「ルルム王国大戦」 23
父上が現れたかと思えば、ナイマンと戦い始めた。
様子を見たいところではあるが、未だ空からの攻撃は続いているので、視線を向ける訳にはいかない――かと思ったが、そうでもなさそうだ。
というのも、まずは、爆発する玉が飛んでこなくなった。
玉が尽きたのか、それとも、アイスラからの戦況を聞く限り、兄上がかなりの速度で後衛を蹂躙していっているので、それでナイマンが持っていた大筒がやられて放てなくなったか……まあ、どちらにしても爆発する玉は飛んでこない。
矢や魔法はまだ放たれているが、それも局所的になっていて、ハルートたちだけでも十分に対処ができるくらいになっていた。
ワイバーンライダーも居なくなったので、それくらいは余裕のようだ。
だからだろうか。
ぐるちゃんの背に乗ったハルートが近くまで来て、空を示し、自分を指差してきた。
深く考えずに直訳すると、空からの攻撃は任せてくれ、だろう。
なるほど。任せることにした。
「アイスラ。もう大丈夫そうだから下ろしてくれ」
「は? ………………かしこまりました」
なんか葛藤したような間があったが、何に葛藤したのかわからないので、多分父上とナイマンの戦いを集中して見ていたために反応が少し遅れただけだろう。
ギフト「ホット&クール」による超熱空間と極冷空間を解除してから、アイスラに下ろしてもらった。
少しの間だけだったが、体をぐっと伸ばしておく。
それから自分の目で戦場を見る。
戦況はアイスラから聞いていた通り、ルルム・ウルト同盟軍がシシャン国からの援軍を得て、かなり優勢になっていた。
勢いが付いている。
正直なところ、ここから俺とアイスラが戦線に加わったとして、どれだけのことができるのだろうか?
まあ、多少の戦果は挙げられると思う。
でも、もう戦局はこちらに傾いたままで終わるような気がする。
というのも、ルルム・サーレンド連合軍の方は、既に投降していると思われる人が多く見られるからだ。
逃げ出している人も居るように見えるので、ここからルルム・サーレンド連合軍が戦局を変えるのは、もう無理だと思う。
いや、逆転の方法はあった。
全体で状況が悪いのなら、単騎で敵陣を突破できる者が敵の本陣を狙い、総大将を倒せば戦局は逆転するかもしれない。
本人にそのつもりがあったかどうかはわからないが、ナイマンがそれを行おうとした――が、父上に止められたというか、ナイマンにとっては父上を倒すことの方が大事なようだ。
父上とナイマンの戦いへと視線を向ける。
「オオオオオッ!」
ナイマンが父上に向けて大剣を振るう。
膂力に任せただけのようだが、それだけで力強く、鋭い。
並の者では反応すらできないだろう。
だが、振るった先に居るのは父上である。
父上はなんでもないようにかわし、ナイマンはそのまま膂力で大剣の軌道を強引に変えて追撃を振るうが、それも父上は反応してかわす。
ナイマンの連続斬りをかわしつつ、父上が反撃の拳を放つ
これもまた、並の者では反応できないほどの速度があった――が、ナイマンはしっかりと反応して大盾で防いだ。
金属を叩く鈍い音が周囲に響く。
父上は、ナイマンに向けて笑みを浮かべる。
「ほう。中々の大盾というのもあるが、私の拳の衝撃を上手く逃したのは、間違いなくお前の技術だ。そういえば、お前とこうして戦うのは何時振りだろうか? ここまで腕を上げていたとはな」
父上が感心したように言う。
だが、言われてみれば、そうだ。
父上の拳を受けて、ナイマンが持つ大盾は少しも凹んでいないように見える。
いつもならそれだけで盾は使い物にならないくらいに凹み、衝撃でそのまま相手が吹き飛んでいくというのに……ナイマンは、本当に父上と対等に戦えるようだ。
「オール。そうやって上から物を言えるのは今日で終わりだ! 今日! 今! ここで! 私はお前を倒す!」
「そうか。だが、できもしないことは口にしない方がいいぞ、ナイマン。滑稽に見えることもあるからな」
「できると思っているからこそ、お前を超えて、私が最強となるのだ! オール!」
再び、互いに相手を倒そうという意思が乗った攻防の応酬が始まる。
ルルム王国一? いいや、世界一を決める戦いではないだろうか? ……世界一は言い過ぎかもしれない。父鵜が世界で一番強いと思っているが、それは慢心だ。想像はできないけれど、父上より強い人は居るかもしれない。少なくとも、父上なら自分よりも強いのが居る、と言うと思う。
そうして、父上とナイマンの戦いを見ていると……少し離れた位置で視界に入るものがあった。
フレミアムさまだ。
護衛と思われる人たちと共に、前線へと向かっている。
おそらく、ベリグ王の下へ向かっているのだ。
この戦いを終わらせるために。
………………。
………………。
総大将が自ら?
あれ? そういえば、フレミアムさまの両親である、コンフォードさまとウェルナさまは戦えるが、フレミアムさま自身はどうなのだろうか?
戦っている姿を見たことがないし、何よりそんな話も聞いたことがない。
まあ、護衛と思われる人たちが居るから大丈夫だろうし、そもそもいけると判断したから、ああやって前に出てきただろうから………………正直に言って不安なのだが。
すると、ナイマンと攻防を繰り広げながら、父上が声をかけてくる。
「ジオ。私の友を頼む」
それだけだが、父上が何を言いたいのかはわかった。
ナイマンは父上がどうにかするから、フレミアムさまと共に居て守って欲しい、ということである。
きっと、そうすれば父上は憂いがなくなり、安心してナイマンとの戦いに集中できるはずだ。
「アイスラ。行こう」
「かしこまりました。……どちらへ?」
どちらへ? て、とアイスラを見ると、何やら自分の両手を見ていた。
こう……名残惜しい、とでもいうように。
何が? と思うが、今はそれどころではない。
視線でフレミアムさまを示せば、アイスラは直ぐに納得してくれた。
ナイマンは父上に任せて、アイスラと共にフレミアムさまのあとを追う。
ジオ「もう大丈夫そうだ。下ろして」
アイスラ「………………」
ジオ「あれ? 聞こえていない? もう大丈夫そうだから……いや、なんでそこでさらに強く抱っこ?」
作者「放したくないってことだね。うんうん」