしやすくなると俺のギフトの虜になり始めているが、そこは自制が効いているのか無理強いはしてこない分、ラックスさんとの差を余計に感じる。


 ともかく、数日間お世話になりました、と告げて、またいつでもいらっしゃい、と返されてから、この場をあとにした。


     ―――


 宿屋「綺羅星亭」には戻らず、まだ陽も高いので再び「魔の領域」である森の中へと入り、鉄剣を振るう。

 ザックザックと切れていく。

 主に草が。

 進むのに邪魔だったので、これでかなり楽だ。

 試しに邪魔になる木の枝も切ってみるが、スパッといける。

 断面綺麗で申し分ない。


「十分に使えますね。ジオさまの手に良く馴染んでいます」


 アイスラからの評価も高い。

 本当に良い物を手に入れることができた。

 あとは――。


「魔物を相手にもどれだけ使えるか試しておきたいが……」


 そう口にしてアイスラの様子を窺う。

 アイスラは少し考える素振りを見せた。


「……そうですね。いざという時に使えないといけませんし、確認は必要です……が、わかっていると思いますが、くれぐれも軽く振る程度でお願いします」


「わかっている。この剣を軽く振るうだけだ」


 アイスラからの許可をもらったので、早速手頃な魔物が居ないかと探してみる……が。


「……居ないな」


「確かに魔物を一切見かけていませんね」


「おそらく、時間が悪かったな。お昼はとうに過ぎているし、冒険者たちが粗方入ったあとだ。それで森に入った辺りは一掃された、といったところか」


「なるほど。となると、このまま奥へ向かいますか?」


「まあ、そうなるというか、元々奥に向かう予定だし、陽が落ちるまでにはまだ時間はある。少し踏み込んでみよう」


 アイスラと共に森の奥へと向かう。


     ―――


 奥へと進めば、ちらほらと魔物の姿を見かけるようになった。

 ゴブリン、コボルト、ウルフ、オークといった、それなりに名の知れた魔物やそれらの強化派生に加えて、毒や麻痺といった状態異常攻撃持ちが大半で一部からは忌避される昆虫系の魔物も居ると、本当に多種多様だ。

 それで生態系が成立しているからこそ、ここは「魔の領域」と呼ばれているのだろう。

 といっても、まだ浅層と思われる範囲内なので、現れる魔物は基本的にそこまで強くない。


 鉄剣の試し切りには十分である。

 魔物の姿を見かけるようになったので、アイスラとの取り決め通り、鉄剣を軽く振るって相手をした。

 ゴブリン系とオーク系の魔物を相手に試し切りをしたが、問題なく切れる。

 刃こぼれも一切ない。

 十分に使える鉄剣であることを確認した。


 とりあえず、浅層に関してはこれで問題ないと思う。

 無理をする必要もなく進めそうだ。

 なので、明日はもう少し先へと進んで、浅層を越え中層へと入ろうと思う。

 もちろん、まずは様子見である。

 その考えをアイスラに話すと――。


「そうですね。浅層がこれくらいであれば、中層に入っても問題ないと思います」


 と同意したので、今日はこれでヘルーデンへと戻ることにした。


「……ぐふふ……奥へと進む……つまり移動距離が伸びる……となれば、いずれは外出先での宿泊となり……それを繰り返せばいずれ……それに奥に行けば行くだけ危険は大きくなり……共に乗り越えることで相手をより強く意識して……愛へと昇華……二人をより強く結び付けることに……」


 ヘルーデンに戻るまでの間、アイスラは何やら呟きながら考えているようだった。

 明日から中層に向かうのが決まったので、きっとその想定をしているのだろう。

 さすが、アイスラである。

 頼れる存在だ。


 ヘルーデンに戻れば、そのまま宿屋「綺羅星亭」へと向かい、そこでしっかりと休んだ。


     ―――


 翌日。早朝から「魔の領域」である森へと向かう。

 冒険ギルドには寄っていない。

 金策の一つとして依頼を受けるというのもあるが、ランクが低いので受けても一気に大きく稼げない――というのもあるが、そもそも今日の中層行きは様子見のつもりだからである。

 それと、早朝からなのは、中層まで行き、そこで下手に時間を食ってしまうと、そのままそこで一泊することになりかねないからだ。

 その対策。


 そうして、「魔の領域」である森の中へと入り、そろそろ中層と思われるところまで進むと――。


「う、うわあああああっ!」


 どこからか、鬼気迫る男性の声が聞こえてきた。

作者「う、わあああああ〜!」

アイスラ「何故私を見て悲鳴を上げるのですか?」

作者「本当に不思議そうな顔をしないで。何度もやられれば、悲鳴の一つくらいはあげるよね?」

アイスラ「つまり、悲鳴を上げられないくらいボコせばいいということですね」

作者「いいえ。それは違います」

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