「ルルム王国大戦」 21
視線を戦場の上空に固定して、意識の大半を上空の監視に割いているので、余力はというか余裕はほぼほぼない。
なので、アイスラに戦況を口頭で伝えてもらう。
実際、油断はできない。
シシャン国からの援軍は来たが、開始当初の人数差が覆った訳ではないので、未だルルム・サーレンド連合軍の方が数は多いままである。
その差で、ここから追い込まれる可能性は十分にあった。
………………。
………………。
あった、である。
アイスラが口頭で伝えてくる戦況から判断すると、その可能性は相当低い。
いや、これはもう無理なのでは? と思ってしまうくらいだ。
まず、兄上はシシャン国からの援軍と共にルルム・サーレンド連合軍の一部を切り取るように直進してきたそうだが、その一部がルルム・ウルト同盟軍とシシャン国からの援軍によってあっという間にやられて無力化される。
アイスラが言うには、あまり戦わずに武器を捨てて降伏する人が多かったそうだ。
「おそらくですが、降伏したのはルルム王国の者でしょう。そもそもこれまで戦っていたサーレンド大国が味方になったからと直ぐに手を取り合うのは難しいでしょうから、表に出ていない不満はあったはずです。それが出たのではないかと」
アイスラの見解に同意する。
俺もそういうことだと思う。
そこから、ルルム・ウルト同盟軍はルルム・サーレンド連合軍の前方を攻めて、兄上とシシャン国からの援軍は後方を攻めていったそうだ。
元々ルルム・サーレンド連合軍の主力というか、前衛で戦える者は前方に集まっていたために、ルルム・ウルト同盟軍は中々戦線を押し上げられずにいるそうだが、後衛で戦う者が多い後方は、兄上とシシャン国からの援軍が次々と倒していっているらしい。
その様子を言葉にするなら、快進撃である。
兄上が先頭に立って戦っているそうなので、それでシシャン国からの援軍の士気も非常に高いのだろう。
強い指揮官が前で、共に戦うというのは、気持ちが高揚するものだろうし。
こちらで言えば、父上がそうだ。
総大将であろうとも、誰よりも前に出て、誰よりも戦う。
父上の仲間から、その姿は誇らしい、と口にしている――のを兄上から聞いているし、それに倣って兄上もそうしているのだろう。
「……いえ、リアンさまは、単に早く終わればそれだけ長くジオさまやご家族に共に居られるので、早く終わらせようとしているのでしょう」
……そういう見方もできるかもしれない。
ともかく、アイスラが言うには、最早開始当初の人数差はあってないようなもので、意味はなさないそうだ。
ルルム・ウルト同盟軍の方も、シシャン国からの援軍の士気の高さに呼応して上がり、勢いを増していっているらしい。
そうして、兄上とシシャン国からの援軍がルルム・サーレンド連合軍の後方に居る者を次々と倒していってくれるので、空からの攻撃が目に見えて減っていく。
飛んでくる爆発する玉も、早々に一つ減って二つしか飛んでこなくなった。
その内、さらに一つ減って、一つしか飛んでこなくなりそうだ。
ただ、空かの攻撃が少なくなると、今度は残るワイバーンライダー四騎が出てくる。
空を見続けている俺には、その姿が直ぐに確認できた。
――が、これも問題なく終わる。
ハルートたちが直ぐに対応して、まずは個別にワイバーンライダーを一騎ずつ落とす。
多分、ワイバーンライダーも退くに退けずにで、どうしようもなかったのだろう。
残るワイバーンライダー一騎にはハルートたちが総出で攻め、関係ない立ち位置で見れば、最後の一騎は少し可哀想だと思うくらい何もできずに落ちていった。
天使さんが「成長しましたね」とハルートたちに向けて優しい微笑みを向けていたが……多分、それだけの意味ではない。
ハルートたちが成長する。つまり強くなる。
↓
天使さんの出番がなくなる。
↓
ということは、やることがない。やらなくてもいい。
↓
休暇満喫万歳!
という思考による微笑みな気がする。
天使さんが、「漏らせば……わかりますね?」と一瞬こちらを見たように見えたので、多分間違いない。
もちろん、命が惜しいので言わないでおく。
そんな感じで空中戦は終わり、地上戦も戦況は決しそうで、空からの攻撃ももう止みそうになっている。
もう少しで自由に動けるようになるな、と思った。
――それは、油断を招く。
俺は意識して空を見続け、アイスラは全体的な戦況を見ているために、近場の警戒が抜けていた。
「ワッハッハッハッ!」
突然、大きな笑い声が近くから聞こえてくる。
その声には聞き覚えがあった。
――ナイマンだ。
「いやはや、空から放つ攻撃が何故か消されるから、それならば近付いて敵の本陣に放てばいいと前に出てみれば、こんなところにジオ・パワードが居るとはな! ここでついでにお前を殺しておけば、さぞかしオールが悔しがる……何故こっちを見ない? 空をジッと見ているのだ?」
「………………」
何も答えない。
別に話すくらいの余力はもうあるが、迂闊に話すというか反応すると、俺がやっていることがバレそうだからである。
それに、今はナイマンと戦える状況ではない。
俺もそうだし、アイスラも俺をお姫さま抱っこしている状態なため、今下手にナイマンの注目を集めて戦うことになると不利だ。
……というか、どうしてここにナイマンが居る!
いや、ナイマンが口にした通りの行動の結果だろうけど……なんかナイマンが相手だと納得がいかない。
「………………はっ! わかったぞ! 空から放つ攻撃を消しているのはジオ・パワードが何かしているのだな! そうに違いない!」
馬鹿な! ナイマンに気付かれただと! ……まあ、この状況なら気付くか。
「なら、やはりここで殺しておかないとな!」
ナイマンが何やら身構えたのが、気配から察せられる。
ただ、以前のものとは違う気がした。
どういうことだ? と思っていると、アイスラが少しだけ躊躇いがちに声をかけてくる。
「あの、ジオさま」
「どうした?」
「ナイマンが何やら抱えるくらいに大きな筒を、こちらに向けているのですが」
「は? 大きな筒?」
なんかピンと来た。
その大筒に何かを入れて、その何かを飛ばすのではないだろうか?
具体的に言えば、爆発する玉とか。
上手く使えば遠くまで飛ばせそうだ……ん? 爆発する玉を、遠くに?
「アイスラ! 避け」
言い切る前に、小さな爆発音。
それが爆発する玉を筒から発した音であるなら、アイスラが動き出そうとしているのを感じつつも、もう遅いかもしれない。
大爆発の衝撃に耐え――。
「なんか危なそうだから蹴り飛ばす!」
そんな声と共に、俺の視界の中に玉が空に向かって飛んでいって、超熱空間に当たって焼失した。
それより、今の声はまさか――。
「おお! 会いたかったぞ! ジオ! パパだぞ!」
父上だった。
作者「休暇満喫万歳!」
天使さん「それは私だけです。あなたは働きなさい」
作者「はい……言ってみただけです」