「ルルム王国大戦」 20
ルルム・サーレンド連合軍の空からの攻撃を警戒しつつ対処していると――。
「――オ! ――ジー――」
俺を呼ぶ声が聞こえたような気がする。
アイスラではない。
今はアイスラにお姫さまだっこされているので、呼ばれたのなら聞こえたようなではなく、ハッキリと聞こえるだろう。
ということは、どこか遠くから呼ばれたことになるのだが……誰が?
ただ、どこかで聞いたことがあるというか、兄上の声に似ている?
いや、兄上の気配は感じ取っていた。
シシャン国の援軍と共に現れたのは、ルルム・サーレンド連合軍の向こう側である。
そんな兄上の声が近くから聞こえる訳がない。
「ジー――……ジオ! ジオー!」
今度はハッキリと聞こえた。
うん。兄上の声が。
再び視線を向けたい欲求にかられるが、ルルム・ウルト同盟軍の上空の安全は俺にかかっているので、今はまだ上空から逸らす訳にはいかない。
なので、意識を割いて気配を確認。
……うん。思っていたよりも近くに居てびっくり。こちらに向かって来ている。あれ? ルルム・サーレンド連合軍の向こう側に居たはずなのに……どういうこと? もう少しその周囲の気配に意識を向けると……あれ? もしかして、兄上はルルム・サーレンド連合軍の中を一直線に突っ切ってきたのだろうか?
……いやいや、そんなまさか。いくら兄上でも……いや、できるか。それに、周囲の気配はそうだと物語っている。
あと、ルルム・ウルト同盟軍は、どうして兄上を避けるというか、こちらに続く通り道を作るように開けていくのだろうか?
敵だったらどうする? 敵ではないが。
……ああ、兄上はこれまでウルト帝国軍の援軍と共にサーレンド大国の侵攻を防いでいたから、顔は知られているか。
それで、道を開けているのかもしれない。
なんてことを考えている間に、兄上は直ぐ側まで来ていた。
「ジオ! おお! ジオ! 元気そうで何より! 愛しのお兄ちゃんだよ! ……あれ? ジオ? どうしてお兄ちゃんを見てくれないんだ? 漸く再会できたというのに?」
「いや、兄上、今は戦闘中というか、ルルム・ウルト同盟軍の上空を守るので忙しくて。もちろん、兄上と会えて嬉しい」
「そうか! そうだよな! 私も漸くジオと会えて嬉しい! ……ああ、そうか。ジオのギフトで、熱なり冷なりで防いでいるのだな! えらいぞ!」
兄上に頭を撫でられる。
兄上とは、しっかりと面と向かって再会したかったが、状況が状況だけに仕方ない。
………………いつまで頭を撫でられるのだろうか?
「ところでアイスラ」
「はい。なんでしょうか? リアンさま」
「見たところ、それなりに長くジオを抱っこしているのだろう? なら、そろそろ疲れたのではないか? 私が代わろう。少し休むといい」
「いいえ、大丈夫です。まったく疲れておりませんので、このまま私がジオさまを抱っこしておきます。それより、リアンさまは戦場に赴かなくてよろしいのですか? そのために援軍を連れてここに来たのでは?」
「援軍の方はライが居るから大丈夫だ。上手く指揮してくれている」
ライ、と兄上が親しく呼ぶのは、元王子となってしまったライボルトさまのことか。
え? 兄上と共に戦場に来たの? いや、ライボルトさまが相当戦えることは兄上から聞いて知っているけれど、いいの? 任せてしまって?
「それと、ここには家族と会うために来たのだが? 母さまは来ていると思っていたが、ジオが居たので先に会っているだけだ。それに、兄として、弟の側に居るのは当然のことだと思うが?」
なら、俺に会った訳だし、母上の下へ……いや、違う。
まずはルルム・サーレンド連合軍の方をどうにかするのが先というか、ライボルトさまに任せたままではいけないと思う。
「なるほど。確かに、こうして私がジオさまを抱っこしているように、メイドとして、主人と共に居るのは当然のこと。リアンさまの言いたいことは理解できます」
……あれ? 今、アイスラ同意した?
でも、一旦考えると、おかしい。
アイスラは母上専属なのだから、そこで俺を抱っこしているのは結び付かないと思うのだが……。
しかし、感覚的に、兄上とアイスラは互いに理解できると頷き合っているような気がする。
あと、いい加減撫でるのは止めて欲しい。
いや、気分を害するとかではなく、ここも戦場であることに変わりなく、戦闘中で神経を研ぎ澄まさないといけないのに、色々と弛緩してしまいそうになるからだ。
それに、兄上がここに居るのは戦力的に非常にもったいない。
ライボルトさまも待っていると思うし、戦場に戻った方がいいと思う。
母上には……終わってからでも会えるし、その方がゆっくりと会えるのは確かだ。
なら、兄上を戦場に戻すためには………………。
「兄上」
「ん? どうした?」
「兄上に会えて嬉しく」
「そうだな! 私も嬉しい! 本当に、どれだけ心配したことか! ジオがどうしてここに居るのか、詳しく、余すところなく、すべて聞きたい! まあ、聞き終えたあとに、私が『さすがジオだ!』と言うのは確定しているがな!」
……兄上からの歓喜は十分に伝わってくる。
だが、一旦落ち着いて欲しい。
「思うのですが、ルルム・サーレンド連合軍との戦いが続き、こうして上空を守っている限り、兄上としっかりと再会を喜ぶことができないので、できれば先にルルム・サーレンド連合軍の方をどうにかして頂ければ」
「確かに! その通りだな! 今の状態だとジオと目を合わすことすらできない! この兄に任せておけ! 家族をバラバラにされた恨みがある! しっかりと償ってもらわないとな!」
行ってくる! と兄上が戦場へと戻っていくのを感じ取った。
「……これで、こちらの勝利はもう決まったようなものかな?」
「そうですね。まだ完全に決まったと思うのは危険ですが……まあ、リアンさまが軍隊持ちで現れたのですから、勝敗が確定したと思っても仕方ないかと」
アイスラも、どことなくもう勝敗は決したと思っていそうな雰囲気がある。
そう思っても不思議ではないと示すように、少し経つと――ルルム・サーレンド連合軍の空からの攻撃が減っていった。
作者「じゃあ、ここは間を取って自分がジオくんを抱っこ」
アイスラ、リアン「「あ゛?」」
作者「いえ、なんでもないです。戯言です」