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「ルルム王国大戦」 29 戦いの終わり

 ジェドが退いていった。

 こちらの勝ちと言われたが……なんか納得できない。

 それは兄上とアイスラも同じで、納得できていない表情を浮かべている。

 ……ただ、これは個人的な感情だ。

 ルルム・ウルト同盟軍として考えれば、ジェドという厄介な……非常に強くて厄介な相手が居なくなったことを意味している。

 間違いなく、ルルム・サーレンド連合軍が弱体化するのは避けられない。

 ……本当に退いたんだよな?

 そう見せかけて、とかは勘弁して欲しい。

 待てよ。この場から居なくなっただけで、ベリグ王の下まで退いた可能性は十分にある。

 勝ったと喜び、気を抜いて油断するのは、まだ早い。


 ともかく、これで漸く前に進むことができる。

 進んだ時と同じように、俺、兄上、アイスラで道を切り開いていき、フレミアムさまをベリグ王の下まで連れていく。


     ―――


 先ほどまでのルルム・サーレンド連合軍は数が多いだけではなく、個々の戦力というか、集団の中に紛れるように時折強い者が居て、手間取る時には手間取っていた。

 しかし、今は違う。

 先ほどまでの強さはどこにいったのだ? と思ってしまうくらいに歯応えがなかった。

 サクサクと前に進んでいくことができる。


 だから、ルルム・サーレンド連合軍を突っ切った先――敵の本陣と思われる天幕群の中に大天幕を見つけると、そのまま突っ込んでいく。

 お祖父ちゃんたち、フレミアムさまと護衛たちも続き、さらに付いて来ていた後続も加わって、敵の本陣はあっという間に制圧した。

 これで、この戦いの勝敗は決した、と言っても過言ではない。

 中央には直ぐにこのことが伝わったが、左右の戦いにはまだ伝わっていないので戦闘が続いている。

 これ以上の戦いは無意味である、と未だ戦っている場所に向けて、騎士たちが喧伝しに散っていった。

 残った者――実際は後続が次々と合流してきているので人の数は増えている――で、ルルム・サーレンド連合軍の者を捕らえていく。


 その際、なんとも呆れたのだが、この場に居たのはルルム・サーレンド連合軍に参加していたルルム王国の貴族たちで、その一部は直前まで俺たちの接近に気付かずに酒盛りをしていたのである。

 なんというか……情けない。

 聞けば、現実逃避ではなく、あの爆発する玉の存在で勝手に勝利を確信して、そのまま酒盛りに走ったそうだ。

 本当に情けない。

 もちろん、全員逃さず捕えたので、このあと厳しい沙汰が下されるだろう。

 まあ、そもそもこちらからすれば簒奪側に加わっていた訳だし、厳しい沙汰は当然なので、より厳しいものになった、といったところか。


 ただ、この敵の本陣の中に、ジェドの姿どころか、サーレンド大国の者は居なかったのだ。

 捕らえた者たちに、サーレンド大国の者がどこに行ったのか尋ねると、まったく把握していなかった。

 寧ろ、誰も居ないのか? と尋ねられるくらいである。

 敗色濃厚となって見限り、逃走したのだろうか?

 ジェドとの戦いの中で時間稼ぎをしているのでは、と思ったのは、サーレンド大国の者が本陣から逃げ出す時間を作っていたから、なのだろうか?

 そんな気がする。

 フレミアムさまの指示で、追撃部隊が出された。

 ルルム王国内に潜伏する可能性もあるし、サーレンド大国まで逃走したとしても、しっかりと行方を確認しておく必要があるからだ。


 そして、捕えた者の中にはベリグ王が居た。

 フレミアムさまとコンフォードさま――ウェルナさまも居るには居るが、声をかける気はないようだ――が、直接顔を合わせる。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、周囲の警戒に出たようだ。


「叔父上。簒奪など行うとは……本当に残念です」


「ベリグよ。そうまでして、お前は王位を手にしたかったのか?」


 ベリグ王は自嘲するように笑みを浮かべる。


「……どう、だろうな。ただ、血を分けた兄弟でありながら、兄と比べて私には世に誇ることが何もない。だから、自分にもできるのだ。兄と同じく、何か大きなことができると思った。名を轟かせたかった。残したかった。同じ血が流れている、と証明したかったのかもな……まあ、敗者の言葉は塗り潰され、埋もれて、消されるのが道理。だから、戯言だ。……それで、他に聞きたいことはあるか?」


 そこまで聞いて、大天幕を出た。

 パワード家からすれば敵でしかないので、聞く必要はない。

 ただ、フレミアムさまとコンフォードさまからすれば、ただ敵という訳ではないので、大天幕にウェルナさまと護衛たちと共に残って、色々と話している。


 流れる空気を変えるように、兄上が口を開く。


「……さて、フレミアムさまたちも会いたいだろうし、まずはライを迎えに行くか。まあ、もう向かっているかもしれないが……ジオも来るか?」


「……そうする。ここはもう大丈夫だろうし。でも、その前に兄上はお祖父ちゃんとお祖母ちゃんにきちんと会った方がいいと思う」


「ああ、それもそうだな。戦闘中だったから後回しでいいと思っていた」


「あと、父上と母上にも」


「そうだな。無事な姿を見せないと……アイスラ。私はジオと共に祖父と祖母に会いに行くから、父と母を迎えに行ってくれないか?」


「いえ、それでしたら、ジオさまと私が迎えに行きますので、リアンさまはどうぞお一人でお会いに行くのがいいかと」


 あれ? なんか不穏な空気が流れだしたような……。


「アイスラ。先ほどジオの抱っこを交代しなかったのだから、これからは兄弟水入らずの時間だと思うが?」


「リアンさま。過去も今も未来も、ジオさまの側に居るのは私ですので、どうぞお一人で」


「あ゛?」


「ん゛?」


 ジェドと戦っていた時は協力的な空気だったのに、どうして今は敵対的な空気が流れるのだろうか?

 やはり、俺が間に立たないといけないようだ。

 三人でお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会いに行き、ライボルトさまを探して、父上と母上を迎えに行く――という話で落ち着く。


 そうしている間に、中央だけではなく左右でも戦闘は終わり――終戦となった。

 エルフとシシャン国の援軍を得て、ルルム・ウルト同盟軍がルルム・サーレンド連合軍を打ち倒し、勝利した。

 のちに「ルルム王国大戦」と呼ばれる戦いの終わりである。

作者「お疲れさまでした」

ベリグ「……は? いやいや、え? 出るよ。我、まだまだ出るつもりで」

作者「あっ! こら! しがみつくな! ちょっ! 誰か! こいつ連れてって~!」

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