「ルルム王国大戦」 28
ジェドに対して、俺のギフト「ホット&クール」が通じなかった。
ズバズバと的確な考察によってほぼ見抜かれてしまう。
……まあ、だからといって避けられるものではないと思うが、それだけジェドが強いということだろう。
さすが、父上が負けを覚悟する相手、である。
俺が直接聞いた訳ではなく、兄上が父上からそう聞いたのだが。
でも、それも納得の強さだ。
ギフトによる攻撃が通じないとわかってから、俺は剣を持って兄上とアイスラと共に斬りかかっているのだが……一度もまともに入っていない。
それも、俺だけではなく、兄上とアイスラも。
すべて防がれるか、受け流される。
それに、三対一な状況な上に、こちらには兄上とアイスラが居るにも関わらず、ジェドを押し込むことができていない。
少しも下げることができず、前へと進むことができずにいた。
……まあ、これに関しては、ジェドの方からここより先には行かせない、という強い意思を感じるので、それも大きく関係していると思う。
だからといって、もう勝てないと諦めはしない。
攻撃の手は止めない。
俺も。兄上も。アイスラも。
わかっているのだ。
後手に回ってはいけない、と。
ただ、それでもジェドにはこちらに話しかける余裕があるようだ。
「揃いも揃って力の差がわからない愚鈍ではあるまい。もう諦めたらどうだ?」
降参を促してくる。
だが、こちらの答えは決まっているのだ。
「寝言は寝て言え!」
「いつまでも有利なままで居られるとでも?」
「私たちの力を見誤っているようですね」
もちろん、誰も降参はしない。
それでこそ、と言いたげにジェドは笑みを浮かべる。
絶対にそお笑みを崩してやる、と攻め続けた。
こちらの連携だって、別に悪くない。
そもそも、模擬戦ではあるが、どちらとも組んで父上と戦ったことがある。
だから、呼吸を合わせるくらいはでき………………ん? あれ? 俺はどちらともあるけれど、兄上とアイスラが組んだことってあっただろうか?
なかったような………………いや、今は考えない。
大丈夫だ。兄上もアイスラも、きちんと呼吸を合わせている……ように見える。
ただ、それは俺が間に入っているから、のようにも感じられる訳で………………いや、そんなことはない……はずだ。
自信はない。
でも、兄上とアイスラの相性が悪いとは思えないし……でも、一応、俺が間に入るように動こう。
そうした方がいい気がする。
そうして、こちらが攻め続けて、ジェドが守り続ける、といった形が続くのだが……これは、どうなのだろう? ジェドは本当に防戦で手一杯なのだろうか?
もちろん、こちらからすれば、攻撃させる隙を与えないように立ち回っているつもりであるが、父上と同格であるのなら、それでも攻撃を繰り出せると思う。
少なくとも、父上ならそうしてくる。
なら、どうして攻撃してこないのか?
……おそらく、先に疲労を感じるのは、激しく動き続けているこちらだ。
疲労するのを狙っている?
でも、こちらが披露を感じるのはまだ先だ。
時間がかかり過ぎる。
……時間? ……まさか、時間稼ぎをされているのか?
そう思った瞬間、体が硬直してしまったのか、ジェドから大槍を突かれる。
思考に意識を向け過ぎたかもしれない。
「ジオ!」
「ジオさま!」
兄上とアイスラが大槍を斬り上げて軌道を逸らす。
それで助かった。
「兄上。アイスラ。助かった。ありがとう」
「「いやぁ~」」
嬉しそうにするのはいいのだが、それで攻めるのを止めないで欲しい。
ジェドも、微笑ましく見ているんじゃなくて、攻めてこいよ!
再び、戦闘を開始する――が、やはりジェドは攻めずに守る一方だった。
先ほど思った通り、時間を稼がれている気がする。
一度、後方を確認するが――周囲から攻めてきている者たちの対応で、お祖父ちゃんたちとフレミアムさまの護衛の人たちはこちらに来られないようだ。
やはり、俺、兄上、アイスラでどうにかするしかないが……このまま手応えもなく無為に時間が経つのは駄目だと思うので、どこかで勝負に出ないといけない。
きっと、それは、そう思った今だ。
事前に打ち合わせはしていないが、言わなくても察してくれると信じて、兄上とアイスラが攻めている間にジェドの死角へと回って斬りかかる――が、ジェドは上体を逸らすように回して大槍で受け止める。
それは想定内。
俺はその大槍を足場にすることでジェドを飛び越えて、盾を持つジェドの腕に斬りかかった――が、避けられる。
これも想定内。
その場で跳びかかって盾を持つジェドの腕を掴み――ここで仕掛けた。
ジェドに向けて何かを放つように視線を動かすと、ジェドは上体を開くように回避行動を取る。
――引っかかった。
実際には何も放っていない。ギフトによる空間はもう解除しているのだ。
しかし、それは俺だからわかることであって、他の人からすれば見えない以上、そこに何もないなんてわからない。
ジェドは確かに見切ったが、それは俺の視線の動きで判断しているのなら、俺が何かがあると視線を動かせば、ジェドは反応すると思ったのだ。それが的中した訳である。
これで、父上が相手なら多分反応しない。
父上はなんというか、こう……直感で避けるから。
ともかく、ジェドは片腕を俺に押さえられ、姿勢も悪くなった。
明確ではあるが、ジェド相手なら瞬きのような一瞬の隙である。
兄上とアイスラは、言わなくてもわかってくれていた。
「ジオなら何かやると信じていた!」
「さすが、ジオさまです!」
交差する剣閃が走る。
ジェドの鎧を裂いて倒さないまでも致命傷は与えた――かと思ったが違った。
鎧の前には大槍があって、それが交差する剣閃を防いだようである。
「……業物だったのだがな。だが、おそらく視線誘導であったことも含めて、見事だ」
ジェドがそう口にすると、手元を残して大槍の大部分が裂けて落ちる。
鎧にも交差した剣筋の裂け跡ができていたが、生身の方には届いていない。
これでも届かなかったのか。
いや、大槍がなくなったも同然なのだ。
ここから――。
「ふんっ!」
ジェドが盾を持つ腕を大きく振るう。
その勢いで俺は振り落とされるが、兄上とアイスラが受け止めてくれたので無事である。
直ぐに体勢を立て直すが、ジェドは後方へと下がっていて、俺たちから距離を取っていた。
「本来であれば、きちんと決着を着けたいところではあるが、私にもやるべきこと……任されていることがあるので、そちらを優先させていただく。申し訳ないが、この場は一旦預けて――いや、私は槍を失ったのだから、勝敗をつけるなら私の負け。そちらの勝ちだ。いつか、この続きができればいいが……それは高望みし過ぎか。それと、オールの気配を感じられるが……抜け出してきたようだから、連行するのは面倒だから二度と捕まるよ、馬鹿者が、とでも伝えておいてくれ。ではな」
それだけ言い残して、ジェドはこの場から去っていった。
……あれ? これは、撃退した、ということでいいのだろうか?
作者「お疲れさまでした」
ジェド「……え? いや、え? も、もしかして出番が……」
作者「お疲れさまでした」