「ルルム王国大戦」 22 サイド 5
――これまでのオール・パワードは。
リアンを戦場から逃がすためにサーレンド大国に捕まったオールは、サーレンド大国の大王都へと連行され、大王であるビギング・アスト・サーレンドと出会い、サーレンド大国に仕えないかと勧誘されるが、拒否。
サーレンド大国で一番強固な収容所へと送られる。
そこで持ち前の純粋なる力を発揮し、同じく収容所に入れられている者たちだけではなく、所員すら魅了して心を掴み、慕われて、収容所内で文字通りの顔役となった。
オールとしては自然なことというか当たり前のことというか、普段通りに過ごしていたに過ぎないのだが、こうなってしまうのである。
そうして、オールは収容所を掌握したようなものだが、ここからどうしたものか、と考えた時、カルーナから秘密裏に便りが届く。
現状を知り、オールは脱獄を決意。
もちろん、収容所の所員たちによって止められるが、それは形だけの抵抗であって、外に馬車まで用意されているくらいであった。
収容所を出たオールは、その馬車でルルム王国を目指す。
途中、百人規模の大盗賊団に襲われている町を、大盗賊団を全員殴り倒して救ったり、ふと立ち寄った村で、近場にある大山に住む邪悪なドラゴンへと生贄に捧げられそうな麗しの女性が居て可哀想だったので邪悪なドラゴンを叩き倒して救い出し、領民に悪政を強いる悪徳領主を見るに見かねて成敗した――と、それ以外にも色々と、世のため人のためといったことをしつつ、オールはどうにかルルム王国に戻ることができた。
また、オールは馬鹿ではない。
自分一人に降りかかる問題であれば、特に何も気にせずにルルム王国の王都を目指していただろう。
そこに敵が居ようとも、すべて倒せば片が付く。
しかし、オールには愛する家族が居る。
カルーナの便りで家族の現状――ジオはヘルーデンに、リアンはおそらくシシャン国、カルーナはメーション侯爵家に居るというのは知っているが、自分が現状で姿を表に出せば、家族が狙われる――特にその段階で居場所が判明しているカルーナが狙われかねない。
それを是とは認められなかった。
なので、オールは身を隠すようにローブを羽織り、顔を隠すようにローブのフードを深く被って、直ぐに王都を指さずに、馬車を休ませる目的で立ち寄ったとしても村までに留めて、ヘルーデンを目指す。
カルーナの便りに、合流を目指すならジオに、と書かれていたからだ。
ただ、ヘルーデンに辿り着くにはそれなりに時間がかかる。
何しろ、今オールが居る場所はサーレンド大国からルルム王国に入ったばかりで、目指すヘルーデンはウルト帝国寄り――つまり、ルルム王国内を端から端に移動するようなものだ。
それでも、まずはジオと合流すると決めて、オールは途中、王都を越え、セントル大平原を越え、ヘルーデンまでもう少しというところで立ち寄った村で、行商で訪れていた商人から、オールは知る。
「……今、なんと?」
「は? ですから、これからセントル大平原で大きな戦いが起こる、と。噂でもなんでもなく、同盟軍と連合軍に分かれていて、今はもう両軍がセントル大平原に出揃っているんじゃないかな? 私個人としては貴族優先のベリグ王やサーレンド大国を応援できないから、やはり同盟軍に勝って欲しいですね。あなたはどうで」
「セントル大平原だと! まさか! 既に通り過ぎていたとは! おそらく、そこで集まろうとしているはずだ! 私も行かねばならない!」
見つからないように街道から外れた道を通ってきたことが仇となったオールは、直ぐに引き返してセントル大平原を目指す。
そうして、オールがセントル大平原に辿り着いた時――既に戦いはもう佳境へと入っていた。
戦場の雰囲気で、オールはそれを察する。
同時に、戦場全体の気配を確認して、オールは家族が無事であることにホッと安堵した。
だが、直ぐに危ない状況――ジオの近くにナイマンが居ることを感じ取る。
何かを考える前にオールは馬車から飛び降りて駆け出し、ナイマンが持つ大筒から玉がジオに向けて飛び出す――そこに、オールは割って入り――。
「なんか危なそうだから蹴り飛ばす!」
文字通り、大筒から出た玉を蹴り飛ばした。
そして――。
「おお! 会いたかったぞ! ジオ! パパだぞ!」
だらしない顔を浮かべてジオを見た。
―――
「ち、父上?」
「パパでもいいぞ、ジオよ……む?」
オールが小さく唸る。
当然だ。ジオからの反応がないどころか、自分を見もしないのだから。
まさか、この短期間でパパの顔を忘れたのか? と思う。
ただ、オールは馬鹿ではない。
空をじっと見ているジオを見て、何をしているのかを察した。
というのも、ジオのギフト「ホット&クール」について、何ができるか、そういう確認のための実験にオールは監督官として付き合ってきたため、ジオの次に理解していると言ってもいいのである。
だから――。
「アイスラよ」
「はい」
「抱っこを代わろう。息子を抱っこするのはパパの役目だ」
集中している息子の邪魔はしないが、抱っこの役目はパパにあるとアイスラに告げる。
リアンと似た反応を見て、やはり親子ですね、とアイスラは内心で思った。
しかし、アイスラが拒否を伝える前に、横槍が入る。
「オォールゥー!」
そこから感じられるのは歓喜。
待ち望んでいた相手に向けて、どれだけ渇望していたかを示すくらいに力の入った声を上げたのは、ナイマンだった。
その声で、オールはナイマンに視線を向ける。
目が合い、ナイマンは浮かべていた笑みをより深くさせた。
「オール! よくぞ来た! 現れてくれた! サーレンド大国から逃れてきたようだな! やはり、あの大国でもお前を抑え付けることはできなかったようだ! だが、お前はそれでいい! そんなお前を今ここで倒せば、私はルルム王国で一番の強者だ!」
ナイマンが大剣と大盾を構える。
「ナイマン。単独でここまで前に出て来ているとは……狙いはフレミアム陛下か? ここから勝利を掴むために、フレミアム陛下を殺してしまえばいい。それができるだけの力が自分にはある、とでも考えたか? 如何にもお前の考えそうなことだ。確かに、お前にはそれだけの力があるだろう。目論見も上手くいく可能性は高い。だが、既に成功はない。なくなった。ここに、私が居るのだからな」
オールが拳を握って構える。
そして、両者は同時に前へと飛び出した。
作者「漸くここまで来ましたね。感想を一つ」
オール「パパが帰って来たぞ~!」
ジオ「あっ、おかえり」
リアン「ああ、おかえり」
カルーナ「おかえりなさい。もうご飯にします?」
オール「……いや、そんな、ちょっと散歩に出たのが帰ってきたみたいなテンションで言われても……あっ、ご飯食べます」