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夢?

 ………………。

 ………………。

 目覚めそう、という意識が芽生える……ということは寝ていたようだ。

 というより、こうして考えている時点で既に目覚めているのだろう。

 ゆっくりと目を開ける。


 ………………。

 ………………。

 ここ最近見た宿屋の天井ではない。

 ただ、別の宿屋ということでもなさそうだ。

 どちらかと言えば、普通の家屋の天井である。


 あと、背中の感触からして、ベッドの上であることがわかった。

 ここはどこだろうか? と考えたところで思い返されるのは、この町一番と言われる鍛冶師のラックスさんと寝ずの鍛冶をしたこと。

 白銀に輝く剣身ができたところでラックスさんが倒れるように寝て、俺もそれに続いて……ということは、ここはラックスさんとその奥さんであるエリーさんが居住しているところの一室である可能性が高い、か。


 そこで、漸くしっかりと目覚めてきたのだろう。

 意識だけではなく体も目覚め、それに合わせて周囲の状況を感覚的に把握していく。

 人の気配があった。

 おそらくアイスラだろうと、気配がする方に顔だけ向けると――。


「……ふ、ふふ……ふふふ……お~ほっほっほっ! おぉ~ほっほっほっ!」


 なんというか、わかりやすく、これぞ貴族夫人のような高笑いを上げるアイスラが居た。

 一体何が? とよく見ると、アイスラのすべての指に眩く輝く指輪が嵌められている。

 俺が買って贈った指輪もその中にあった。

 いや、それだけではなく、首元には細かい装飾が施された高級ネックレスがいくつかかけられ、宝石が付けられたイヤリングも身に着けている。


 俺は頭の位置を戻して、そっと目を閉じた。

 きっとこれは夢だ。そうに違いない。


     ―――


 ………………。

 ………………。

 意識が目覚める。

 それなりに眠っていたような感覚があった。

 直ぐに体の感覚は戻り、周囲にある気配を拾う。

 目を開けて、気配がする方を見れば――。


「おほほほほほっ! おほほほほほっ!」


 夢がまだ続いている。

 いや、少し変わっていた。

 アイスラが身に付けている宝飾品の数が増え、品質も上がって豪華になっている。

 ………………そっと目を閉じた。


     ―――


 ………………。

 ………………。

 目覚めたのだが……何かおかしい。

 こう、二度寝ならまだしも三度寝して逆に疲れているというか……記憶にある起きた二回は夢で、今が一回目のはずではないのか?

 確認するために、目を開けて周囲を窺う。


「お目覚めになられましたか!」


 ホッとしたような表情を浮かべたアイスラがこちらに駆け寄ってくる。

 その姿はいつも通り。宝飾品の類は身に着けていない。

 やはり、あれは夢だったようだ。


「ああ、起きた。まあ、変な夢を見たせいか、少し疲れが残っているような感覚があるけれど」


「変な夢、ですか? それはどのような?」


「話してもいいけれど、その前に確認。ここはラックスさんとエリーさんの家の一室で合っている?」


 アイスラが頷く。


「はい。ジオさまとラックスさまが鍛冶場で眠っているのを発見したあと、エリーさまがここを使って構わないと、住居の一室に運びました。それがここです」


「なるほど。だからかな。見た夢は、エリーさんの宝飾店に飾られていると思う宝飾品の数々をアイスラが身に着けていた、というモノだ。多分、エリーさんから身に着けてみる? とでも提案されたとかだと思う。それで数々の宝飾品を身に着けたアイスラが興奮の余りか、あるいはわかりやすい貴族夫人という姿に、ここは高らかに笑うべきだろうと高笑いをしている夢を見た………………どうした? アイスラ。なんか顔色が悪いような?」


「い、いえ、お気になさらず」


「そうはいっても、本当に具合が悪そうに……はっ! まさか、俺が起きるまで寝ずにいたのか? なら、俺はもう大丈夫だからアイスラは休んでくれ」


「いえ、そういう……そうです! はい! 正にその通りです! それ以外の理由は存在しません! ええ、しませんとも! なので、ジオさまのお言葉に甘えて少々休ませて頂きます!」


 少し無理をさせたようで申し訳ない。

 少々と言わず、しっかりと休んで欲しい……あっ!


「ここを使うよな? 退いた方がいいか」


 ベッドから即座に出る。


「いえ、別の部屋が――ジオさまのほかほか使用済みベッド――では、お言葉に甘えて!」


 アイスラがするりと潜り込むようにベッドに入り、直ぐ寝た。

 ベッドに入る前に何やら呟いていたが……それだけ疲れていたということだろう。

 このまま女性の寝顔を見続けるのは失礼であるし、音を立てないように部屋からそっと出た。


     ―――


 体が空腹を訴えてくる。

 この感じだと……丸一日は何も食べていないような……。

 アイスラに確認しておけば良かった。

 まあ、ここはラックスさんとエリーさんの家のようなので、何か食事を貰えないか聞いてみよう。


 ……なんとなく人の気配がする方へ向かうと、リビングと思われる場所に着く。

 ソファーに身を預け、飲み物――おそらく匂いから酒を飲んでいると思われるラックスさんが居た。


「おう。漸く起きたか。徹夜したくらいで丸一日寝るとはな。ドワーフと違って人の体は軟弱であったことを忘れていたわ。エリーにも怒られた。無理をさせてすまなかったな」


 ラックスさんが頭を下げた。

 悪いことをしたとは思っていなさそうだがエリーさんに怒られるのは嫌という方が強い気持ちのような気がする。

 あと、丸一日寝ていたことがわかった。

 苦笑を浮かべつつ対面のソファーに腰を下ろすろ、ラックスさんが喜々として話しかけてくる。


 内容はまあ、あの白銀に輝く剣身がどれだけ素晴らしいモノであるか、だった。

 その素晴らしさは自身(ラックスさん)の腕前もそうだが、何より俺のギフトがあればこそ、と言われて少し嬉しくなる。

 大したことないとか、出来損ないとか色々言われたが、やはりそんなことはないのだ。


 それと、あの白銀に輝く剣身は店に飾るのかと思ったが、そうではなかった。

 俺が手伝ったから少し教えてくれたが、ある方からの直接依頼だそうだ。

 断れるようなモノではなかったため、今はできて安堵している、と。


 ある方――と濁していたが、ヘルーデンで一番の鍛冶師に直接依頼できて、さらに断れないとなると、まあ辺境伯だろう。

 今後大きな戦いが起こると俺は考えているが、辺境伯も同じで、そこに向けて戦力増強を計っているのかもしれない。


 あと、エリーさんがこの場に居ないのは、白銀に輝く剣身を剣として使えるように、柄を用意してそれに装飾している最中らしい。

 夫婦で役割分担しているそうだ。


 そこでお腹が鳴る。

 ラックスさんは無理だろうし、エリーさんは仕事中。

 外に出て屋台でも探そうかな――と腰を上げようとすると、ラックスさんが声をかけてくる。


「そういえば、お主は武具の類は持っていないと言っていたな。なら、ここにはワシの作った武具を目的に来たのか?」


「まあ、そうだけど、期待はしていないかな」


「何故だ! ヘルーデンでワシ以上の鍛冶師は居らんぞ!」


「いや、別に優れた武具を探している訳ではないからだけど」


「……どういうことだ?」


 教えるまでどこにも行かせんぞ! みたいな雰囲気のラックスさんに、武具を求めている理由を話す。

「魔の領域」である森に行くのにあたって、何も持っていないと注目を集める。

 それが煩わしいために持つ。

 ハッキリ言えば見せかけだが、だからといって使えないのもどうなので、ある程度は使えるモノを探している内にここまで来た、と。


「なんでもいい訳ではなく、なんというかしっくりくるモノを探していて、かなりの数の店を回ったが見つからなかったから、他のところに行っても期待しなくなったというだけだ」


「なるほどな……なら、良い方法があるぞ」


 嫌な予感がした。

 けれど、ここまで手に入らなかったのだから……仕方ない。


「それは、どんな方法だ?」


「そんなのは決まってる! なければ作ればいいのだ!」


 ニヤリ、とラックスさんが笑みを浮かべた。

 確かに、それも一つの手だと思う。

 しかし、前回のことを考えると容易に了承できない。

 なので、まずはここに置いてある武具の類を見せてもらうことに――の前に空腹が限界だったので食事を取ることにした。

 ラックスさんにそう言うと、綺麗に焼き目を付けた肉汁滴る脂っこい肉の塊が用意される。

 うん。無理。

 男料理とでも言いそうな豪快なモノを、今の胃は受け付けない。


 なので、外に出て近くの屋台にあった、お腹に優しそうなスープとサラダを挟んだパンを食べてから戻り、宝飾店の方に置いてある掘り出し物的な武具、鍛冶場に置いてある売り物にならない武具まで見させてもらう。

 ……特にこれといったモノはなかった。


「……やはり、作るしかないようだな!」


 ラックスさんが意気揚々と言う――が、弾んでいるのは声だけで、姿勢は両手両ひざをついて落ち込んでいた。

 何故そんなことに? と思ったが、どうやらまた鍛冶ができるのは嬉しいが、置いてあるのがどれも気に入られなかったということに落ち込んだ、という感じらしい。

 まあ、店に置くということはラックスさんにとっては完成品、それなりに自信作な訳だし、それを駄目と言われるのは思うところがあるだろう。


「まっ! 仕方ない! それはお主のギフトを知る前のモノ! お主のギフトありきで作るモノと完成度を比べれば、その差は歴然だ! がっはっはっはっ!」


 ラックスさんは直ぐ立ち直った。

 そのまま俺を連れて鍛冶場へ――行く前にエリーさんに一声かけて、ラックスさんがまた無茶というか、完徹しそうになったら止めて欲しいとお願いしておく。

 エリーさんは白銀に輝く剣の完成に忙しそうだったが了承してくれたので、これで安心できる。

アイスラ「……足りない。もっと金銀財宝を身に着けて……頭上から金貨の雨を降らせて……」

作者「なんという強欲……いや、待って。頭上から金貨って危なくない? ちゃんと守らないと怪我では済まないから」

アイスラ「あっ、そうですね。では、頭上から金貨の雨はやめて……」

作者「受け入れるのかよ。意外と冷静だった」


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