「ルルム王国大戦」 26
ルルム・サーレンド連合軍の中を、もう少しで抜けそうというところで、行く手を遮られた。
遮ったのは、サーレンド大国の騎士団長である――ジェド。
この戦いの中で、一度、遠目から見ただけだったが、近付いたことでわかることがあった。
……マジでヤバい。
感覚を信じるのであれば、父上と同格なのは間違いない。
「……ジオ。気を付けろよ。父さまのナイマンに対する評価が『自分が居なければルルム王国最強』であるのに対して、ジェドの評価は『もし自分が負けたのなら、その相手はジェドだろう』というものだ。つまり、父さまはジェドが相手なら負ける可能性を考える――それだけ強いということだ」
兄上がそう教えてくれたので、頷きを返す。
納得である。
それは肌で感じていた。
ジェドは……悠然と構えているが、いつでも反応できると思う。
気を抜いている、という様子は一切なかった。
ジェドは兄上を見て――何故か次に俺を見て、口を開く。
「さて、リアンは知っているが、そのリアンが親し気に話す、リアンと似た者……確か、オールにはリアンの他にもう一人、子が居ると聞いていたが」
俺が父上の子だと、察しているようだ。
何か言う前に、兄上が口を開く。
「ジェド……ジオと私が似ているという部分について、詳しく。具体的にどこがどう似ているか、何故そう思ったのか、しっかりと口にして欲しい」
「………………それは、今必要なことか? 重要なのか?」
「今必要で、非常に重要なことだ」
兄上が力強く頷く。
いや、兄上、今はそれどころではないと思うのだが。
「………………はあ。なんともはや」
ジェドが大きくため息を吐く。
あれ? 何故にため息を? 意味がわからない。あと、何故か困惑しているように見えるのは何故なのだろうか? 尋ねられて困惑するようなことがある? ……まさか、似ていると言ったのは口から出まかせで、実際は似ていないとか? だから、似ているところを今探そうとしているとか?
ただ、さすがはジェドというか、感じたままというか、普通であれば、これで気を引けたとして不意を突くなり、避けていくなりできそうなものだが、不思議とできそうな気がしない。
なんというか、こう……こういう状況に慣れている? という雰囲気がある。
「父親であるオールとそっくりだな、リアン。オールも、貴殿が初めて戦場に来た際に、私に対して似たようなことを尋ねてきた。息子が来た。見て来い。それで、どこか似ているか言え、とな」
なんとも言えない表情を浮かべる。
兄上も似たような表情を浮かべていた。
父上ならそういうことをしそうだから否定できない。
「オールさまらしいですね。リアンさまも、さすがは親子です」
アイスラ。今、追い打ちは止めて欲しい。
「それで、今のところ推定だが、貴殿は言わないのか? どこが似ているのだ? と」
ジェドが俺に尋ねてきた。
……え? 特には……と首を傾げる。
「なるほど。貴殿は性格までは父と兄に似なかったのだな」
何故か、ジェドは良かった、とホッと安堵している。
……安堵する要素あっただろうか?
「ジェド! それはどういう言動だ!」
兄上が怒りを露わにする。
剣を構え、殺意すら感じられた。
対するジェドは、兄上からの殺意を受けても、なんでもないように大槍と盾を構える。
「見たままの意味だ。ところで、まだ紹介を受けていないが? それと、そちらのメイドも只者ではないのだろう? 佇まいでわかる」
視線を向けられたので、俺は剣を構える。
アイスラも鋭利な風纏いの剣を構えた。
「オールとカルーナの子。リアンの弟。ジオ・パワードだ」
「パワード家に仕えるメイドで、アイスラと申します」
「オールの子と仕えるメイドとは思えないくらいに丁寧だな。サーレンド大国、騎士団長、ジェドだ。さて、後ろに居る御仁も含めて、今しばらく、ここで足を止めてもらおうか」
ジェドが立ち塞がった。
フレミアムさまが居ることも気付いている。
それに、ルルム・サーレンド連合軍の者が一気に押し寄せてきて、お祖父ちゃんたちやフレミアムさまを守る護衛たちは、そちらの対処で精一杯のようだ。
どうやら、ジェドに対することができるのは、俺、兄上、アイスラだけ。
兄上、アイスラと目を合わせ、飛び出す。
俺は左から、兄上は正面から、アイスラは右から同時に攻める。
見ただけでわかる強者なのだ。
最初から全力に近い力を出して、速度を上げて一気に距離を詰め、剣を振るう。
三方向からの同時攻撃のすべてを防ぐことはできない――と思っていたのだが、甘かった。
ジェドは、まず俺の剣を大槍で弾くようにして軌道を逸らせる。
逸らした先にあったのは兄上の剣で、それとぶつかり、兄上の剣は軌道を逸らされて空振った。
アイスラの鋭利な風纏いの剣については、盾で受け流す。
多分、鋭利な風纏いの剣の鋭さを考慮しての対応だろう。
それとも、俺の腕前が一番未熟だからだろうか? ……それが一番可能性として高いと思う。
少し悔しい。
それを噛み締める間もなく、ジェドは大槍を横薙ぎに振るう。
横から、大槍が迫ってくる。
距離の問題で当たったとしても大槍の穂先ではなく柄の部分なのは幸いだろうか。
振るわれる速度は速く、避けられない。
脇に受け――そのまま押されて兄上、アイスラも巻き込んで、最後は振り払うように飛ばされる。
地面を転ぶような飛ばされ方ではないので、なんでもないように着地。
脇が痛い。
兄上とアイスラも普通に着地していた。
「ジオ、本気だ。本気でいくんだ」
それだけ言って、兄上がジェドに向かっていく。
アイスラも続いていった。
兄上の言葉の意味は――ギフト「ホット&クール」を使え、ということで間違いない。
確かに、光明にはなるか。
なので、戦いは兄上とアイスラに任せて、俺は準備に入った。
こんな密集地で使うのは気を遣うが、できなくはない。
視界の中に槍型の超熱空間を作り出して――準備ができると同時に、兄上とアイスラに目配せで合図を送る。
二人がタイミングを合わせてジェドから離れた時を狙って――槍型の超熱空間を放つ。
当たる――と思った瞬間。
「――ふっ!」
ジェドは槍型の超熱空間を避けた。
オール「どちらもパパにそっくりということだな!」
イクシー「いいや、それを言うなら、お前がワシに似ているのだから、リアンとジオはワシに似ている、ということになる!」
オール「あ゛?」
イクシー「お゛?」
作者「すみません。ここで暴れるのはちょっと……表でお願いします」